嘘だろ!?プロスポーツの中継映像が草スポーツで完全再現!? 「STADIUM TUBE」が凄い【プロジェクトDX】

群馬メインアリーナ

数年の間に世界を一変させる可能性を秘めた「DX(デジタルトランスフォーメーション)」にフォーカスする連載「プロジェクトDX」。時代の変化やニーズにDXを通じて応える優れたサービスの開発者やその現場を訪ね、未来を変える可能性やサービスに込められた思いを紹介していきます。

今やYouTubeやInstagram、TikTokなどで、個人で動画を録画、編集して配信することが当たり前の時代となりました。そんななか、Beginはスポーツテックのイベントにて、あるAIカメラサービスを発見。それが今回取り上げる「STADIUM TUBE」です。2020年に始まったばかりで、一般的にはあまり馴染みのないこちらのサービス。まずは概要を説明していきましょう。

プロジェクトDX ~挑戦者No.20~
スポーツの試合や練習を無人で撮影、編集、配信できる!

2020年設立のNTTスポルティクトが開発したSTADIUM TUBE。おおまかにいうと、スポーツの試合、練習の動画を無人でAIカメラが録画。さらにこれを自動で編集して配信を行うサービスで、カメラを設置するだけでLIVE配信も可能です。ちなみにこちらのサンプル動画を見てもらうのが手っ取り早いので、ぜひご覧ください!

ご覧いただけました? こちらのサッカー、バスケットボールの試合の動画、まさにSTADIUM TUBEのカメラを設置して、あとは撮影しただけ。カメラマンがボールや選手を追っているわけじゃありません。ドリブルで敵陣に攻め入る選手も、カメラが勝手にズームしてるんです。しかも録画映像だけでなく、リアルタイムでライブ配信も可能。

つまり、学生やアマチュアレベルの試合でもテレビのスポーツ中継のように観戦を楽しむことができるんです。例えば「仕事で子供のサッカーの試合を観に行けない」てな場合でも、職場でリアルタイム観戦、もしくは自宅に帰ってからの録画観戦をこのクオリティでできるってわけ。

上のサンプル動画のカメラは競技場などに設置できるので、テレビでは中継されない大会の試合映像を配信することで、出場者を応援する方々に喜ばれています。さらに、三脚を使って試合会場に都度設置し、撮影、配信することも可能です。

ちなみに米国では、野球中継においてメジャーな存在なんだとか。またスポーツチームの練習にも活用されており、練習でのプレー、動きやフォーム、チームでのスペースの使い方などを撮影し、チーム力向上の分析、個人のスキルアップに役立てられています。例えばサッカークラブの超名門、FCバルセロナも導入してるんですよ! スポーツ好きならこの事例だけで、いかに信頼できるテクノロジーなのかがわかるでしょう。

他にも、自分たちで競技場や体育館に持ち運んでアプリ上から誰でも簡単に撮影することのできる可搬式のAIカメラもあります。

STADIUM TUBE フルラインナップ
常設/可搬、野球専用カメラなど様々なタイプのAIカメラがある。これらで撮影、自動編集し、配信までできる。

なぜ無人でこのような撮影が可能かというと、イスラエルのピクセロット社が開発したAIカメラを使っているから。このAIカメラはさまざまなスポーツの動き、ルールを学習し、サッカーや野球といった球技から体操やレスリングなどにも対応。現在は16の競技(※撮影対応競技数は機種によって異なる)を滑らかに配信していますが、今後も対応競技の数は拡大していくそうです。

イスラエルとのレクチャースクリーンショット
競技の戦術構築にも活躍する。

クオリティの高さもさることながら、STADIUM TUBEは撮影、編集、配信の制作コストを約9割も削減することが可能。これもまさに、世界を一変させるかもしれないDXの一つでは!? というわけでこうした先見の明を持つ、STADIUM TUBE を提供するNTTスポルティクトに取材を敢行。加えてSTADIUM TUBEを練習場に導入し、チーム強化に活用しているBリーグのバスケットボールチーム、群馬クレインサンダーズにも話を伺ってきました。

