特集・連載
文房具(グ)ルメ
切り込みが入っただけで旨さ数倍!?「サットン」の鞄
文房具マニア・ヨシムラマリの文房具(グ)ルメ 国内外のブランドがひしめき、文房具大国といわれる我が日本。高級品が威厳を放つ一方で数百円の筆記具がイノベーションを起こすなど、貴賤上下の別のない世界はラーメン店がミシュランの星を獲得するニッポングルメと相似関係にあり。というワケで、文房グルマンのイラストレーター、ヨシムラマリ氏がその日の気分とお腹のすき具合でさまざまな文房具を食リポしちゃいます。描き下ろしイラストとともにご賞味あそばせ! この記事は特集・連載「文房具マニア・ヨシムラマリの文房具(グ)ルメ」#30です。
今や毎日持ち歩くものとして、すっかり日常生活に定着したエコバッグ。それを文房具と呼ぶのは少し違うかもしれないが、実はいくつかの文具メーカーからもエコバッグが発売されている。そうしたアイテムは文具メーカーらしく、仕事にも役立つ工夫が凝らされているケースが多々あるので、広義の文房具である、ということにして紹介したい。
今回取り上げるのは、ファイルやテプラなどで知られる文具メーカー、キングジムの「サットン」というトートバッグである。
通常、トートバッグは上の口の部分が開いているが、サットンは肩にかける持ち手の根本あたりからすーっと地面に向かって縦にファスナーが伸びていて、ここからも開くことができるのが大きな特徴になっている。この縦ファスナーがあると何が嬉しいのか?順を追って説明したい。
トートバッグは、上が大きく開くのでポイポイ荷物を入れられるのが魅力だが、肩にかけたまま荷物を出し入れするのは結構大変、という弱点がある。特に体格の良い男性であるとか、冬で厚着をしている場合などは、持ち手とバッグ本体にスキマがほとんどなくなってしまうため、荷物を出し入れするためにはいったんバッグを肩から下ろさなくてはならない。
かといって、肩にかけた時に余裕を持たせようと持ち手を長くしてしまうと、重心が下がって見た目にも使い勝手的にもバランスが悪い。また、肩にかけず手持ちにした際にバッグの下が地面に当たってしまうという不便さも生じる。
そんな困り事をスパッと解決してくれるのが、この縦ファスナーなのだ。ここを開けば、大きい荷物であっても、肩に持ち手をかけたまま楽々と出し入れができるようになる。
仕事のシーンで、この機能が特に役に立つのが、展示会や見本市を見学してまわる時だ。そういう場では、A4サイズくらいのカタログやチラシをもらうことが多い。通常のトートバッグであれば、その度に肩から下ろさなければならなかったが、サットンであれば肩にかけたままスマートにしまうことができる。特に混雑した会場では、このわずかな差が非常にありがたいのだ。
もちろん、展示会や見本市でなくとも、本屋で大きめの雑誌を買った時や、スーパーやコンビニで2Lサイズのペットボトルを買った時などにも便利であることは言うまでもない。
ファスナーはバッグ本体の一番下までは開かず、やや余裕がある状態で止まるので、財布やスマホのように小さいものであっても、ほんの少しだけ気をつけていれば、意図せずにこぼれ落ちる心配はない。逆に、底に溜まった小さい物にも手が届きやすいので、展示会場でバッグに入れた名刺入れをササッと取り出す、といった場面でも便利だ。
細かいところまで気が利いているなぁ、と思うのは、ファスナーの上にあるスナップボタン。移動中など、荷物の出し入れがない時は、ここを止めておけばファスナーが何かに引っかかって不意に開いてしまうということもなく、より安心だ。
バリエーションは素材違いの2種類が用意されている。ナイロンタイプは折りたたみが可能で、たたんだ状態をキープするゴムベルトもついている。メインのバッグに入れておいて、サブバッグ、エコバッグとして使うのにおすすめだ。
サットン自体をメインのバッグとして使いたい、という方にはポリエステルタイプがある。こちらは折りたたむことはできないが、しっかりとした素材なので、ビジネスシーンでも違和感なく取り入れられそうだ。
それにしても、切り込みがひとつ入っただけでこんなにも嬉しいなんて。この気持ちは、洋食屋さんでナイフで切り込みを入れて割ると半熟卵があふれ出すタイプのオムライスを初めて見た時以来の衝撃かもしれない。
サットン(キングジム)
ナイロンタイプ 2420円
ポリエステルタイプ 4400円
https://www.kingjim.co.jp/sp/satton/
※表示価格は税込み
ヨシムラマリ
ライター/イラストレーター。神奈川県横浜市出身。子供の頃、身近な画材であった紙やペンをきっかけに文房具にハマる。元大手文具メーカー社員。著書に『文房具の解剖図鑑』(エクスナレッジ)。
文房具(グ)ルメとは? 価格やブランド名だけでは価値が計り知れない、味わい深い文房具の数々。フランス料理店でシャンパングラスを傾ける記念日もあれば、無性にカップ麺が食べたくなる日もありますよね? そんな日常と重ねあわせて、文房具に造詣の深い気鋭のイラストレーターが気になるアイテムとの至福のひとときをご紹介!