服飾べしゃり力が身につく[小林学の小噺学]
「リーバイス」のGジャンに見るプリーツの不思議【オーベルジュ・小林さんの服飾漫談】
服好き同士のしゃべり場で日夜繰り広げられる服飾トーク。知らなくても生きていけるネタを披露し合う瞬間こそ、服好きには至福のジ・カ・ン。ということで、業界屈指の服飾べしゃり力で洒落者を引き込むオーベルジュの小林さんを指南役に迎え、即話したくなる小噺をレッツ・スタディ♪
オーベルジュ デザイナー
小林 学さん
服飾漫談師
1966年生まれ。ヴィンテージにモードにフレンチと守備範囲は宇宙。べしゃり力も業界随一で、自身のYouTubeチャンネルでも服好き垂涎の小噺を軽快に繰り広げる、服飾亭の止め名。ちなみに題字は愛娘の小林凛さん著!
「プリーツの上にどうして今にも切れそうなしつけ糸が!?」
Gジャンの始祖とも言われている1870年代製の「トリプルプリーツブラウス」
なんでプリーツの上にこんな今にも切れそうなしつけ糸が付いてんの!? リーバイスのファーストとセカンドを見たとき頭に“?”が浮かんだんですよね。補強のためにしちゃ縫製が簡素すぎやしないかって。というかそもそもこのプリーツだって、なんのために採用されてるかわからないんですよ。アメリカのワークウェアなんて合理性命のはずなのに、なんでわざわざこんな手間のかかるディテールを採用したんでしょう?
この2つの謎に出会った瞬間、頭のなかでカ~ンッと鐘が鳴り響いたんです! ほとんどの古着好きはリベットとかタブみたいな、ヘビーデューティなディテールでGジャンを語りがちだと思うんです。でも作り手目線で見たら、プリーツの方がよっぽどロマンがあるでしょ!って。ただ肝心の答えがまぁわからなかったんです(苦笑)。
結局20年近く謎のままだったんですけど、あれは忘れもしない2008年! ネバダ州で1870年代製と言われるリーバイス社最古のデニムジャケットが発掘されたおかげで、ついに真相解明のヒントが得られたんです! 拡大写真を見てみたら、通常縦向きに使われるはずのデニム地が横向きに使われてるじゃありませんか!
当時のデニムは洗うと10%近くも縮んだから、多分縦縮みを軽減するための工夫だったんでしょう。でもそうすると今度は横に縮んで、身幅がキツくなってくるはず。そこで閃いたんです! あらかじめプリーツを設けて洗濯後に縮んでも拡張できるようにしたんじゃないか。簡素なステッチは仮止めだったんじゃないか。ファーストやセカンドに採用されたのもこのジャケットを踏襲してるからじゃないか。結論から言うとこの推理は……見事大正解!!!
2010年代にリーバイス社がこのジャケットを復刻したとき、商品紹介文にこんな一説が書かれてたんです。『これらのプリーツは糸を取り除くことで拡張できるように設計されています』。これを読んだ瞬間の喜びは、それはもう格別でした! ここ最近は異様なヴィンテージブームで、リーバイスのGジャンも値段が天井知らず。
レアものを追い求めるのも悪くはありませんが、こうやって自ら発見した謎を、文字通り紐解いていくってのも、これまたヴィンテージの醍醐味!な~んてね。
❶リーバイスのファースト
1930年代に登場した「ファースト」は、その愛称からリーバイス初のGジャンと誤解されがちだが、上記の通りそれは誤り。だが数あるヴィンテージの中でも人気はトップクラス。
❷フロントのプリーツ
ファーストの時点で、すでにデニム地は現在主流の縦向きに変更されているが、プリーツは健在。「トリプルプリーツブラウス」の名残と知れば、より趣深く見えるはず。
※表示価格は税込み
[ビギン2024年7月号の記事を再構成]スタッフクレジットは本誌をご覧ください。