「日本でも当たり前になる。そう直感しました」

NTTSportict 代表取締役社長 中村正敏さん
NTTSportict 代表取締役社長 中村正敏さん

こちらがSTADIUM TUBEの可能性を見出した中村さん。もともとは親会社のNTT西日本でマーケティング戦略を担当。そして10年ほど前に、あるベンチャー企業と出会い、ベンチャー企業の心意気や覚悟に感銘を受け、ベンチャー企業とのビジネス環境を整えるオープンイノベーション推進室を立ち上げます。そして2018年、朝日放送の友人から教えられたのがSTADIUM TUBEの礎となる、ピクセロット社のAIカメラでした。

「アメリカのCESでこのS1というカメラを見つけてきて、私に興奮しながら『こんなのがある!』と教えてくれました。そのとき直感で思ったんです。これはすごい。ビデオカメラを使って人が撮る必要がなくなる。そんなことができたらすごいな!と」

直感したのには、中村さんの原体験がありました。中村さんはお子さんのサッカーの試合を、高校生までビデオカメラで撮り続けていたそうで。

「ずっとファインダー越しに試合を撮影してるんですけど、結局、息子の試合は見れてないんです。応援すらもできてない。もちろん動画の編集もできてなかった。他の人の場合だと、仕事で忙しくて応援に行けないという親御さん。応援したいけど会場に行けないおじいちゃん、おばあちゃんもいたりね。この編集までしてくれるAIカメラがあれば、そうした残念な思いがなくなる世界がくるんじゃないか、と思ったんですよね」

その後、実際にピクセロットのAIカメラを使った映像を見た中村さん。その映像はプロスポーツの試合だったそうですが、無人で撮影しているのに、あたかもプロが撮影しているかのような映像を見て確信。会社を設立しようと決意します。

「とくに米国では大学スポーツ。欧州ではサッカーの競技場に導入されている実績がありました。また撮影するだけでなく、ポータルサイトを作って配信するまでのプラットフォームもあった。私もただカメラを販売するだけじゃなくて、配信までのプラットフォームを作らないとビジネスにならないと考えていました。それからすぐに5社とコンソーシアムを作り、日本国内での実証実験を行い、STADIUM TUBEのプラットフォームを開発。そして会社設立のために残ったのが、うちのNTTと朝日放送さん。2020年4月に共同出資によるNTTスポルティクトを設立しました」

NTTSportict 代表取締役社長 中村正敏さん

なんとピクセロット社のAIカメラを知ってから、会社の設立までおよそ1年半! スピード感に驚きを示すと、

「もう勢いが大事でしたね。しかも日本では誰もやってないことだったから、なおさら早くやりたいと。日本では馴染みのないスポーツビジネスですが、今後を見据えると絶対に可能性があると思っていました。だってカメラマンやスタッフの人件費、撮影配信にかかるコストを1/10にできるんですから。マンパワーも少なくなっている時代ですしね。ちなみに今ではみんなスマホを持ってるでしょ? ひと昔前は誰も持ってなかった。けど今じゃ当たり前なもの。進化したテクノロジーは一般化していくものなんです」

「無人でこんなことまでできるの!?、と驚かれます」

営業部 徳山侑里さん
NTTSportict 営業部 徳山侑里さん。群馬クレインサンダーズの担当も務める。

まずSTADIUM TUBEを売り込んだのはスタジアムや体育館など、施設を持つ自治体。またスポーツ競技の協会やスポーツチーム。ここで営業部の徳山さんに、お客さんの当初の反応を伺ってみると、

「どのお客様もファーストインプレッションはいいものばかり。『え、無人でここまでのものができるの!?』と、驚かれる方が多いですね。今もそうしたいい反応は変わってないですね」

早速導入する自治体やスポーツ施設が、続々と増加しています。例えば群馬県サッカー協会は開催試合撮影、配信のため、可搬式のAIカメラを2台導入。試合映像をGuFA TV(YouTubeチャンネル)などで配信することで、群馬県におけるサッカーの普及に努めています。協会の理事によれば、「STADIUM TUBE導入以前はスタッフや控え選手が撮影していたが、自動撮影によって作業が効率化した。人が撮っているとプレーへの反応が遅れることがあったが、AIカメラによって解消。安定した撮影が可能になった。また三脚が5mまで伸び、高所からの見やすい撮影が可能になった」と喜びの声が。

秋田県大館市はスポーツDXの取り組みとして、自治体野球場のニプロハチ公ドームに常設タイプのAIカメラを設置。自治体野球場では日本初の完全無人野球中継を可能にし、さまざまな試合をライブ配信。地元企業のWEB広告を挿入したり、映像をDVD化して販売するなど、さまざまな事業の展開につなげています。

