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納豆マガジン編集長の村上竜一

商業誌と比べて自由度が高い小規模出版の世界。取次を介さないため大きな書店で見かけることは少ないですが、ZINE(ジン)やリトルプレスを扱う本屋さんへ足を運ぶと、作者の“好き”がギッシリ詰まった面白本に出会えます。紙メディアの役割が、多くの人に情報を伝えることから、個人の表現方法へ変わってきているようにも思います。今回のビギニンは、そんな紙媒体の転換期に誕生した『納豆マガジン』の編集長、村上竜一さんです。

前編はこちら

今回のビギニン

納豆マガジン編集長の村上竜一

村上竜一

1993年生まれ。広島出身。納豆マガジン編集長。神戸芸術工科大学のプロダクト・インテリアデザイン学科を卒業後、関西のファッション誌『カジカジ』で編集者として4年間勤務する。現在はフリーランスの編集チーム『STAND MAG』に所属。納豆アパレルブランド『ネバネバビーン』を展開し、納豆イベント「なとぅ屋」を手がけるほか、神戸に古着屋『ロストバード』を出店。自身も雑誌モデルの仕事をしたりと多方面で活躍する29歳。

struggle:
僕らがやらないと雑誌が続かないかなという気持ち

納豆マガジン

当初、数ページの納豆ZINE(ジン)を制作しようと考えていた村上さんでしたが、ひょんなきっかけで、学生時代の友人が個人で立ち上げた出版社『さりげなく』から発行することになり、納豆本はマガジンへと発展します。

「雑誌を作ると決まってからの熱量は凄まじかったですね。自分には納豆しかない!みたいな気持ちになっていたと思います。納豆=710にかけて、71ページにするのもこの時に決まりました」

小金屋食品の糸物語
巻頭企画『豆神7』に選ばれた大阪の納豆メーカー小金屋食品の『糸物語』鰹ダシの効いた白醤油タレを使用している。

出版社でスケジュール管理をしてくれることになりましたが、企画、アポ取り、納豆の商品撮影、取材、原稿執筆など、制作のほぼ全ては村上さんが行いました。

「最初の企画出しが一番頭を使いました。そこがハマってからは…。あ、でも許可取りも大変でしたね。ZINE(ジン)と違って、出版社を通しての発行なんで、掲載する納豆の製造メーカーさんに全て連絡を入れたんです。『こういう本を作りたいんです』とメールや電話で説明して掲載許可をいただく。取材は事前にOKを貰って進行できたんですが、時間がなかったので、商品撮影はとりあえず先に済ませるって流れになり、NGが出て違うものに差し替えたページもありました。あと、一人でやっていて難しかったのは、たとえば原稿を書いている時と編集してる時、物撮りをしている時って、使う脳がそれぞれ違うんですね。切り替えないといけないからその分、時間もかかって。スケジュールもタイトだったので、ずっと、急かされてましたね。助かったのは出版社の中にデザイン部があったこと。デザイナーさんも同じ年代で、連携が取りやすくデザインはとてもスムーズに進みました」

小杉食品のカラフル納豆
『豆神7』に選ばれた三重県の納豆メーカー小杉食品の『カラフル納豆』7種類の豆が使われており見た目だけでなく味や硬さの違いが独特のハーモニーを生む。

編集長の村上さんも、発行元である出版社『さりげなく』の代表も同じ1993年生まれ。物心ついた時からネットがあり、1980〜90年代の雑誌黄金時代は経験していないはずですが、どんなきっかけで紙の本に心を引かれるようになったのでしょうか。

「世代的にはギリギリ雑誌を見ていたんですよ。僕らから3〜4個下になるとまた違ってくると思うんですが、ファッション・カルチャー誌は面白かったという原体験がります。楽しい雰囲気というのかな。シュッとした白が目立つ誌面じゃなく、情報量が多くてわちゃわちゃしてて、どのページを開いても面白おかしく読める。あの感じをやりたいなと。僕らが雑誌を作らないと後が続かないかなという気持ちもありましたね」

そんなバックグラウンドから誕生した『納豆マガジン』。ファッション&カルチャー誌の切り口で納豆を紹介するスタイルはどこか懐かしくて新しい魅力が漂います。

reach:
納豆と雑誌の販売イベント粘覧会(ねばらんかい)を開催

納豆アパレルブランド ネバネバビーンの商品
会場には、納豆アパレルブランド『ネバネバビーン』や納豆用の食器も並ぶ。

村上さんの納豆活動は雑誌制作だけでなく販売にも及びます。コロナが一旦落ち着くと古着屋や書店、飲食店でのイベントを再開。2022年5月には大阪梅田の商業施設NU茶屋町4Fにある多目的スペース『STAND PARK』で粘覧会(ねばらんかい)という納豆イベントを開催しました。村上さんがセレクトした納豆に、生産者を招いた直売会、納豆アパレル『ネバネバビーン』の新作など、納豆マガジンがそのまま誌面から飛び出したようなイベントは大盛況に終わりました。

