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ナイキ エアジョーダン Ⅰの本物と偽物

数年の間に世界を一変させる可能性を秘めた「DX(デジタルトランスフォーメーション)」にフォーカスする連載「プロジェクトDX」。時代の変化やニーズにDXを通じて応える優れたサービスの開発者やその現場を訪ね、未来を変える可能性やサービスに込められた思いを紹介していきます。

今回取材したのは、スニーカーをはじめアパレル、ブランドバッグなど88ブランドの製品の真贋鑑定サービスを展開する「フェイクバスターズ」。ここでは、複数人の経験豊富な鑑定士による鑑定とAI技術を掛け合わせた、高効率かつ精度の高い真贋鑑定が行われています。AIを活用するメリットとその可能性について、サービスを運営する「IVA株式会社」代表取締役CEO 相原嘉夫さんに伺いました。

プロジェクトDX 〜挑戦者No.15〜「フェイクバスターズ」のAIを活用した真贋鑑定

IVA株式会社 代表取締役CEOの相原嘉夫さん
「IVA株式会社」代表取締役CEOを務める相原嘉夫さん。学生時代にベンチャーを起業し、2019年に仲間とともに現会社を設立。大切にするマインドは「魂を燃やす」こと。

インターネットを介した中古品販売や個人間の中古品売買が当たり前のようになった昨今、以前にも増して問題となっているのが「フェイク」=偽物の存在です。これは消費者のみならず、ユーズド品を売買する企業にとっても信用に直結する頭の痛い問題。さらに昨今は、本物と肉薄するクオリティの偽物も多く出回っており、問題に拍車を掛けています。かくいう「フェイクバスターズ」を設立した相原嘉夫さんも、前職で偽物問題に悩まされていたといいます。

「大学時代に一社目となる会社を起業しまして、そこではユーズドや二次流通のファッションアイテムを海外に輸出する事業を行っていました。国内の個人の方から商品を仕入れるのですが、大量に買い付けるうちに「これ、偽物の可能性もあるよね?」と心配になって。それで、鑑定士と一緒に仕事を進めることになりました。

でももしその人が適当に鑑定していたら、こちらは気づけない。それでは意味がないと思い、複数人の鑑定士に見てもらうことにしたんです。すると今度は、管理が大変。Aさんは220個目が偽物といい、Bさんは350個目が偽物という……。バラバラに送るからゴチャゴチャになってしまうんですね。

そのときに気づいたんです。もし一つの会社へ鑑定に出して、それを複数人の鑑定士によって鑑定してもらえたらどんなに便利だろう、と。それがフェイクバスターズの立ち上げに繋がりました」。

IVA株式会社 代表取締役CEOの相原嘉夫さん

当初は鑑定にAIを活用する発想はなかったという相原さん。しかし、事業を進めていくなかでAIを使ったほうが効率もよくなるし、もしかしたら精度も上がるのではないかと思い当たったといいます。

「ツテがなかったのでいろいろな会社を当たりました。東大発のベンチャー企業みたいなところとも話したし、インドの上場企業や中国や台湾の企業とも話しました。本当にいろいろな会社と話して、やっといいパートナーと巡り会えて。開発にはなんだかんだで億単位のお金と、2年ほどの時間が掛かりましたね」。

一般的に、鑑定は経験則に基づき行われ、言語化されない世界。しかしフェイクバスターズは、所有する豊富な真贋データ、鑑定士それぞれがもつデータの集約を基にディープラーニングを行い、AIにその識別を学習させたといいます。さらに鑑定士が鑑定したデータを即時にAIに反映させることで、精度の向上や新しい偽物への対応に努めているとのこと。ただ、AIにも弱点があると相原さん。

「AIの鑑定精度も95%までは上がるのですが、そこから上は本当に難しいんです。というのも、同じ本物でも怪しい本物というのがありまして(笑)。そこを見抜くには、やはり経験則に頼らざるを得ない。AIにいくら頑張って教えても、微妙なラインは微妙なままなんですね。だから弊社は、AIだけで鑑定結果を出すことは絶対にしないと、そういう結論に至りました。
AIには“ここまでやってくれればいい”という線引きをしていて、わからないものに関してはわからないでよいとしています。言い換えると、結果が出たものに関してはほぼほぼ間違いがないという設定。AIでまず“ふるいに掛ける”という感じですね」。

前代未聞!? リアルタイムの真贋鑑定に着手

IVA株式会社 代表取締役CEOの相原嘉夫さん

ファイクバスターズには現在(2023年5月取材時)、46名の鑑定士が在籍。最も得意とするスニーカーでは、画像で行う「クイック鑑定」(550円〜)と、郵送された現物で行う「コンプリート鑑定」(2200円〜)の2種類のサービスを展開し、ともに1アイテムにつき6人1チームで鑑定に当たるといいます。AIの併用により、高効率かつ高精度の鑑定を行える体制を敷いた結果、画像鑑定なら一日8万件の真贋鑑定が可能に。さらに5000足のスニーカーの現物が郵送されてきても鑑定できるというから、驚きです。

ちなみに偽物と鑑定される確率は、BtoCの場合、全体の30%ほど(そもそも怪しいと思い鑑定を依頼するケースが多いため、確率が高くなる)。BtoBの場合、少ないところでは1%以下、多いところで10%ほどだとか。

IVA株式会社 代表取締役CEOの相原嘉夫さん

スニーカー鑑定に加えて、最近はラグジュアリーブランドの鑑定も開始。真贋鑑定サービス国内シェアNo.1と躍進著しいフェイクバスターズですが、直近では、ブックオフとのスニーカー鑑定の業務提携も話題になりました。斬新なのが、ブックオフの店頭からの真贋鑑定依頼が届いたら、査定時間中にリアルタイムで真贋結果を出すというスピード感! これも通常の画像鑑定と同じく、AI×鑑定士6人1チームでの複合的な鑑定がなされるため、精度が落ちる心配もありません。

「画像が送られてきたら、鑑定士がすぐ鑑定に取りかかる態勢を敷いています。スニーカーの撮影も規定の箇所を撮るだけなので、店頭に立つのは鑑定スキルのない方でも大丈夫です」。

「どちらが本物か、わかります?」

ナイキ エアジョーダン Ⅰの本物と偽物
片方は本物。片方は偽物。アナタにはわかりますか?