「今後、導入するスポーツチームは、確実に増えると思う」

群馬クレインサンダーズ アシスタントコーチ兼スカウティング 西柳信希さん(左)、GM 吉田真太郎さん(右)とNTTSportict 代表取締役社長 中村正敏さん(中)。

スポーツチームは練習場にSTADIUM TUBE のAIカメラを設置し、コーチング分析へ活用。例えばBリーグの群馬クレインサンダーズは、練習場のサブアリーナにAIカメラを常設しています。アシスタントコーチ兼スカウティングを務める西柳さんに話を聞くと、「私たちのチームは映像をすごく活用していて、練習映像を分析、選手と共有して試合に臨みます。

というのもバスケットボールはスペーシングがすごく重要なスポーツだから。『この場面は、このスペースを使えばよかったよね』と、具体的に分析したり、選手にフィードバックすることでチームの強化につながると考えています。練習後にすぐ映像を見られる点も選手から好評です。コーチングスタッフも映像作業に割く時間が減り、練習メニューを熟慮できるメリットがあります。

現在、Bリーグでは3チームがAIカメラをコーチング分析に導入していると聞いていますが、今後は絶対に増える、スタンダードになっていくと思います。また選手にとっては、そのチームに所属したいと思える一つの要素になると思いますよ」

西柳さんによれば「群馬クレインサンダーズの練習場、オープンハウスアリーナ太田のサブアリーナは、カメラが撮りにくい構造で、撮影に苦戦していました。ただSTADIUM TUBE のAIカメラでデモを行ったところ、コーチングスタッフが求める映像、クオリティにしっかり応えてくれた。またライブコーディングのスピード感も素晴らしい。NTTスポルティクトの方々ともフィーリングがあったというか、一緒にやりたいと思えたのも導入の決め手でしたね。」

また、群馬クレインサンダーズの広報・山野竜晟さんにも話を伺ったところ「映像を選手のストーリー性を伝えるツールだったり、SNSにも活用したり、ファンエンゲージメントにも拡張していきたいと考えています」

群馬メインアリーナ
盛り上がりを見せる群馬クレインサンダーズのホームゲーム。

「バスケで群馬を熱くする」を理念として掲げる群馬クレインサンダーズ。ホームのオープンハウスアリーナ太田での試合は、まるでNBAのような盛り上がりを見せる。

営業部 サービスエンジニア 森 界章さん
NTTSportict 営業部 サービスエンジニア 森 界章さん

AIカメラは設置後もアングルの変更などが可能です。NTTスポルティクト、映像サービスエンジニアの森さんによると、「弊社で遠隔操作によってアングルや撮影するポイントの調整ができます。つい先日も群馬クレインサンダーズから、『もう少しアングルを調整したい』というお話があり、対応させていただきました」

これに対し群馬クレインサンダーズの西柳さんは「バッチリでしたよ!」と、喜びの声を伝えていました。

営業部 サービスエンジニア 森 界章さん

「STADIUM TUBEはアマチュアレベルにも、最高のツールになる」

STADIUM TUBE

ちなみに中村社長、はじめはプロスポーツの映像を見て、STADIUM TUBEの可能性を見出しましたが、徐々に頭の中ではこんなことが巡っていたそうです。

「プロスポーツもいいけど、スポーツされる一般の方々にも活用してもらい、楽しんでもらうことで、地域やコミュニティの活性化につながると思いました。まずアマチュアの人たちはそもそも自分がプレーしている映像を見るだけで新鮮だし、楽しい。例えばシニア野球の試合を撮影したりしても、すごく楽しいと思うんです。映像には実況を入れることもできますしね。試合後にメンバーが集まって、好プレーや珍プレーの映像を、お酒を飲みながら見たら、最高の肴になると思うんですよ。そうやってコミュニティが活性化して、地域の施設を使う機会が増えたり、経済も循環していく。単にどこからでも映像を見られるだけでなく、人が喜ぶツールになる。いずれ絶対にそうなっていくと思うんですよ」

これはたしかにテクノロジーの範疇を超えて、人々に楽しさや喜びをもたらすDXになりそう。所属する草野球チームでも導入したい! 絶対、酒のいい肴になるよね~(笑)。

STADIUM TUBE(NTTSportict)
https://nttsportict.co.jp/


写真/伏見早織 文/桐田政隆

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