服飾べしゃり力が身につく[小林学の小噺学]
小林学さんも再現した、ユーロワーク界の花形「コルビュジェジャケット」の正体
服好き同士のしゃべり場で日夜繰り広げられる服飾トーク。知らなくても生きていけるネタを披露し合う瞬間こそ、服好きには至福のジ・カ・ン。ということで、業界屈指の服飾べしゃり力で洒落者を引き込むオーベルジュの小林さんを指南役に迎え、即話したくなる小噺をレッツ・スタディ♪
![オーベルジュ デザイナー 小林 学さん](https://www.e-begin.jp/begin_cms/wp-content/uploads/2024/07/c_2408_kobanasigaku_2_05.jpg)
オーベルジュ デザイナー
小林 学さん
服飾漫談師
1966年生まれ。ヴィンテージにモードにフレンチと守備範囲は宇宙。べしゃり力も業界随一で、自身のYouTubeチャンネルでも服好き垂涎の小噺を軽快に繰り広げる、服飾亭の止め名。ちなみに題字は愛娘の小林凛さん著!
《コルビュジエジャケットの正体》
「美意識の高い巨匠はなぜ無名の支給品に惹かれたのか……」
市井の民に向けて作られたこの製品を巨匠は溺愛し、その着用写真が多く残されている。
あらゆるジャンルが高騰してるヴィンテージ界のなかでも、ユーロワークの白熱ぶりはホントに凄い! ほんの少し前まではごく一部のマニアしか見向きもしなかったのに、今じゃ広い層の服好きが狙いを定める人気ジャンルになってます。
必然的に相場も怖いくらい上がってて、古くからのファンとしては嬉しいやら悲しいやら。やっぱり雄々しいアメリカのワークウェアとは雰囲気が異なる、洒脱なアイテムに心惹かれるんですよね。
ただこのユーロワークという広〜い括りのなかでも、意外とありそうでないのがレザージャケット。日本に流通する古着のなかにたまたまないだけなのか、もともと作られていた数自体が少なかったのか、理由は定かじゃないんですが、特段ニッチなアイテムでもないのに、なぜかほとんど見当たらない。
そんななか、ほぼ唯一と言えるユーロワーク界の花形レザージャケットが、この通称『コルビュジエジャケット』です。その名の通り、建築界の巨匠ル・コルビュジエが愛した超名品なんですが、実はこれ、もともとはフランスの国営企業や公務員向けの支給品だったものだとか。
そう。そここそがまさにフレンチ好きがロマンを感じるポイント! もしこれが世界的メゾンの製品だったら、先生やっぱりさすがですねで終わりだったはず。その辺のガスの検針のオジさんなんかが着てるような、ごくありふれた製品を、世界的レジェンドが愛したってギャップにグッとくるんですよね。
マーロン・ブランドやエルヴィスみたいな、アメリカのレザージャケットアイコンも、たしかに無骨で憧れるけど、正直身も心もマッチョじゃなきゃあんな風にカッコよく見えない(苦笑)。その点コルビュジエ先生は、佇まいこそ威厳に満ちてますが、身体の造形自体はごく庶民的。だから自分のようにマッチョな装いに尻込みしがちな服好きが、コルビュジエジャケットに手を伸ばすのかなって。
ちなみにこのダブルのレザージャケットは、20世紀初頭にアメリカで愛されていたカーコートを、フランス人が独自解釈して発展させたもの。洒脱なのに、母国アメリカではカーコートが激減したことを踏まえると、改めてフランス人の感度の高さに驚かされます。
❶コルビュジエジャケット
仏政府が1940〜80年代頃、主に国家公務員に支給。ラッカー仕上げの成牛革や、ボタン付け部の補強テープなどが目印。小林さんは自身のブランドでもこの名品を再現している。
❷ボンジュール ムッシュ ル・コルビュジエ
1988年に出版された世界的写真家ロベール・ドアノーの絶版写真集。自宅でもアトリエでの作業時でもこのジャケットを着たコルビュジエの姿が多数収められている。
※表示価格は税込み
[ビギン2025年2月号の記事を再構成]スタッフクレジットは本誌をご覧ください。