廃棄テントが世界に1つのバッグに転生する! コールマンの「MFYR」プロジェクト

コールマン MFYR ワークショップ

ここ数年、ファッション業界のキーワードになっている「SDGs」。持続可能な社会を目指して、多くのブランドで急速に意識が高まってきています。環境に配慮した素材の採用や、長~く使えるようにするためのリペアサービスの開始など、その取り組みの内容は実に多種多様……。本連載では「SDSEEDs(エスディーシーズ)」と称して、ファッション業界のサスティナブルの種を紹介していきます!

さて、今回注目したのは、コールマンのサスティナブルなプロジェクト「MFYR」です。このプロジェクトは、やむを得ずに廃棄しなければならなくなった、コールマンのテントやシェードをアップサイクルしたアイテムを作り出す取り組み。例えばタフで耐水性に優れたテント生地を使い、バッグに仕立てたりするそう。

一体どのように始まり、実行されているプロジェクトなのか? コールマン昭島アウトドアヴィレッジ店にてMFYRのワークショップが行われていたので、取材に行ってきました!

教えてくれたのは……

コールマン MFYR ワークショップ

(左)スタイル ウォーズ トウキョウ 代表 森 由美さん
セレクトショップのオリジナルブランドのディレクター兼デザイナーなどを経て、古着を再解釈するブランド「スタイル ウォーズ トウキョウ」を立ち上げる。デニム生地風のデザインで人気を博した「コールマン インディゴレーベル」を手掛けていた縁もあり、MFYRにデザイナーとして参画。
(右)コールマン マーケティングディレクター 根本昌幸さん
1992年に入社して以来、製品開発から広告/PR・プロモーションまであらゆるマーケティングやブランディングに携わり、コールマンの成長を支える。趣味はキャンプとバイク。日本各地のキャンプ場を1200㏄の愛車と共に巡る。

MFYRって、どういう意味?

コールマン MFYR
MFYRのキービジュアル

プロジェクト名のMFYRとは「MOVEMENT FOR YOUR RIGHT」の頭文字をとったもので、直訳は「あなたの権利のための活動」。我々が生きる地球のために、サスティナブルな思想をムーブメントとして巻き起こしましょう、という意味合いが込められているそうです。

ビギンは初めてMFYRのビジュアルやロゴを見たときに、サスティナブルというより、単純なカッコよさに興味を惹かれました。実はこれ、MFYRの思惑にもばっちりハマっていたみたいで、森さん曰く「そこはあえて、ストリートっぽいテイストにしたんです。今までのコールマンのユーザーとは、また違った人たちにも見てほしいという思いもありました」。なるほど~!

そんなMFYRは、そもそもどういった経緯でスタートしたのでしょうか?

コールマン MFYR ワークショップ
コールマン マーケティングディレクターの根本さん

コールマンでは長年、不具合があって処分しなければならない商品を、可能な限り再生し、B級品として再販したり修理パーツとして再利用したりしていました。ただ、テントやシェードの場合は、縫製不良や色写りなどがある生地は再生が難しいため、廃棄せざるを得なかったそうです。

「これには社員も心を痛めていました。サスティナブルな機運が高まる以前から、なるべく廃棄しないように努めていましたからね。また、テントやシェードの生地は、丈夫で耐水性に優れていて生地そのものはよいので、よりもったいない。これをアップサイクルできないものか? そんな社員たちの声から発足したのが、MFYRです」(根本さん)

アップサイクル品を開発するにあたり、根本さんが頭に浮かんだ御方が、コールマンのクリエイティブ・アドバイザーを務める松岡善之さん。そしてもう1人が、コールマンらしからぬデニム生地風のアウトドアアイテムをリリースする「コールマン インディゴレーベル」を手掛けていた森さんでした。

2人にプロジェクト発足の依頼をすると快諾。松岡さんがMFYRのクリエイティブディレクター、森さんがデザイナーを務めることになり、2021年からプロジェクトが発足しました。

コールマン MFYR ワークショップ
スタイル ウォーズ トウキョウ代表の森さん

森さんは自身のブランドでも古着をリメイクしたアイテムを手掛けており、アップサイクル製品もお手のもの。

「テントやシェードに付いているファスナーや引き手などのパーツ類って、結構かわいいので、これを活かしたアップサイクルができればと思いました。また生地の素材、色柄もいろいろあるので、これをうまく組み合わせたり、ちょっとしたクリエイティブを載せていけたら、よりよいアップサイクルになるんじゃないかと」(森さん)

