パッケージデザインAIで味の素のパスタが計画比1.5倍に!【プロジェクトDX】

数年の間に世界を一変させるかもしれない。そんな可能性を秘めたDXにフォーカスする連載「プロジェクトDX」。時代の変化やニーズに、DXを通じて見事に応える優れたサービスの開発者や現場を訪ね、未来を変える可能性や、そこに秘められた想いを紹介していきます。

コンビニやスーパー、ドラッグストアなどで見かける飲料や食品、消耗品。日々手に取るとき、何を基準に選んでいますか? 味? 見た目? 価格? どれも購入意欲を高める重要な要素ですが、今回紹介するDXは見た目=パッケージのお話。パッケージデザインAIが商品の好感度を評価して、売上増につなげているそうです。思わず手にとってしまう、“ジャケ買い”したくなるパッケージの秘密を探ります。

パッケージデザイン
パッケージデザインAIで評価した、パッケージデザインの数々。商品名が読みやすく、色使いも少なめ。シンプルで普遍的なデザインが多いです。

プロジェクトDX 〜挑戦者No.17〜商品パッケージの好感度を10秒で判定する

パッケージデザインAIは、商品パッケージデザインの好感度を評価するDXです。使い方は、パッケージ画像を専用サイトにアップロードするだけ。1020万人分の調査結果を学習したAIが、10秒足らずで好感度を5(好き)〜1(好きではない)の加重平均値でスコア評価します。性別や年代別の好感度、消費者がパッケージのどの部分を見ているかを可視化するヒートマップを表示したり、「かわいい」「おいしそう」「目立つ」などの19のイメージワードを元に商品がどのような印象を持たれているかや好意度のばらつきをスコアリングすることができます。

「たとえば、性別や年代を問わず多様な人に購入を促したいミネラルウォーターやお茶のペットボトル飲料なら、万人受けするかどうかが重要になるため、好感度のばらつきに差の少ないデザインがベストです。同じ飲料でもエナジードリンクなどは、主な購入者である男性の一部の層に好まれるデザインを作ればいいので、好感度にばらつきが大きくても問題はありません」と、株式会社プラグのデザイン部の部長であり、アートディレクターの反迫洋輔さん。

動画内イメージワード
上の19のイメージワードを元に、商品が消費者にどのような印象を持たれているかをスコアリングします。

ヒートマップ
ヒートマップでは、消費者が何に注目するかを可視化できます。「商品名を覚えてもらいたい」なら商品名が赤色になるように、「味を知ってもらいたい」ならベリーのイラストに真っ先に目がいくようにするなど、目的に合ったデザインになるよう試行錯誤できます。

これまで新商品や商品のリニューアルにあたり、好感度を知るにはコストと時間のかかる市場調査が必要でした。場合によっては、ひとつの会場に何百人も人を集めてということも。そのため、デザイン調査をせずに売り出されている商品が数多くあります。

「パッケージデザインAIを使えばコストと時間が大幅に短縮できるため、いままでは調査ができなかった新商品やリニューアル商品も評価することができます」。

事実、これまで2ヶ月ほどかかっていた調査期間がものの10秒に短縮され、数百万円を要した調査コストも1画像あたり1万5000円に削減。定額プランは月50~70万円ですが、ひとつの企業のさまざまな部署、プロジェクト、商品で活用できると考えれば、やはり大幅なコストダウンです。

「特に定額プランの場合は、企画段階でデザイン改良をするたびにAIで評価できます。改善点をさぐり、改良を進めるわけですから、結果的にデザインの質も上がります。何度でも評価できるというのもパッケージデザインAIの利点ですね」と反迫さん。

「現在は、食品、菓子、飲料、医薬品メーカーなど約860社以上が活用しています。カルビーの『クランチポテト』はリニューアル前の1.5倍に、新商品では味の素の『マッケンチーズ』が売上計画の1.5倍にもなりました。ユニリーバ・ジャパンでは全商品でパッケージデザインAIを使って、パッケージ開発を行なっています」とのこと。

株式会社プラグのデザイン部の部長であり、アートディレクターの反迫洋輔さん。
株式会社プラグのデザイン部の部長であり、アートディレクターの反迫洋輔さん。

デザイン生成AIと好感度判定でデザインの民主化が進む!?

