特集・連載
由来を知るともっとウマい! GYUGYUっと牛革ローファー祭り
名作オリジン探訪 ヴィンテージ界には、さまざまなブランドから元ネタとして寵愛されている、男服の“オリジン”が存在します。そのどれもが玄人筋から“わかってるねぇ”のお墨付きが得られる名作ばかり。ですが、ここではさらにU-3万円というリアルプライスで買える、優良元ネタ服を一挙にご紹介。安くてウマいオリジンをご賞味あれ〜。 この記事は特集・連載「名作オリジン探訪」#04です。
ここでは“ビーフロール”と“ホースビット”という、ローファーによく用いられる2つの意匠のオリジンを探訪。どちらも簡素な印象に陥りがちなカーフのローファーを、嫌味なくコク増ししてくれる秀逸ディテール。定番好きならギュギュッと頭に叩き込んでおくべし。
ビーフロールローファー
ここがオリジン[サドル端の補強ステッチ]
ソソる重厚仕様がウマい!
ベルトと甲革を接合するために補強パーツをかぶせ、ロウ引きした麻糸で補強する……な〜んて手間ひまかけて採用されるビーフロール。ローファーの重厚感を底上げする通好みな意匠としてお馴染みだけど、そのオリジンは1946年に創業した米国のセバゴなんだとか。
今ではローファーの生みの親とされるG.H.バスもこの意匠を取り入れるなど、ローファーの定番ディテールとして浸透。ちなみにその呼び名は、タコ糸を巻かれたローストビーフに似ていることから。思わず舌なめずりしてしまいそう(笑)。
ビットローファー
ここがオリジン[ホースビット]
馬具由来の優雅なあしらいがウマい!
他のローファーに比べて断然エレガン度に勝るビットローファー。その誕生は1950年代。生みの親はかのグッチとされている。この世界的メゾンは、1921年の創業時からず〜っと“乗馬”をアイデンティティとしてきており、手綱を装着する際に馬の口に噛ませる金具の「轡」をモチーフとして、この金属装飾を考案した。
2つのリングをバーで結んだ、“遊び”と“品”を両得する意匠を、世界中のファッション巧者たちが大絶賛! その結果、似たようなデザインの装飾をあしらうフォロワーが続出し、ホースビットローファー自体が、れっきとしたローファーの1ジャンルとして確立されることと相成ったんだそうな。
タッセルローファーの発祥とは?
上で紹介したビーフロールやホースビットと並ぶ、ローファーの代表的意匠として親しまれている“タッセル”。この風変わりな飾りは、いつ、なぜ付けられることとなったのか。そこにはかのオールデンと、あるアメリカの名優による蜜月関係が起因していました。
タッセルの誕生は1948年。発端はオスカー俳優のポール・ルーカスとされています。一説によると彼は英国で房飾り付きの靴を購入し、米国に帰国後、多くの靴店に“もっとカッコよく、シンプルにして!”とオーダーしていたんだそう。
しかし完成品に満足できなかった彼が諦めきれずに依頼を繰り返した結果、頼まれたお店が“ココなら作れるはず!”とオールデンに泣きついたんだとか。同社は依頼に応えるため、名門ゴルフ場から命名した伝統的な“アバディーン”ラストを採用しつつ、まったく新しいデザインを考案。
かくしてタッセルローファーの誕生と相成ったわけです。ポール氏も大いに気に入り、同社はブルックスのOEMも請け負うこととなり、タッセルはアメトラを象徴する一足に!
無茶ブリで生まれた房飾り付きローファー
[タッセルローファー]
オールデンが作製した世界初のタッセルローファーは、70年以上の歳月のなかで、数えきれないほど多くの真似っこを生むこととなった。ちなみにオリジンに使われていたアバディーンは、同社のなかで最も細身でエレガントなドレスラスト。カジュアル色の強いローファーにあって、ビジネス使いしたい洒落者に愛されるのも納得だ!
[ビギン2022年7月号の記事を再構成]文/黒澤正人 イラスト/TOMOYA