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ビームス SIMPLE YET
ここ数年、ファッション業界の一大キーワードとなっている「SDGs」や「サスティナブル」。本連載では「SDSEEDs(エスディーシーズ)」と称して、名門ブランドのサスティナブルの種を紹介していきます。今回は、東京を飛び出し和歌山へ! いつも面白いニュースを届けてくれるビームスが、今度は綿花を一から育て始めたみたいなんです。しかも、出来上がったコットンを使って、今季ビーミング by ビームスからロンTも登場! 「なんで育てるの?」「なんで和歌山?」、無数に浮かぶ疑問の答えは、以下参照!

教えてくれたのは……

ビーミング by ビームス 統括ディレクター 村口 良さん

ビーミング by ビームス 統括ディレクター 村口 良さん
愛媛県松山市出身。2000年に中途入社し、ビームス歴はもう間もなく四半世紀に。鎌倉在住で、休日は海でのアクティビティを楽しむ自然派。生魚が苦手というが、和歌山の居酒屋で出されるマグロの刺身は別口なご様子。

誰もが安心して着られる服を作りたかった

「服がどこでどのように作られているか」を知っていますか? 例えばスーパーで野菜を買うときに「私が作りました」というシールで農家さんの情報が分かると、ちょっと安心できますよね。ともすると不透明になってしまう服の生産過程をクリアにすることは、生活者との信頼関係を育むことに繋がるため、“持続可能な”ファッションを実現する上で重要視されてきているのです。今回ご紹介する「ビーミング by ビームス」の取り組みは、そんな潮流を体現するもの。

誰もが安心して着られる服を届けたかったんです

ビームス SIMPLE YET

まずもってビーミングは、流行を取り入れたアイテムを、老若男女幅広い客層に向けてグッドプライスで展開するレーベルです。ディレクター・村口さんは次のように語ります。

「幅広い年代に向けたレーベルであるからこそ、誰もが安心して着られる服を本気で作るべきだと思うんです。昨年ディレクターになったのと同じタイミングで子どもが生まれたこともきっかけとなり、ブランドを食育ならぬ『服育』にも貢献できるように進化させていこうとプランを立てました。これまで通りのラインナップに、ブランドの信念を伝える商品をプラスする。価格が少し上がっても、お客様には受け入れていただけると思いました」

理想を追求するため、まずは服の生産背景を一からおさらい。実のところ、多くの場合ブランド側の作り手が関わるのは、生地を選ぶところから。原材料が、どのようにして生地になっているのか。工場側の作業を講師から教わったり、生産現場を見学したりして学び直しました。

「一本の糸を紡ぐだけでも、ものすごく大変な作業なんだと実感して。同時に、生産背景を知れば、服作りが環境に与えている負荷についても、リアルに想像できるようになりました」

準備期間を経て、2023年の春、新ライン「シンプル イェット」を晴れてお披露目。Tシャツなどを皮切りに、この秋冬も新作が仲間入り。新作のカーディガンやシャツには、余った糸やクズ繊維を紡ぎ直したリサイクルコットンが使用されています。日本製にもこだわっており、品質も申し分なしの出来映え。長〜い付き合いを見込める普遍的なデザインも、魅力の一つです。ブランド名のとおり“シンプルなのに”語れるアイテムは、ワードローブの中で縁の下の力持ち的な役割を担ってくれます。

春夏に続き、秋冬もベーシックなアイテムが揃い踏み

ビームス SIMPLE YET
落ち着いた色味で上品に着用できるが、ビームスならではのアメカジエッセンスが随所に盛り込まれており、手持ちのカジュアル服とも好相性! シャツなどの服以外にも、ニット帽や靴下などの小物も展開する。左から、シャツ/1万5400円。カーディガン/1万6500円。ニット/1万5400円。チノパンツ/1万8700円。

……と、ここまで新たな取り組みについて述べてきたわけですが、これはまだほんの序の口。シンプル イェットにビギンが目をつけた理由は、「綿花の栽培にも着手している」ところにあり! しかもなんと、本社スタッフ自ら和歌山の畑を訪ね、地道な農作業で汗水を垂らしているというのです。