そんなさまざまな商品の売上アップに貢献しているパッケージデザインAI。編集部としても「ぜひ好感度判定を仰いでみたい!」と、サンプルとして『Begin』の表紙調査をお願いしました。現時点では雑誌というカテゴリーはないため、ビジネス書としてなら測定できるそうなので、今回はビジネス書として判定を受けることに。

じつはパッケージデザインAIには、好感度判定だけでなく、デザイン生成機能もあります。元となるパッケージデザインを構成する写真やイラスト、文字の色やレイアウトを組み替え、生成を繰り返し、1時間に1000パターンのデザインを作成できます。その結果、狙いにあったパッケージを選定できるというわけです。

下の写真はデモ用飲料のパッケージです。左にあるのが、元となるパッケージデザインを構成するロゴ、イラスト、写真です。右がパッケージデザインAIを使ってできた、ボトルデザインとなります。

パッケージデザインAI 生成

サンプルとして『Begin』7月号のアウトドア特集の表紙を、いくつかのデザインを作成後、デザイン生成AIにかけると、あっという間に1000パターンが表示されました(画像をはっきりお見せできないのが残念ですが)。

その中の、好感度ベスト100を表示すると………。

あれ? 好感度の高い表紙はタイトルなどにわずかな色の違いがあるだけで、ほとんど同じになってしまいました。

「1位と2位がまったく異なるデザインだと、結局何がいいの?と迷う結果になりますが、ほとんど同じならばデザインの傾向として消費者に好まれるということ。ズバリ示してくれるのはAIだからこそ。AIが評価と生成を何度も繰り返し、消費者に好まれるデザインができる仕組みです。私はデザイナーですから、生成AIで作ったものを完成版とするのではなく、AIはあくまでゴールに向かう途中の判断材料として使うのがベストだと思います」と反迫さん。

「画像生成AIが続々と開発される今、経験や知識がない人でも絵がかけ、デザインがひけるようになりました。いわばデザインの民主化です。とはいえ、AIができるのは既存の何かを参考にしたもの。自由な発想で今までにないものをデザインできるのはデザイナーだけだと考えています。AIがあることで、デザイナーが何をすべきかが見えてくる気がします」。

知識ゼロからAI開発?

パッケージデザインAIを開発したのは、デザインとリサーチを2本柱とするプラグという会社です。一見AIとは無縁のように思えますが……。そもそものきっかけは「消費者の方に好まれるパッケージデザインを知りたい」と始めた大規模消費者調査だそうです。2015年から開始して年2回。調査データが増え続ける中で、「データを何かに活かせないか」と考えました。とはいえ、データの活用をAI専門のシステム会社に頼むと費用は何億円にもなります。

そこで担当の坂元副社長が一念発起。社長に直談判して、知識ゼロの状態から1000時間、AI の勉強に集中する許可をもらいました。最初はほぼ独学で、途中家庭教師をつけるなど寝る間をおしんで勉強をしていたそうです。その結果開発したのが、このパッケージデザインAIです。より精度を高めたいと模索する中で出会い、手を貸してくれたのが東京大学大学院の山崎俊彦准教授。坂元副社長は、山崎准教授の研究室に通い、最先端のAI技術を取り入れていくことができました。

反迫さんがアートディレクターとして携わった商品パッケージと
反迫さんがアートディレクターとして携わった商品パッケージと。

「デザイナーには新しくおしゃれなものを作りたい気持ちがあるものですが、AIで評価することで客観性を持てるんですね。斬新なデザインの評価が低いことから、今までにないものとは人気が無かったために定着しなかったものでもあると再確認したり、気づきがあるんですよ」

パッケージデザインAIの今後とは?

「パッケージがどんなに良くても、店頭で棚に入った状態でどう見えるか、どの商品を手に取りたくなるかが一番重要ですよね。デザインとしてはいいけれど、棚に入ると周りの商品に似ているとか、目立つとか、そういった相対的な見え方をAIで評価できるようにしたいと考えて生まれたのが、この夏から始まった最新のサービスです」と反迫さん。

棚

使い方はこれまでとほぼ同じ、競合を並べた商品棚の画像をWeb上にアップロードすると、多くの人が注視する部分をヒートマップで可視化します。実際の商品棚がWeb上で再現でき、自社商品のデザインを決定する際などに、候補の中でより目立つデザインを選べます。パッケージデザイン決定後も使えるのがこれまでと大きく異なる部分。マーケターや営業担当者が、コンビニやスーパーの棚に商品の並び位置を提案するときも参考にできます。

併せて、商品のネーミング評価も新たなサービスとして追加されました。たとえば、5つの商品名を迷っている場合、候補のネーミングを入力して、どれが消費者に最も好まれるかを評価できます。

好意度スコア

上の評価を見ると、似通った5つのネーミングの中で、「ベリーシャイン」と「ベリーフィズ」の好感度が拮抗しているとわかります。日本語だけではなく英語表記も可能なので、海外を拠点とする企業での導入も増えているそうです。

コンビニやスーパーで目にする商品は入れ替わりも激しく、日々しのぎを削っています。商品の目新しさや味、使い心地の追求だけでなく、デザインのブラッシュアップにAIが利用され、売り上げ増に貢献しているとは驚きですね。今まで何気なく見ていた商品パッケージ、これから見る目が変わりそうです。

パッケージデザインAI
https://hp.package-ai.jp/


写真/伏見早織 文/丸山亜紀

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