快適すぎる無人決済「TOUCH TO GO」を体感&社長に聞きました【プロジェクトDX】

無人決済システム店舗

数年の間に世界を一変させるかもしれない。そんな可能性を秘めたDXにフォーカスする連載「プロジェクトDX」。時代の変化やニーズに、DXを通じて見事に応える優れたサービスの開発者や現場を訪ね、未来を変える可能性や、そこに秘められた想いを紹介していきます。

ここ数年で、スーパーなどの店舗のレジシステムが様変わりしました。商品バーコードをスキャンする作業は従業員が行い、支払いのみを精算機で行うセミセルフレジは、いまやスーパーやコンビニでのスタンダードに。そして、そのすべてを利用者が行うセルフレジも増えています。そんななか、注目したのは、レジでのスキャンなどが必要なく、誰でもスムーズに支払いができるという「無人決済システム」です。

プロジェクトDX 〜挑戦者No.19〜天井のカメラが買い物を見守り、自動決済!

まずは実際に「無人決済システム」を体験してみることから、ということで最初に訪れたのは山手線の新駅・高輪ゲートウェイの駅ナカにあるコンビニ「TOUCH TO GO」です。ガラス張りの店舗は60平方メートルほどで、入り口のゲートを通って店内に。商品を選んでレジの前まで持って行くと、レジの表示が瞬時に切り替わり、手にした商品の品名と値段が自動表記。普段の買い物で使っているQR決済であっという間に支払いが済みました。そのスムーズさたるや、びっくり。

聞けば、天井に設置されたカメラが商品の位置情報などを3Dで把握しており、店内に人が入った瞬間からその人をずっと追いかけているとのこと。ならばということで、棚から一度取った商品を戻してみたり、同じ商品を複数手にしたり、カメラから見えにくいように持ってみたりして再度会計してみましたが、レジの表示は正確かつ瞬時。えぇ〜どうして! すごい! いつもと同じような買い物のはずなのに、アトラクション的な面白さがあり、セルフレジとは似て非なるもの。当初イメージしていた「無人決済システム」とかなり違うかも?

「スムーズさでいえば、従来のレジの3分の1の時間で会計できます。手慣れたリピーターの方なら30秒ほどでさっと数品買っていかれます」と言うのは、TOUCH TO GO代表取締役社長の阿久津 智紀さん。

セルフレジ

商品は天井に設置されたカメラと商品棚に設置された重量センサーで管理され、店舗に入った人をカメラが追従。何の商品を誰がいつ手にしたかを判断し、レジに表示する仕組みです。また、その様子を営業時間中コールセンターが見守っており、お困りのお客様のサポートもできるようになっている。クイックで利便性があり、安心安全なだけではなく、店舗側としても接客や商品管理の負担が軽減という利点があるといいます。そもそもどのような成り行きで、無人決済システムは生まれたのでしょうか。

地道な経験がDXのヒントとなる

阿久津 智紀さん

TOUCH TO GOを起業し、代表取締役社長を務める阿久津さんは、大学卒業後にJR東日本に入社し、生活サービス部門を歩みます。そのキャリアは駅内にあるコンビニ「NEWSDAYS」の店長からスタートしました。当初から人手が足りず、アルバイトが遅刻すると、店が回らなくなってしまい、店長の責任として頻繁に駆けつけたといいます。「近くでJリーグの試合が開催されるときは、特に忙しくて(笑)。当時からお店を管理するのは本当に大変だと感じていました」。

その後移ったのが、JR東日本ウォータービジネスという子会社です。「社員16人ほどの小さな会社でしたが、駅の中の自動販売機を直営化しようというビジネスをしていました」。それまでの駅構内の自動販売機は、各飲料メーカーが管理しており、JRは場所代をもらうという仕組みでした。それを一元化し、JRが各社のドリンクを一括で仕入れ、JRのオリジナル商品などとともに売る仕組みを作りました。今では当たり前の駅の自販機スタイルですが、当時は画期的だったそう。「ただ、飲み物以外のお菓子などを売ろうとすると、見事に売れない。どうしてだろうとずっと考えていました」。