取材の途中、ナイキ「エアジョーダン Ⅰ」UNCカラーの本物と偽物を見せていただきました。パッと見はまるで同じ。でもよく観察するとステッチの発色が違っていたり、ロゴのエンボスの深さが違っていたり、わずかな違いが見受けられます。

プレミアにより片方は30万円の価値で、もう片方は1万円で流通する偽物。

取材陣はロゴのエンボスの深さから上の一足を本物と予想しましたが……答えは下が本物! 「もっとクオリティ高く表現されているものもたくさんありますよ」とのお話でしたが、ものの見事に騙されたのでした。相原さんは「僕は鑑定のセンスが皆無なのでどこがどう違うかはわからないのですが」と前置きしつつ、見るべきポイントがあると言います。

ナイキ エアジョーダン Ⅰの本物と偽物
インソールを外したところ。本物と偽物とで色の濃淡が異なるも、見るべきは糊の付き具合とか。

ナイキ エアジョーダン Ⅰの本物と偽物
中底のU字の縫い目も、真贋の判断ポイント。細かさや粗さが違う気もするけれど……。

「まず、インソールを取ってオモテ面とウラ面を見ます。そして中底の縫い目を見ます。一概にこうだからこう、とはいえませんが、このエアジョーダン Ⅰの場合、偽物のほうが細かく縫われていますね。

それから、タグも重要。内側のサイドに付いたタグと、箱のタグも見ます。鑑定はここを見て終わりです。AIも鑑定士もここを見ているんです」。

ナイキ エアジョーダン Ⅰの箱
箱の大きさが違う!のは……サイズが違うから当然でした。

どちらが本物?と問われて外身ばかりを気にしていましたが、真贋鑑定に外身はあまり関係なく、細部が重要というのは目からウロコ! しかし言われてじっくり観察しても明確な違いがわかるわけでもなく……。これでは、プロフェッショナルの鑑定をもってしか真贋判定ができないというのも当然の話です。

「箱だけ本物というケースもありますし、片足だけ偽物という悪質なケースもあったりします。サンプル品というパターンもあり、サンプル品を騙った偽物もある。「工場にツテがあるんだ」という怪しい人が寄ってきて、偽物を売られるケースが結構あるんです。

大前提として、世の中に出回る有名ブランドのスニーカーには全部偽物があると思ったほうがいいです。とりわけ流動性が高く、ある程度の値段が付くものに偽物が一番多い。頑張ったら買える、5〜7万円くらいの市場価値のモデルですね。みんなが好きで、ブランドも数を売ったものについては、偽物業者も本腰を入れてハイクオリティのものを作る傾向があります」。

あらゆる分野の偽物を駆逐したい

IVA株式会社 代表取締役CEOの相原嘉夫さん

AIのみの真贋鑑定では精度に限界があることは前述しましたが、では今後、テクノロジーの進化により、正規品が完全に偽物と区別できる機能を備えることは可能なのでしょうか? 質問をぶつけると相原さんは、「それができたら、ウチは終わりです」と笑いながら次のように続けました。

「結論からいえば、ないと僕は思っています。まず、ほとんどのモノがいくら頑張っても模倣されるという前提があるので、一般に流通している技術で模倣を防ぐことはできない。だからといってまったく新しい技術を開発するとなるとお金もすごく掛かるので、それではコストに合いませんよね。ブランドが対策に本腰を入れないのは、そもそもが無理という側面があるからなのでは? ただ、弊社の証明書が本物を保証する証になればとも思うので、それをやっていきたいとは思います」。

ほか、フェイクバスターズの今後の展望は?

「今弊社で鑑定を行っているのが、スニーカー、洋服、アクセサリー、ブランドバッグetc.という感じなのですが、高級時計も将来的には対応したいと思っています。あとは、トレーディングカードの鑑定も最近開始しまして、ここもさらに強化していく予定です」。

IVA株式会社 代表取締役CEOの相原嘉夫さん

「世界では年間3兆円規模で偽物が流通しているといわれ、今挙げたファッション、宝飾品が51%で、残り49%が絵画とか骨董品、化粧品や薬といわれています。いずれは残りの分野にも進出していきたいですね。ただ、そちらは全然畑違いの世界なので、ノウハウのある会社の買収も考えています。そしてグループを大きくしていき、“世の中に流通するものの真贋は全部フェイクバスターズに聞けばわかる”という状態にできたら嬉しい。
余談ですが、前に内輪で話したものには、会話の真贋を見極められないか?というのがありました。人が嘘をついたのがわかれば、会社の採用に使えるんじゃないか?と(笑)。まあ、空想ですね」。

ありとあらゆる分野に偽物がはびこるこの世界。フェイクニュースなんてものも問題になっていますが、もしかすると遠くない将来、AIを活用した真贋鑑定によって、実体のない言葉や情報も偽物が駆逐される日がくるのかもしれませんね。完全とはいわないまでも。

フェイクバスターズ https://www.fakebusters-iva.com/ja


写真/宮前一喜 文/秦 大輔

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