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ガラムマサラ

本間昭光

本間昭光

プロデューサーとして、アレンジャーとして、作曲家として、誰もが口ずさめるヒットソングを数多く生み出してきた本間さんは、大のモノ好き。興味を持ったらとことん!な性格から、あらゆるモノに深い思い入れがあります。そんな本間さんの愛するモノの中から、音にまつわるアイテムにフォーカス。その魅力&エピソードを語っていただく連載、♯07のお題はちょっぴり趣向を変えて「カレー」。業界随一のカレー好きヴァイオリニスト、NAOTOさんをゲストに迎え、音楽とカレーの意外な接点を明かします!!

NAOTO

Guest / NAOTOさん

1973年、大阪府生まれ。東京芸術大学音楽学部器楽科卒業。クラシックからポップスまでジャンルを限定しない独創的なスタイル、パフォーマンスで人気を博す。ミュージシャンからの信頼も厚く、ポルノグラフィティのライブサポート等も担当。人気ドラマ「のだめカンタービレ」ではオーケストラの選考から携わり、吹替演奏、楽曲提供、ゲスト出演も果たした。大がつくカレー好きで、日本スープカレー協会理事を務めるほか、カレーマイスターの資格も持つ。15周年記念ライブを収録した限定DVD「NAOTO 15th Anniversary Live –The New Black-」が発売中。

美味しいカレー屋さんは大概
気難しいアーティストである

本間 音楽業界って、カレー通が多いじゃない?

NAOTO ものすごい多いですよね。

本間 なかでもNAOTOさんはすごくて「日本スープカレー協会」の理事までしている(笑)。今日はその類い希な環境ならではの話をうかがえたらと。

本間昭光とNAOTO

NAOTO ありがとうございます。まず日本スープカレー協会の理事を務めるにいたった経緯についてお話します。協会の発足にあたり、当たり前ですが最初はスープカレーのお店の人たちが動いたんですね。でもカレー屋さんは経営に忙しいうえ、みんながアーティスト。変わり者が多くて、全然仲がよくない(笑)。こだわりがすごいので「なんでアソコと手を組まなきゃいけないの?」みたいなことが多々あるわけです。そういうお店のおじさんを口説ける人間は誰だ!?となったときに、そうだあの金髪だ!と、旅芸人を続けながらいろいろなスープカレー屋さんに足を運んでいたボクに声が掛かった。それで気難しいお店のおじさんを口説いて回って協会ができ、「NAOTOくんいろいろやってくれたから」と理事になった次第です。15年近く前の話です。

本間 へぇ〜。スープカレーといったらマジックスパイスの印象が強いけど、コンビニにここのカレーが置かれ始めたのってどのくらい前でしたっけ?

NAOTO 20年くらい前ですかね。明治製菓さんが出して、サンクスさんが扱っていました。スープカレーという単語を作ったのがマジックスパイスです。

本間 当時はボクも見つけたら買っていましたよ。だからNAOTOくんがそんなマジックスパイスの人と仲がよくて、スープカレー協会の理事をやっていると聞いたときは、アナタは一体何者!?と思いましたよ(笑)。ミュージシャンが集まってやっている“カレー部”の人たちとも仲がいいよね? 誰が部長をやっているんだっけ?

NAOTO ボクが昔からいるところのカレー部の部長は、ピアニストの松本圭司。会長はゴスペラーズの黒沢さんがされています。ボクが部長をしているカレー部もあって、そちらは花*花のいづみちゃんやスキマスイッチのお二人がいたりします。ちなみにカレー好きではホフディランの小宮山さんとか、森山直太朗さんも有名ですね。

「根」が似ているから、音楽にこだわる人は
必然的にカレーにもこだわる

──なぜ音楽業界の人はカレーにハマるんでしょう?

NAOTO 音楽とカレーはこだわる部分が似ているからだと思います。楽器の反復練習をして、これをこうしたらどうなるのか?を追求していくのと同じで、カレーもこのスパイスを入れたらどう変わるんだ?とか、入れるタイミングを変えたらどうなんだ?とか、そのときの温度や油の量がどうなるとこうなんだ?とか、炒める時間やタマネギの種類もそうだし、切り方でも味が変わってくる。こういう変化が「お〜っ!」とわかるのが楽しいんですよね。

本間 レコーディングスタジオでもスタジオの温度湿度、楽器をどのくらいの時間その空気に馴染ませているかだとか、どういうマイクを使うのか、そのマイクは何年製くらいのものなのか、何メートルのケーブルでつないでいるのか、モニター環境はどうか、そしてエンジニアはそれらをどう活かすのか?によって全然変わってくるもんね。