「環境に優しい生地は、すでに世の中にたくさんあって、これまでにも商社さんから多数ご紹介いただきました。もちろん、すばらしい製品ばかりです。しかし、すでに完成された生地の中から選ぶだけじゃ、“本気度”が足りない気がして。せっかくなら、綿花を育ててみたいと思ったんです」

村口さんがビームス社内にアイディアを提案した際は、「そこまでやらなくても……」「続けていけるの?」など、ちらほらと心配の声が。しかしながら結果的に、自家製の綿を使ったTシャツを作り上げることに成功します。壁を乗り越え、理想をカタチにできたのは、和歌山のアパレル関係者との出会いがきっかけでした。

地元民全面協力のもと前代未聞の栽培を開始

ビームス 綿花プロジェクト

綿花プロジェクトの地に選んだのは、丸編み生地の生産量日本一を誇るニットの聖地、和歌山。のどかな田舎の風景が広がる和歌山の畑で、耕作から収穫まで、現地のサプライヤーに協力を仰ぎながら綿花を育てています。

「生産企画担当から、和歌山に素材のプロフェッショナルがいるから会ってみてほしいと言われて。プロジェクトが立ち上がってから1週間ほどで、場所を確保することができたんです」

和歌山とビームスをつなげたのは、和歌山に事務所を構える、糸やテキスタイルの企画製造販売業者「FCプランニングオフィス」の野田さん(集合写真右から4番目)。インドやアメリカなど世界各国の綿農家や紡績工場を周りながら品質を確かめる、この道35年の現場主義者で、野田さんが旗を揚げれば仲間が自ずと集まります。綿花プロジェクトが順調にスタートを切れたのは、偶然にも野田さんも綿花栽培の準備を進めていた、という幸運に恵まれたことも要因だそう。

畑に関しては、老舗ニッター「美和繊維工業」の代表を務める風神さん(集合写真右から3番目)が所有している土地を拝借することに。種については、和歌山との県境に位置する大阪府阪南市の老舗紡績会社「大正紡績」から仕入れたものを育てています。

風神さんの土地で、一から栽培

ビームス 綿花プロジェクト

村口さんを筆頭に、ビームスチームが初めて風神さんの畑で作業したのは2022年の4月。そこから鋤起こし、種植え、支柱立て、収穫、紡績と一年で7回、東京から和歌山に通って綿花の栽培に参加しました。村口さんは「和歌山チームの協力があったからこそ、上手くいった」と、第一回の綿花プロジェクトを振り返ります。

「メンバーのほとんどが農業素人。どの工程もやってみると大変で……。思い出深いのは、収穫作業かな。綿花は一年草なので、人より高く育っていても最後には引き抜かなきゃいけないんですね。しっかりと根も張っていて、畑を元に戻すのは重労働でした」

また、このプロジェクトは、農薬を使用せずに栽培します。聞こえはいいですが、それだけ難易度が上がってしまうもの……。害虫が寄ってきてしまうため、手作業での駆除が肝心。和歌山チームによるこまめな手入れが、プロジェクトを成功へ導いたわけ。

現在は2024年秋冬の商品づくりに向けて、第二回のプロジェクトが進行しています。7月某日、ビギンが伺ったのは綿花畑のある和歌山市。土地は3面あり、いずれも家庭菜園を楽しめるくらいの広さ。雑草対策で黒いビニールを張った畝が直線に何本も作られていて、規則正しく間隔を空けながら健やかに茎が伸びています。

今回行われた作業は、支柱の立て替え。このエリアは昔から台風の影響を受けやすく、6月にも大きな冠水被害に遭い、綿花も何株か流されてしまったそう……。綿花が倒れないようにしっかりと支えてあげることが必要不可欠なのです。

作業中はあいにくの雨でしたが、今季で初めて開花するという幸運も。花が落ちたのち実がつき、その実が弾けるとふわふわのコットンボールが姿を現すのです。今年はどれくらいの量が実るのかどうか。綿花のごとく、期待が膨らみます。