はじめにこうしたアイデアを聞いた根本さんは「いろんな生地やパーツを組み合わせるという発想は、目からウロコでした。僕らからすると、ただの生地やパーツにしか見えてない面があるので、単純にバッグとしてまた使えるようになったらいいかな、とまでしか想像できてなかったんです。さすがデザイナーさんというか、はじめに作ってもらったときは、ここまでカッコいいモノが出来上がるんだと感服しましたね」(根本さん)

1点1点、丹精込めて

コールマン MFYR ワークショップ
生地を1枚ずつ粗断ちしていく森さん

ではここからはMFYRのモノ作りが、どうやって行われているかを見てみましょう。まずは千葉県流山市にあるコールマンのプロダクツセンターに、不良品となったテントやシェードを集約。これらを森さん自身が状態を見極め、アップサイクルした際のデザイン性、無駄のない生地取りを考慮して、1枚ずつ粗裁ちしていくそう!

「無地ばかりじゃ地味になるから柄やロゴがある部分を入れてみたり、粗裁ちでもかなり考えてやっています。とても時間がかかるので、泊まり込みでやっていたときもありましたね(笑)」(森さん)。「その作業がMFYRで一番大変ですよね(苦笑)」(根本さん)

コールマン MFYR ワークショップ
日本国内で製造が完結

そして選定した生地は、森さんのブランドの生産も担っている、信頼ある国内工場へ。

「コールマンのバッグの多くは中国で縫製していますが、中国へ持って行ったのでは、輸送燃料によって環境負荷がかかってしまうので、プロジェクトの意義に沿いません。だからMFYRのアイテムはすべて日本国内で完結しています」(根本さん)

「日本国内の実績ある工場で縫製しているので、1点1点、細かく指示できています。コールマンの新品と同様に、品質・重量検査を行い、合格したモノだけを販売しているので、クオリティも申し分ありませんよ」(森さん)

そして何よりも嬉しいのが、1つ1つデザインの異なる、世界に1つだけのアイテムってこと! 初回生産分は2021年6月に、コールマンのオンラインショッピングサイトで発売しました。

「正直最初は、どう受け止めてもらえるんだろう……と、不安もありました」(根本さん)。「私は確実にイケると思ってましたよ(笑)」(森さん)

フタを開けてみると、発売開始から30分もかからずに約120個の全アイテムが完売!! その後、コールマン昭島アウトドアヴィレッジ店でも販売すると、お客さんからは「コールマン、こんなことやり始めたんだ」「いい取り組みですね」など、とてもポジティブな声が多かったそう。2022年9月に発売した第2弾も、20分で完売!

「アイテムのデザイン性のおかげというのはもちろんあると思いますが、サスティナブルへの意識が急速に広まったと思うと嬉しかったですね」(根本さん)

毎度大好評のワークショップ

コールマン MFYR ワークショップ
一般のお客さんを招き、ワークショップを開催

MFYRは販売するだけでなく、都度都度ワークショップも開催しています。こちらは先日2023年11月に、コールマン昭島アウトドアヴィレッジ店で行われたときの様子。ワークショップはMFYRのアップサイクルを実際に体感してもらい、ムーブメントとして広めようと開催し始めたそうです。ワークショップは開催を告知し、お客様が事前に応募予約。当日にMFYRのアイテムをその場で作製します。

ワークショップは2022年から開催されており、作るアイテムも異なります。今回は巾着袋のような形状の「スタッフバッグ」を作ることに。

参加者は自ら、メインの外装となる生地、底部の生地、開口部のテープやチャームなどを選べます。生地は色柄もさまざま用意され、なかにはコールマンのロゴ付きのものも。仕上がりのデザインやカラーを想像しながら選ぶのが楽しく、大人から子どもまで、みんなよ~く吟味しながらチョイスしていました。もちろん使用する生地やパーツは、以前なら廃棄になっていたかもしれないものです。

コールマン MFYR ワークショップ
森さん直々に、その場で素早く作成していく

使用する生地やパーツを選ぶと……、なんと森さんとアシスタントの方の2人で縫製をスタート! 一流デザイナーが自ら縫製してくれるってだけで、胸アツ! しかも1つ1つ、森さんたちからお客さんに「ここはこういう配色にしてみよっか?」「このパーツを付けたらかわいいんじゃない?」と、創造性豊かな意見を交えて、相談しながら作ってくれるんです。

ちなみに簡単にその場で縫製といっても、生地の質感や厚さもさまざま。コットンライクなものもあったり、フィルムを貼っているものもあったり。しかも滑りやすい化繊で、まっすぐ縫うのも難しい。それでもサクサク作業が進んでいく……。プロの縫製の手さばきを見るのも、いい経験になります!