NAOTO ええ。同じ機材でも個体差や経年劣化で音が違ってくるから、「Aスタの何番のマイクが空いていたら置いておいてください」とボクらは指名しますものね。カレーでもいつも使っている自分の家のキッチンでは火加減がわかりやすいですが、別のところへ行くと難しかったりする。あと、同じ産地の野菜を使ったとしても、スープに使うお水が違うと味が変わっちゃう。同じ味を出すのが難しいのはそこなんですよね。

マジックスパイスが東京の下北沢へ出店したときも、当初味が全然違って面食らいました。それで現地とは何が違うの?と聞いたら、まずどんぶりの大きさが違って。当たり前ですけど、すると具材から出る出汁の量も変わってきますし、加えて水も違うとなれば、やっぱり同じものはできない。結局、お金をかけて浄水器を入れて、どんぶりも全部廃棄して本店と同じ大きさのものを揃え直した……という逸話があります。

本間 こないだそういう話を、YMOのシンセサイザーオペレーターをしていた松武秀樹さんから聞きましたよ。アメリカで作られたシンセサイザーはやっぱり、アメリカに持っていって弾いたときが一番いい音がすると。そこの電流電圧で調整して作り上げられたものなんだから、そりゃそうですよね〜と納得したのを思い出しましたよ。ちなみにヴァイオリンだと、どう?

NAOTO ヴァイオリンも弾く場所によって全然、音が違います。日本は湿度が高く、音がお客さんに届くまでの間に幾重にも「水」のブロックがある。ヨーロッパではそれがないので、音の届くスピード感と響きが変わってくるんです。ただ、日本でも津軽海峡を渡ると緯度がヨーロッパに近づいて気候もカラッとするので、札幌まで行くとヴァイオリンも音がよく聴こえますよ。もちろん、乾燥しすぎてもダメですけどね。

NAOTO

本間 黒澤明さんの後期の映画音楽をされている作曲家の武満 徹さんとか、録音はサッキョウ(札幌交響楽団)だったもんね。

NAOTO そうですね。もしくは札幌にある芸術の森(レコーディングスタジオ)で。向こうにお住みになっていましたしね。坂本龍一さんもよく芸術の森を使われています。

──なるほど、そこまで音にこだわる人がカレーを作ると……同じようにこだわるということですね。

NAOTO そうですね。でもボク、最近は家でほとんどカレーを作らなくなっちゃいました。これだけいろいろな場所へ行けるお仕事なので、なかなか自宅で料理をできる機会がないんですね。すると、せっかくスパイスを買っても使い切れない。そのうちにどんどん酸化して捨てなきゃいけなくなるし、よくよく計算するとカレー一杯3000円とか5000円とかとんでもない額になっちゃってる(笑)。同じお金があれば、どれだけ美味しいお店のカレーが食べられるんだ!と思うと、もう作らなくていいやとなってしまいました。

ターメリック、カルダモン、クミンは
スリーピースバンド!?

──やっぱりスパイスはたくさんの種類を使うんですね?

NAOTO ただ、日本人がカレーと判断している味というのは、ターメリックとカルダモンとクミンなんです。だから極論をいうと、カレーにはこの3つさえあればよくて、これらをきちんと使えれば美味しいカレーはできる。「うちは三十何種類のスパイスを……」というお店なんかを見ると、ホントに味を判断できているのかな?と疑っちゃいますよね。もちろんこだわっていて美味しいお店もありますけど。

──なるほど。好きなスパイスはありますか?

NAOTO いろいろありますけど、いつもクローブと答えています。苦みと香りが特徴的なスパイスですね。隠し味として使うのは簡単なんですが、ナックルボールみたいにクセのあるスパイスなので(笑)、これを前面に押し出して美味しいカレーを作るのは相当の腕がないとできない。クローブを上手に使うという点では、神保町にある「エチオピア(本店)」さんはトップだと思います。

エチオピアのカレーライス

1988年、神田小川町に一号店をオープン。以来、カレー激戦区・神保町を代表する名店に。クローブのエキゾチックな香味が立ちながら嫌みのない味は唯一無二で、中毒性高し。

本間 ボクもエチオピアさん美味しいなと思ったけど、さすがにそんなことまでは考えなかったな〜(笑)。

NAOTO あそこがすごいのは、作るときもそれなりの量のクローブを使ってらっしゃると思うんですけど、最後にまたクローブを振りかけるんですよ。それでトゥーマッチに感じさせないというのが素晴らしい。高校生のときに初めて行って、以来30年くらい通っています。

本間 味は変わらない?

NAOTO 変わらないです。

本間 それはスゴいね。

──無茶ぶりかもしれませんが、クローブをもし楽器に例えると?