日本に3台しかない機械も使って綿を服に

11月頃にコットンボールがたくさん出来たら、手摘みして紡績工程に移ります。昨年の収穫量は、約70㎏。割いたときの繊維の長さは28㎜もありました。長綿と呼ばれる上物クラスに匹敵し、なめらかな糸に仕上がります。

今のところ、シンプル イェットの製品の中でビームス×和歌山の綿を使用しているのはロンTのみ。収穫量や着心地の追求を理由に、大正紡績がアメリカ、インド、トルコ、ウガンダの4カ国から仕入れたオーガニックコットンとブレンドして紡績します。

ちなみに、ロンTの生産枚数は合計で240枚。こう聞くと、全国に店舗を持つブランドのアイテムにしては、やや少なく感じてしまう枚数ですが、大切なのはプロジェクトを続けていくこと。適正価格での販売は大前提。余らせてしまっては元も子もないので、大量に作らない。考え方は“シンプルなのに”、実践しようとすると難しい。そんなビジネスモデルに挑戦しているわけなのです。

製造工程においても、和歌山近辺の工場が全面的に協力しています。鍵を握っているのが、大正紡績。初めに綿花を紡績するためには、種を取り除く必要があります。綿毛が絡みついており、手作業ではあまりに時間がかかってしまうため、機械を使って、まずは下ごしらえ。これをジンニングと呼び、品質に優れるローラージンと生産性の高いソージンの2タイプに分けられます。前者が水牛の革を採用したローラーで種をこそぎ取るのに対して、後者はハサミで綿毛をカット。綿花を大量に生産しているアメリカでは、ソージンを採用しているケースが多いんだそう。

一方で日本は綿花栽培が産業として定着していないため、そもそも機械自体が存在しない状態……。なんですが大正紡績は、別件のためにタイの廃業した紡績会社から取り寄せた、ローラージン用の機械を持っているんですね。国内には同社が所有する3台のみ。希少なヴィンテージマシンの活躍あってこそ、紡績工程に進めるのです。

「綿花をどさっと入れたら詰まってしまうので、一つひとつ手で機械に投入していきます。簡単に終わるとたかを括っていたんですが……想像を遥かに超えて時間がかかりました(笑)

ビームス 綿花プロジェクト
繊細な糸を、密度を詰めて編み上げる

出来上がった糸は、美和繊維工業に納品されます。同社は“スーパーファインゲージニッター”という異名を持ち、繊細な糸でも密度を詰めて生地を編み立てることができる、いわば度詰めのプロ。ハイブランドの生地生産も請け負う実力で、糸をおいしく料理していきます。

ビームス 綿花プロジェクト
生地を洗って、すっきりキレイな状態に

お次は、生地を洗いにかける工程。担当するのは、フジボウテキスタイルの和歌山工場。こちらはハイクオリティの染色加工技術がウリで、国内外問わず、有名アパレルメーカーからも厚い信頼が寄せられます。ただし、今回のロンTに関しては染めの工程は踏みません。通常、染色あるいは加工処理をした後に行われる、ソーピングに時間をかけます。温度管理を徹底したセッケン溶液などで生地を洗い、表面に付着した余分な油分やゴミをすっきりと除去するのです。

ビームス 綿花プロジェクト
一切の妥協なしに、縫製していく

最後は、FCプランニングオフィスの縫製協力工場に到着。同社は素材の商社としてだけでなく、あるときはアドバイザー、またあるときは縫製業者にも早変わり。マルチプレイヤーだからといって、その品質に妥協は一切なし。さまざまな方面から、プロジェクトを支えているのです。

和歌山チーム総動員で完成するロンT。手塩にかけて育てた綿だからこそ、各社それぞれの思いも強し。ここまで愛の詰まったTシャツって、シンプルに超魅力的です!

珠玉のTシャツ完成!

