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文房具ルメ
パイロット PILOT Vコーン

パイロットのボールペン、Vコーンが好きだ。

商売柄、ボールペンなどは新製品が発売されるとひと通り手に取って試すし、冗談抜きで来来来世の分まであるのではないか?というぐらい大量のペンが家にある。それでも、種々様々のペンの中から、無意識のうちにいつも手に取ってしまう定番品がいくつかある。今回紹介するVコーンは、そんなボールペンのひとつなのだ。

Vコーンの発売は1991年と、かなりのロングセラーである。そのためか、デザインも最近の令和デザインのペンたちと比べるとなんとも素朴な佇まい。小学校のとき、先生が職員室で使っていたな~という雰囲気である。それでも、新製品が目まぐるしく発売される筆記具界の中で今も愛され続けるのにはやはり相応のワケがある。

私がVコーンを愛する理由。それは直液式の水性ボールペンであるがゆえの、だばだばとしたインクの出のよさと、それに由来する軽いのにソリッドな書き心地、くっきりとした筆記線の美しさだ。

ボールペンは、インクの種類によって大きく油性、水性、ゲルの3つに分けられる。油性は粘度の高いインクが入っており、ペン先のボールの回転によって紙に転写していく仕組みだ。そのため書き心地が重くなる。ゲルインクのボールペンは、通常は固体だが、ボールが回転する力で液状に変化する性質のインクを使用しているため、油性より書き心地は軽いが、書くためにはボールを回転させる必要がある点は油性と同じである。

それに対し水性ボールペンは、インクが液体の状態である。Vコーンも、軸全体がタンクになっていて、たぷたぷとインクが入っているのが見えるだろう。インクが液状だと何がよいかというと、それは筆圧がほとんどいらないということ。毛細管現象により、ボールが回転しなくとも、ペン先が紙に触れた瞬間にインクがしみ出してくるので、万年筆のように軽い力で書けるのだ。

そんな水性ペンが、なぜ油性やゲルに比べて一般的でないのかというと、インクの流出量の調整が難しいというデメリットがあるからだ。ビー玉でフタをしたラムネ瓶を想像してみてほしい。それを逆さまに持ってビー玉をちょっと押し込んだとしたら……どうなるか、わかるだろう。

Vコーンのすごいところは、パイロットが万年筆の製造によって培った技術を活かし、インクタンクとボールがあるペン先の間に、クシ型のペン芯が入っていることだ。これにより、インクが流れ出る量が一定に保たれている。そのため、水性ボールペンでありながら、最初から最後の1滴まで、かすれもせず、だばーっとなりもせず、ちょうどいい量のインクで書けるのだ。

ペン芯部分は透明で、その構造を外からじっくり眺めることができる。インクタンクを兼ねた本体軸といい、機能がそのままデザインになっており、まったく無駄がない。先ほどは「素朴な佇まい」と言ってしまったが、よくよく見るとF1マシンのようなカッコよさではないか。

水性ペンは特性上乾燥に弱いので、キャップ式であることはノック式のペンに慣れているとやや不便に感じるかもしれない。だが、キャップ式のペンは、ペン先と軸の間に遊びがなく、ブレのないソリッドな書き心地を味わえるというよさもある。自分がイメージした通りにペン先が動く、頭と紙の間に何もジャマがないと感じる、そんなペンなのである。

そして驚くべきは、これだけのものが税抜き100円ということ。しかも、街の文具店など、わりとどこでも買えてしまうのもありがたい。

ペンも牛丼もつゆだくが好き

そんなVコーンを自分にとってのグルメに喩えると、「つゆだくの牛丼」ではないかと思い至った。

高級なもの、美味しいものは世の中にたくさんあるが、なんだかんだ言ってふと食べたくなるのは早い・安い・うまいの三拍子が揃った定番の味。定番ゆえに、一人ひとりが自分なりの好みやこだわりを持っていたりする。

ボールペンも高いものから安いものまで多々あるが、食事と同じく自分の好みを知って、その時々で食べたいものを美味しくいただくのが一番だと思う。ツウはつゆ抜き!なんて言われることもあるけれど、私は牛丼もつゆだくが好きですね。

パイロット Vコーン
110円
https://www.pilot.co.jp/products/pen/ballpen/water_based/vcorn/

※表示価格は税込み。

ヨシムラマリ

ヨシムラマリ

神奈川県出身。子供の頃、身近な画材であった紙やペンをきっかけに文房具にハマる。現在は会社員として働くかたわら、イラスト制作や執筆を手掛けている。著書に『文房具の解剖図鑑』(エクスナレッジ)。

文房具グルメとは? 価格やブランド名だけでは価値が計り知れない、味わい深い文房具の数々。フランス料理店でシャンパングラスを傾ける記念日もあれば、無性にカップ麺が食べたくなる日もありますよね? そんな日常と重ねあわせて、文房具に造詣の深い気鋭のイラストレーターが気になるアイテムとの至福のひとときをご紹介!

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