次に異動した先は、なんと青森。シードルを作るプロジェクトに携わることになりました。

「青森駅のすぐ近くにA-FACTORYというおみやげ売り場を併設する場所があるのですが、当時、一年の売り上げの6割ほどが夏のねぶた祭りの時期に集中していました。あとは冬眠するみたいな状態で……」と阿久津さん。とはいえ、年間を通して従業員を雇用しなくてはならず、冬は東京などで催事を行い、なんとか売り上げを確保する状態でした。

そこで、冬でも売れるものがあったらいいなということから、青森の名産であるりんごからシードルを生み出そうということになったそう。もちろんシードル作りは阿久津さんだけでなく、誰もが未経験。地元の造り酒屋やりんご酒の研究者を訪ね、ハローワークで人を募集して……と一から立ち上げ、地域の方々の協力があって、完成できたといいます。今では、10社ほどが青森でシードルを手がけており、ひとつの産業に。本場・フランスで賞を取り、名産として認知されているそうです。

「事業における人件費の割合や、人の負担を軽くしたいということが、ここでも背景にありました。ただ大企業ということもあって、どんなプロジェクトをやるにしても、計画して予算をとって会議にかけてと、とにかく時間がかかります。そんなフラストレーションもあり、『JR東日本スタートアッププログラム』というスタートアップ企業とのオープンイノベーションを立ち上げ、自ら応募することにしました。締め切りも過ぎていて、企画書も不完全でしたけど、なんとか通過することができました(笑)」。

無人店舗の原点は自動販売機⁉︎

阿久津さんがスタートアップとして組んだのは、サインポストという会社です。当時のサインポスト社は、画像認識を推進しており、アメリカの無人コンビニ「Amazon Go」のような仕組みを構築しようというところでした。両社が協力し、まずは事業化に向けて、大宮駅や赤羽駅で実証実験を行ったといいます。TOUCH TO GOの原点ともいえる店舗です。

「今思えば、全然できていませんでしたね(笑)。天井のカメラでお客さんを追うというシステムこそ今と同じですが、ひとりしか認識できないし、人がしゃがむと見失うし、開始5分前くらいにシステムが動かなくなったりだとか。そんな中、訪れた方たちが本当に楽しそうに買い物をしてくれているのが印象的でした」。

蘇ってきたのは、自動販売機チームにいたころの記憶です。自動販売機ではまったく売れなかったお菓子などの食品が、無人店舗では皆が楽しそうに手に取り、どんどん売れていく。

「無人決済システムというパターンならいける!と思いましたね」と阿久津さん。

そこで、オープンイノベーションから一歩進み、今につながる新会社を設立、高輪ゲートウェイ駅の開業に合わせ、駅ナカのコンビニ・TOUCH TO GOを2020年春に開店しました。私たちプロジェクトDX取材班も体験したお店です。オープンはちょうどコロナ禍の直前、それでも大盛況で2,000もの人がオープン日に訪れたといいます。

「人件費や人をどうやって回せばいいのかという、入社以来20年抱えてきた課題、自分が経験をしてきた辛いこと、これができたらいいなというのを、いろんな人の力を借りて具現化できたという感じです」。

阿久津 智紀さん

転機が訪れたのは、ファミリーマートの当時の社長・澤田貴司さんが高輪ゲートウェイの店舗を視察したことでした。実は、阿久津さんが20代の頃、ある勉強会で澤田さんに講演をお願いしたことがあったそうです。「澤田さんを喜ばせようと、勉強会のメンバー30人ほどでオリジナルの真っ赤なTシャツを着て参加したんですね。そのときのことを澤田さんが面白がって、覚えていてくれた。無人決済システムについても『面白いから、一緒にやろう』と言ってくださったんです」。