粘覧会で販売された村上さんオススメの納豆
粘覧会では村上さんオススメの納豆が販売された。普段お目にかかれないものもあり、売り切れ続出。納豆人気の高さが伺えました。

「出版社の方にも手伝ってもらったんですが、6日間のイベントはかなりハードでした。準備にもすごく時間がかかって。ですが、この規模でできたことは自信になりました」

粘覧会

イベントやポップアップなど自ら店頭に立つ村上さんは読者やお客さんと直接話す機会も多いといいます。

「1人で作りましたっていうとみなさん驚かれますね。『好きじゃないとできないよね』『2号目も楽しみにしてるよ』って声はたくさんいただきました。あと『紙の雑誌って良いな』とか『自分もこんなん作ってみたい』と言ってくれた若い子も結構いて、やった意味はあったのかなと思っています」

ものづくり人京都の納豆皿
納豆パッケージを清水焼の「たたら作り」という技法で表現した『ものづくり人京都』の納豆皿。水色と緑は納豆マガジンの別注モデル。

2022年8月10日には待望の納豆マガジン第2号が発売(発行日は7月10日)されました。特集テーマに「ひきわり」を選んだのは、村上さんが苦手だったからだそう。

「あんまり味が好きじゃなかったんですよ。1号では関西の納豆を紹介したので、次は東北が良いなと思ってリサーチに行ったんです。そうしたら、向こうで食べたひきわりがめちゃくちゃ美味しくて。秋田のメーカーだったんですが旨味がすごい。街のスーパーでもひきわり推しが普通で種類も豊富。何でだろうと思って調べたら、昔、秋田で作られていた大豆が大粒だったそうなんです。納豆はまず大豆を炊き、納豆菌を振りかけて発酵させるんですが、大粒だとどうしても時間がかかる。だったら最初に砕いたほうがいいんじゃないかって発想で広まっていったらしいです。ひきわりの食べ方も東北には色々あるんです。あと、ひきわりより更に細かい“きざみ”という納豆もあって、今回きざみが有名なメーカーにも取材へ行きました。これが、作り方も味も僕が今まで食べてきたどんな納豆とも違う、見た目は白く、断片も細かくて粉みたいな感じなんですね。きざみはひきわりとも別物、では、ひきわりとは何なのか、みたいな流れで今回のテーマが決まりました」

納豆の製品ジャケットや納豆をモチーフにした壁紙
『ネバネバビーン』のマスコットキャラクターをはじめ、納豆の製品ジャケットや納豆そのものをモチーフにしたネバネバマインドを高める壁紙。

納豆マガジンを開いた最初のページに「納豆に魅了された僕たちが、納豆に飽きるまで、納豆を追求するマガジンです」と記されていますが、村上さんの納豆への探求心はまだまだ止まる気配はありません。2022年8月17日〜26日には、大阪梅田NU茶屋町で第2号出版記念として再び『粘覧会』を開催予定。納豆マガジン最新号はもちろん、普段は手に入らないご当地納豆も購入できるそうなので、関西の方は足を運んでみてはいかがでしょうか。

納豆マガジン
関西のファッション誌『カジカジ』の編集者だった村上竜一氏が手がけるたぶん本邦初の納豆専門誌。納豆をかっこよく見せるグラビアページ『豆神7』に始まり、納豆アパレルブランド『ネバネバビーン』のスタイリングから、気になる納豆、メーカー&ショップ紹介、美味しい食べ方、工場見学、小説、漫画、アート、納豆を追い求めて編集長自ら日本全国を旅する紀行文などなど、村上さんが誌面のほぼ全てを担当した納豆愛あふれる一冊。8月10日に第2号「ひきわり特集」を発売。発行は京都の出版社『さりげなく』。

(問)納豆マガジン
https://nnbean.stores.jp/

納豆マガジンvol.2出版記念イベント『粘覧会』
期間:2022年8月17日〜26日
場所:大阪「NU茶屋町」
納豆マガジンの最新号はもちろんのこと、希少なご当地納豆、ネバネバビーンのアパレル・雑貨も購入できる。納豆フォトスポット、納豆グラビアの展示も。
最新情報は公式インスタグラムからチェック⇒@mikaramura_natto



写真/中島真美 文/森田哲徳

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