特集・連載
スペシャリストに聞く! 一生モノの黒スト「どこから選び、どこを比べる?」会議
本格革靴会議 「モノを大事に」なサステナ社会だし、物価高で「本当に永く使えるモノ」が欲しいし、「今こそ本格靴が必要!」と強く思うからこその珠玉の革靴100連発。おいそれと買える値段じゃないものも多いけど、だからこそ詳細解説したいワケです。ってことで、初心者もツウも納得する「一生靴」をここで見つけてください! この記事は特集・連載「本格革靴会議」#13です。
ここでは、トレンド不問のスタンダード靴についてお勉強。正しく選んでたっぷり愛せば一生履ける靴だけに、微差までしっかり理解して選びたいところ。その秘訣をスペシャリストに伺いました。
本格靴素人のカギモトが直撃!
編集部 カギモト
春からビギンに異動してきたものの、手持ちの革靴はわずか2足と本格靴に関してはど素人。今回目の前にズラリと並べられた黒ストの群れに早くも当惑中。
教えてくれたスペシャリスト
本格革靴専門家 ジェンティーレアンドカンパニー 代表取締役
寺杣敦行(てらそまあつゆき)さん
日本屈指の老舗にして皇室御用達メーカーとして知られる大塚製靴に長年勤務。革の品質から製法まで熟知するプロ中のプロ。独立後は”本格子ども靴”の販売を行う「ジェンティーレ東京」を設立し、発育を支える正しい靴選びの普及に尽力している。
同じに見えすぎる~からこそ、超専門家に聞く
カギモト「正直どこをどう見ればよいのか……(笑)」 寺杣さん「よく見るといろいろ違うんですよ。一緒に勉強していきましょう!」
同じ英国製でも、四者四様の個性が光る!
カギモト ここまで似ていると、どれを選んでも同じでは……?
寺杣さん 最初は皆さんそう思うんです。でも目が肥えてくると、それぞれの個性と魅力に気づくもの。たとえばジョン ロブの「シティⅡ」。
一見シンプルですがソールやコバなど隅々まで丁寧な作りが行き届いていて、昔ながらの英国ビスポーク靴的な美意識を感じます。つつましさの中に品があり、スーツに合う黒ストのお手本とでもいうべき傑作ですね。
ジョン ロブの「シティⅡ」
カギモト 黒スト界のお手本ですか! 確かに毎朝の通勤電車でこれを履いている人がいたら、俄然スーツ姿も見違えますよね。対して隣のチャーチは、同じ黒ストながらトウのボリューム感がジョンロブと違う気が……
寺杣さん 鋭い! チャーチの「コンサル」は、トウのボリューム感にコバの張り出しや無骨なステッチなど、男らしい力強さが魅力。日本では60年代からエグゼクティブたちの間では「いつかはチャーチ」と憧れの的でした。
チャーチの「コンサル」
カギモト スマートな中の力強さということですね。だんだん違いが見えてきましたよ。一方C&Jの「ケント」は、最近定番として人気のようですね。
寺杣さん これは本当にバランスがいいですよ。もともと数々の一流靴ブランドからOEMを依頼されていた背景もあり、あらゆるブランドのいいところを吸収して力をつけたのでしょう。いわば優等生的な靴で、中庸なラストは日本人にも合いやすい。しかも英国の老舗でU‐10万円のコスパもグッド!
クロケット&ジョーンズの「ケント」
カギモト どれどれ……ほんとだ! 僕の足にもぴったりです。確かに若い世代からしたらこのコスパはうれしい! 最後にエドワード グリーンの「チェルシー」はいかがでしょう?
寺杣さん エドグリにはひと目でわかる個性がありますね。グラマラスな曲線美が光るラストは、クルマのポルシェを参考にしたといわれています。ソールからコバに至るまでデザイン性が高く、ブランドの美学が詰め込まれています。
エドワード グリーンの「チェルシー」
カギモト 確かに黒ストにしては若干ボリューミー。スーツにはもちろん、細めのデニムをロールアップしてカジュアルに履き崩しても映えそうですね~。
寺杣さん まとめると、シンプル・イズ・ベストのジョン ロブ、剛健さと風格のチャーチ、バランスのC&J、優美さのエドグリというイメージ。ね? 同じに見えて、それぞれ個性がちゃんとあるんです。
❶やはり“英国正統”から選ぶ
黒ストは基本スーツスタイルに合わせるもの。ゆえにスーツの原点である英国ブランドから選ぶのが間違いない。
❷「華奢なラスト」を比べよ
細身のドレスラストは一見どれも同じに見えて、それぞれ印象や足形との相性が異なる。その微差を吟味すべし。
❸「良質なソール」を比べよ
普段は見えない靴底にも、各ブランドの靴作りに対する美意識が色濃く反映されている。仕上げの違いに着目しよう。
❹「コバの表情」を比べよ
ラストシェイプの違いに加えて、コバの張り出し方や仕上げ方によっても靴の表情は変わる。目を凝らして見るべし。
ドレス靴の本場・英国靴の黒スト四天王を比較!