ファミリーマートと業務提携し、ファミリーマートとしての無人店舗を各所でオープンしたことが、その後の、東急ストアやシャトレーゼをはじめとする各社との業務提携につながったといいます。「新しい事業って、いいね! やりたいね!と皆さん口々に言うけれど、リスクがあるからなかなか進まないものなんです。澤田さんが一歩踏み込んでくれたおかげで、みなさんに実店舗を見せることができ、次の展開につながりました」。

今では全国で60ヶ所ほど展開しており、一番大きな店舗は伊丹市役所内に。約100平方メートルほどの店内には、お弁当をはじめ、2000点ほどの商品を扱っているとか。先述したシャトレーゼ西麻布店は、無人決済システムの導入により、24時間営業になりました。ケーキなどの生菓子の販売や包装が必要なものはスタッフが常駐する20時まで、それ以降は無人決済システムのみの会計となります。取材班も店舗を訪れてみましたが、高輪ゲートウェイのTOUCH TO GO同様、会計はとてもスムーズ。観光客とみられる外国人のお客さんも戸惑うことなく、楽しそうにアイスを購入していました。

無人決済システムを地域活性の力に

無人決済システムを地域活性の力に

最終的には、TOUCH TO GOを自販機につぐ物販インフラにし、地方や地域のライフラインにするのが目標だといいます。人口が少なく、売り上げもなかなか上がらない場所は、当然利便性も低い。西麻布のシャトレーゼのように夜でも必要なものが買えるようになったり、道の駅、高速道路のサービスエリア、フロントが混雑する時間帯は売店を開けられないといった地方のホテル、シャッター街などに無人で会計できる場所があれば、人手が足りなくても店をまわすことができます。また、後継者不足や万引き被害などの問題で閉店が相次ぐ、書店なども導入に向いているといいます。

「今まで稼働していなかった時間帯にも営業ができるようになれば、売り上げも当然上がります。人口減で物価高の今、利益をあげることはとても大変ですから。物産展などの催事も、人件費が占める割合が高いんです。商品だけ送ってもらって、無人で販売できるようになれば地方にもお金を落とせて活性化につながります」。

とはいえ、地方の個人商店などが導入するには、費用面はもとより、技術が最先端すぎて取り扱いが難しいのでは?

「経費はかなり下がってきています。高輪ゲートウェイの店のようにカメラをたくさん設置してとなるとそれなりにかかりますが、2坪ほどなら初期投資が20万円ほど、5~10万/日の売り上げでペイします。例えばスーパーなどの衛星的な役割を担うような小規模店(サテライト店)という位置付けなら、経費も抑えられますし、地域も便利になるかと」。

操作についても、専用のタブレットで商品を撮影しその画像をドラッグするだけと、ささっと感覚的に行えるそうです。新商品がでた際などに、朝の5分〜10分で追加するという程度の労力だといいます。

もっとも、商品をつめられる量を増やし、品出しを楽にして欲しいという声もあるといいます。通常、コンビニでは品出しは1日1~2回、加えておにぎりなどの賞味期限チェックもあるため、裏方も忙しい。それをやらなくて済むようになれば、店頭業務が大幅に減るというわけです。

「僕らのお母ちゃん世代が、店側として無理なく使えるというのがテーマのひとつでもあります」

阿久津 智紀さん

困難な状況をも突破していく阿久津さん。大企業であればあるほど制約も多いなか、その原動力はどこにあるのでしょうか。

「賭けと思われる場面でも、決断して進まなければならないときがあると思います」。締め切りを過ぎてからダメ元でスタートアップに応募したとき、ファミリーマートの澤田社長との2度の出会い、コンビニ店長や青森での経験、その時々の決断や行動が今につながっていると振り返ります。使命感を持って仕事をしているというよりも、刺激依存症なのかもしれないと笑う姿に軽やかさを感じます。「高輪ゲートウェイの店では、青森で作ったシードルも売っているのでぜひ見ていってください」。


これまでの苦労や経験、人と人との繋がり、DXとは無縁に思えるいい意味での人間臭さこそが、DXへの原動力なのかもしれません。

TOUCH TO GO
https://ttg.co.jp/


写真/武蔵俊介 文/丸山亜紀

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