NAOTO スパイスを楽器には……なかなか例えられないんじゃないですかね(笑)。なんだろう?

本間 でも、さっき言っていた基本の3つのスパイスは、楽器の構成要素かもしれないですよね。

NAOTO そうなるとターメリック、カルダモン、クミンはスリーピースバンドですね。ベースとドラムとギター。

楽器とスパイス

本間 それでリズム、メロディ、コードすべてを出すというね。そこにちょっとしたパーカッションを入れようとか、管楽器、弦楽器を入れてみようとか、そういう例えができるかもしれない。

NAOTO そうですね。するとクローブは……なんだろう。一番扱いが難しいからな〜。バンドもので扱いの難しい楽器ってなんでしょうね?

本間 和楽器とか。

NAOTO ああ〜。

本間 全然違うものを入れるというね。でも今では和楽器バンドなんてのもあるし、組み合わせが難しいと思われるものでも、やっぱりやり方と腕次第でしっかり成り立つ。カレーでも音楽でもね。

本間昭光

NAOTO ちなみに、今日スタッフさんが持ってきたカレーの本にはクローブについてこう書いてあります。「繊細なスパイスなのでレシピどおりの分量で使いましょう」と。やっぱクローブはクセものなので、いらんことをするなということですね(笑)。この本の著者は東銀座にある素晴らしいカレー屋さん「ナイルレストラン」の主の息子さんですが、ホントに上手な方なんですよ。

本間 ナイルレストランって、カレーが好きな人はみんな行っているよね。

NAOTO ええ。だってインド料理を日本に広めた一番のお店ですよ。塩とスパイスのバランスがすごすぎて。ボクもそうなんですけど、今のカレー屋さんってどうしてもスパイスを入れすぎてしまう。そうじゃなくて美味しいカレーが作れる強さっていうのは、本当にすごいと思います。

本間 演奏とかと同じだね。

NAOTO もう、ビートルズですよ。

本間 シンプルかつ必要なものを必要なだけ。やたらめったらと装飾しないという。そこが大事なのかなと。

ナイルレストランのムルギーランチ

1949年に銀座に創業した、日本におけるインド料理店の草分けが『ナイルレストラン』。名物は『ムルギーランチ』で、たっぷりの鶏もも肉や温野菜、ルウとライスを最初に混ぜて食べるのが作法。具材の旨味、スパイスの香味が一体となったそれはカレー通も唸る。

NAOTO ええ。ただナイルレストランには一つだけ文句があって。ここの定番のムルギーランチはチキンをバラバラにほぐしてマッシュポテトや野菜と一緒にカレーに混ぜて食べるのがセオリーで、たしかに混ぜたほうがウマいんです。でも毎回、食べる前のさあ写真を撮ろうというタイミングでナイルさんが来て、「混ぜてね〜」っていわれる。も〜わかってるよ!今からやるから!と。それに、たまには混ぜないで食べてみて、それぞれの味も知りたいじゃないですか。でもいざ混ぜないで食べようとすると案の定「混ぜて食べるのよ〜」と。その突っ込み何百回目だよ!と(笑)。ナイルさん、本当に最高な人。大好きです。

おウチカレーを激変させる3種の神器とは? ミュージシャンにカレー好きが多い理由〈後編〉 へ続く

本間昭光

本間昭光(ほんま あきみつ)
1964年大阪生まれ。’88年に「マイカ音楽研究所」に入学。松任谷正隆氏に師事し、作曲アレンジを学ぶ。’89年、上京とともに「ハーフトーンミュージック」に所属し、アレンジャーやサポートミュージシャンとしての音楽活動を開始。’96年に自身のプロダクション「bluesofa」を設立する。

’99年にak.homma名義でポルノグラフィティのトータルプロデュース・作曲を担当。「アポロ」や「サウダージ」等のヒット曲を数々生み出す。2009年には、いきものがかり「なくもんか」の編曲を担当し、その後も「ありがとう」など、多くの楽曲のサウンドプロデュースを担う。最近ではアレンジを手掛けた筒美京平先生のトリビュートアルバム『筒美京平SONG BOOK』が発売中。また2020年にバンダイナムコアーツとともに立ち上げた「Purple One Star」レーベルでは、レーベルプロデューサーを担当。80’sの世界観を完全に再現した第一弾アーティスト、降幡 愛が話題。4月18日には、初の7インチシングルレコード「AXIOM」をリリース。MVはこちら↓↓↓

降幡 愛オフィシャル YouTube Channel
https://www.youtube.com/channel/UCWfhLoV53Rwdc9WGw735IUg

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