[1]JOHN LOBB[ジョン ロブ]since 1849 英国
シティ Ⅱ(LAST:7000)
つま先付近がやや低めに設定されていて、横顔も大変エレガント。
代表モデルのひとつとして不動の支持を集めるマスターピース。ラスト「7000」もジョン ロブの定番で、やや細身のモダンなラウンドトウが特徴だ。世界最高クオリティのフルグレインレザーを厳選して使用していることでも有名。19万5800円(ジョン ロブ ジャパン)
シャープに洗練された細身ラスト。
底側の出し縫い糸を隠したヒドゥンチャネル。最高級靴らしく手間をかけた仕上げだ。
コバはわずかに張り出し、英国の正統的なクラシック感を演出。出し縫いの糸目が乱れなく並び、シンプルかつ上質な印象。
黒ストのお手本的シンプルさ。まだ毎日スーツです……な人の最強相棒に
[2]CHURCH’S[チャーチ]since 1873 英国
コンサル(LAST:173)
つま先部分にやや高さがあり、ボリューム感のある顔つき。
モデル名の「コンサル」は”領事”という意味。比較的ストレートなフォルムが特徴で、控えめかつ飾らない魅力が◎。ラスト「173」はトウの先端をややワイドにとったラウンドトウで、男性的な力強さも感じさせるデザインだ。16万600円(チャーチ クライアントサービス)
すらりと伸びたストレートラスト。
出し縫いの糸が底面に露出したオープンチャネル仕様。素朴な印象だが独特な味もある。
コバの張り出しが比較的大きめで、質実剛健な顔つきを醸し出す。目付けと呼ばれるギザギザ模様を入れているのも特徴。
シャープながらトウのボリューム感◎。スマートなだけじゃなく力強さも欲しい人へ
[3]CROCKETT&JONES[クロケット&ジョーンズ]since 1879 英国
ケント(LAST:341)
つま先〜甲のラインはストレートぎみ。横顔は意外と素朴だ。
C&Jの黒ストといえば「オードリー」が長年定番だったが、近年はこちらが新定番として躍進。丸みを帯びたエッグトウの「341」ラストは、ヒールカップが小さめでフィット感も高い。コストパフォーマンスにも優れた一足だ。8万8000円(グリフィンインターナショナル)
様々な足に合う中庸なラスト。
チャーチと同様、出し縫い糸が露出したオープンチャネル。靴底の装飾性は排されている。
出し縫いのステッチを隠し、目付けで飾り付けを施している。糸目が見えずスッキリした印象だ。コバの張り出しは控えめ。
傑作ながら高コスパ。しかも足型を選ばない中庸なラストでフィッティング重視ならベスト
[4]EDWARD GREEN[エドワード グリーン]since 1890 英国
チェルシー(LAST:82E)
横から見ても抑揚のあるグラマラスなフォルム。絶品の立体美だ。
ラウンドトウ木型の至宝と称される「202」ラストを細身にモダナイズした「82」ラストを採用。内側を直線的に、外側を曲線的にした独特のラインが有名だ。小指付近が張り出しているため、幅広足な日本人にも合いやすい。17万4900円(ストラスブルゴ カスタマーセンター)
ふくよかな色気漂う曲線美ラスト。
土踏まずの部分を黒く塗った「半カラス仕上げ」を採用。ビスポーク靴にも通じる意匠だ。
ラストの曲線美を強調するため、コバの張り出しを極力抑えている。高い技術をもつエドワード グリーンならではの仕立て。
英国名門の技術が生む曲線美。その独特のオーラは、デニムに合わせても新鮮なバランスに!?
[ついでに知りたい“黒スト”こぼれ話]
アメリカの歴代大統領の足元を支えた黒ストの存在
8万5800円(トレーディングポスト青山本店)
今年創業100周年を迎えたアレン エドモンズは、歴代の米国大統領が愛用していることでも有名。就任演説やホワイトハウスへの初出勤時に着用するのが慣例だそう。
オバマ氏はその前例を破りコール・ハーンの靴で登場したらしく、それを見たアレン社は愕然……でも後日しっかりアレンの靴を着用したというツンデレ(?)エピソードも。
※表示価格は税込み
[ビギン2022年10月号の記事を再構成]スタッフクレジットは本誌をご覧ください。