ビームス SIMPLE YET
目指したのは、アンダーウェアとして重宝し、生地の良さを肌で感じやすいロンT。ややゆったりめのシルエットで、一枚で着てもサマになる。ステッチはTシャツの代名詞的存在である某アメリカブランドのものをオマージュし、ほんのりとアメカジ要素を付与しているのもこだわり。杢グレーと生成りの2色展開。各1万2100円。

未来に向けた選択肢の一つとなるように

2023年4月からは、新たな取り組みに着手しています。着用後、捨てられてしまった服は、ゴミとなってしまうのか。それを検証するために、シンプル イェットの綿100%のスウェットとTシャツを使って実験するというもの。ワンセットは蛸壺に入れて海に沈め、もうワンセットは綿花畑の近くに埋めて、そのまま放置。約3カ月後の引き上げを予定していました。

そして、ビギンの取材日がちょうどその頃合い。一緒に結果を確認してみると……上の写真の通り、海に沈めていたほうはボロボロに分解され、残っているのは化繊を使った縫製糸の部分と品質タグだけ。土に埋めていたほうも、畳んだ状態にした影響もあって比較的ゆるやかではありましたが、着実に分解されていました。

「正直なところ、我々はもちろん、和歌山チームも、綿花がきちんと育つのか半信半疑のままでスタートしました。ですが、なんとか製品を作るまで持ってこられた。だったら、洋服が自然に還るところも、知っておきたくて」

服の一生を把握する。そうすることで、自分たちが目で見て人に聞いて体験してきたことを伝えていく上で、説得力が増します。村口さんは、このプロジェクトをもっともっと広めていきたいと話します。

「去年育てた綿花の種を、大正紡績さんから分けていただきました。興味を持ってくれたスタッフには、その種を配るようにしていて。ベランダで家庭菜園を楽しんでいるようです。中には子どもと一緒に育てている人もいて、すくすくと育つのがうれしくて水やりが日課になっていると教えてくれました。そんな風にして、プロジェクトが社内に浸透していけばいいなと思っています。これはビームスに伝わるジンクスなんですが、スタッフ自身が楽しんでやっているとそのワクワクが伝染して、そのモノやコトがとっても盛り上がるんですよ」

村口さんを始めとした関係者が見るからにワクワクして取り組んでいるこのプロジェクトは、さらに波及していくに違いないでしょう。

「洋服屋を生業にする僕らにとって、このプロジェクトの意義は大きいと確信しています。綿花を栽培するところからものづくりに携われたのが、個人的にも勉強になりました。今後は新入社員の研修場所として推薦したり、関西地域のスタッフを巻き込んだり。そしてゆくゆくは、お客様たちと一緒に。やりたいことが、次から次に浮かんできますね」

取り組みが斬新であるだけでなく、シンプル イェットのアイテムは、内側から上質さが滲み出ているものばかり。実際にこれを手に取る消費者にとってどんな存在になることを、村口さんは期待しているのでしょうか。

「未来のためとはいえ、生活の全てを今すぐに変えるのは中々難しいことですよね。電力を再生可能エネルギーに替えたり、地元の食材を選んで料理するようにしたり、人によってできるところから少しずつシフトしていく段階だと思います。その選択肢の一つに、シンプル イェットの名前が挙がればうれしいなと。着ることで豊かな気持ちになれるような服を、これからも作り続けたいですね!」

いつの時代だってトレンドの種を蒔き続け、日本のファッション業界をリードしてきたビームス。新しく打ち出す本気の服作りが、次はどんなムーブメントを起こしてくれるのか。ビギンも今から楽しみです。

今季初の綿花は1日でグングン成長していました

ビームス 綿花プロジェクト

そういえば、取材初日に咲いていた白い花が、一日花であるがゆえに、2日目にはあっという間に赤く色づいていました。この花が落ちたら、いよいよ実をつけていくわけですね。今年も、たくさんの綿を収穫できますように!

ビーミング by ビームス シンプルイェット

オリジナルコットン ロングスリーブTシャツ/https://www.beams.co.jp/item/92140212203
オーガニックコットンシャツ/https://www.beams.co.jp/item/92110046495
12ゲージ リサイクルコットン カーディガン/https://www.beams.co.jp/item/92150325495
12ゲージ リサイクルコットン クルーネックニット/https://www.beams.co.jp/item/92150324495
リサイクルコットン チノ/https://www.beams.co.jp/item/92230158495

(問)ビーミング by ビームス /https://www.beams.co.jp/bming/


写真 / 丸益功紀(BOIL) 文 / 妹尾龍都

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