ちなみに縫製して出来上がりを待つ間も、MFYRらしいプログラムを用意。今回は、コールマンの寝袋の裏地を使い、ティッシュケースを参加者自らの手でリメイクすることに。

リメイクといっても、こちらはスタッフのアドバイスを受けてサクッと作れるちょうどいい難易度で、大人も子供もしっかりエンジョイ♪ ストラップにはコールマンのテントロープや、コールマンのロゴ入りメタルパーツが付属するのも嬉しいポイントで、これまた楽しい企画でしたね~。

採算度外視⁉ だけど未来のために

コールマン MFYR ワークショップ
それぞれの個性あふれるバッグが完成!

1時間もかからずに、全てのスタッフバッグが完成! ロゴをがっつりと配したり、インパクトのあるクレイジーカラー、渋いトーナルカラーと、それぞれ個性あふれる、世界に1つだけのスタッフバッグに、み~んな大満足そう!

コールマン MFYR ワークショップ
「“モノを大切にする心”を広めたい」

ちなみにこのワークショップ。参加費は2500円。自ら作りたいデザイン・生地を選べて、デザイナーが自ら縫製してくれる。さらに指導付きで自分たちで小物をリメイクすることもできる、など至れり尽くせりの内容を考えると、どう考えても激安では?

「正直な話、MFYRは利益目的ではやっていませんから(笑)。あくまでMFYRの目的は、アップサイクルという考え方を広めることです。もちろんコールマンとしても廃棄するものを有効利用できることはそれはそれでいいんですけど、本当の目的は多くの人にアップサイクルを理解してもらう、“モノを大切にする心”を広めることにあります。ワークショップもアップサイクルを体験してもらい、喜んで理解してもらえる、一番の近道だと思うんです」(根本さん)

「そうなんですよね。ワークショップは廃棄せざるを得なくなったモノでも、新しく違った形に作り変えられるというおもしろさを、シンプルに伝えられる。するとどんどん、サスティナブルの輪が広まっていくと思うんですよね。それにお客さんとコミュニケーションできるのもすごく楽しい。例えばお子さんから『ここはこの生地やパーツを使ってみたい』と、私たちが驚くようなアイデアを提案してくれるときがある。それはおもしろいね!と、クリエイティブなキャッチボールができることが、私たちにとってもすごく新鮮なんです」(森さん)

「MFYRのアイテムやワークショップを通じて、キャンプ道具やアウトドアギアを、捨てる前にちょっと考える。そういう人が1人でも増えていったらいいな、と思っています」(根本さん)

コールマン MFYR ワークショップ
新作の「ドッグコート」

ちなみについ先日、MFYRの新作として犬用のコートである「ドッグコート」がリリースされました。「じつはこれ、プロダクトセンターで働いている、犬好きのスタッフが提案してくれたものなんです。テントの生地は雨に強いし、犬用のコートがあったらいいのに、ってね」(森さん)

「そうそう。MFYRを3年近く続けて、社員のマインドも変わってきた。それもすごく嬉しいことです。改めてMFYRは継続していくことが大事だと感じました。今ではアイデアだけでなく、MFYR用に廃棄品を取っておいてくれるスタッフなども増えてきてるんです。また、賛同してくれる企業もあって、今後はコラボなども考えています」(根本さん)

コールマン社内でもアップサイクルの精神が高まってきているとのことで、今後のアイテム展開について聞いてみると「コールマンですから今後はギア製品を作ってみたい、という意見が社内から出ています」(根本さん)。それまた楽しみ! アウトドアフリークにはたまらないものになりそうですね。

MFYRはやむなく販売できなくなったり、使えなくなったアイテムを使用するため、商品のリリースは不定期ですが、首を長~くしながら頭に留めておきたいところ。さらにワークショップの開催にも力を入れていくそうなので、最新情報をちょこちょこチェックしてみてください!

問い合わせ先/コールマン カスタマーサービス ☎0120-111-957
https://www.coleman.co.jp/


写真/吉岡教雄(BURONICA) 文/桐田政隆

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