【蕎麦スス流】Vol.84〜全国制覇!? 日本の立ち食いそば〜
横浜ローカル名物を直営店で。麺房 八角の「かき揚げつけ天そば+海老天丼」【大倉山】
Vol.84
大倉山麺房 八角(やすみ) 大倉山店
かき揚げつけ天そば+海老天丼
470円+750円
立ち食いそば屋の成り立ちとしては、駅や繁華街あるいは工場の近所など、人流の多めな界隈でのいわば「立地ありき」で始めたお店が圧倒的に多くみられる。潜在的にお客となりうる人は多ければ多いほどよい。
またお客の心理から見ると距離の離れたところには足が向かないものだ。味の好みはあったとしても、たとえ50メートルでも近いところに類似の店があればそちらに入ってしまう、という厳しい現実があって、だからこそ路麺店はまず立地に徹底的にこだわる。
ところが世の中には例外もあって、なぜこんなところに?と思うようなお店も稀に存在する。例えば、製麺会社が自社の工場に併設して店舗を営業する場合がそう。いわゆる製麺所直営路麺店というやつで、筆者はとくにこの形態を好んでいる。
その理由としては、まず第一に自社の麺を使うため「盛り」がいいこと。類似のお店に比べると3割程度は麺が多い。第二に鮮度の良さ。やはり打ちたてのそばは風味よくうまい。第三には、良い意味での副業感とでも言おうか、接客に素朴さがあって気張らず居心地がよいことだ。
今回ご紹介する八角(やすみ)本店もそういった製麺所直営のお店。駅でいえば東横線・大倉山駅、あるいは横浜市営地下鉄・新羽駅からやや歩く。
鶴見川に近い地に製麺工場を建てたのは、これは筆者の想像であるが水資源に関係ありそうだ。製麺には大量の水が必要で、鶴見川の伏流水脈に井戸を掘り地下水を利用することは十分に考えられる。今でこそマンションの林立する住宅街だが、工場のできたころは、もっとのどかな田園地帯だったに違いない。
名物は「つけ天」そば。つゆの小丼に天ぷらをドボンと入れた状態で供されるもの。聞きなれない名前なのだが、横浜ではわりと有名なローカル名物だ。横浜駅西口の老舗「角平(かどへい)」が考案したものと言われている。天ぷらそばともりそばのいいとこ取りとでもいえようか。
「つけ」の語源は不明だが、もう一品タネを「付ける」あるいは天ぷらをつゆに「浸ける」あたりからきたものではないだろうか。
■つゆ: 鰹節主体でキリッとしたやや甘めのカエシ。江戸前風のうまいつゆ。
■かき揚げ: 揚げ置きで、野菜主体。ぽってりした味のよいコロモ。つゆの甘辛感と天ぷらコロモの相性がとてもよい。
天丼も注文してみた。海老のコロモはかき揚げのものと似てぽってり系だが、甘辛めのつゆを吸ってすこぶるうまい。ミニサイズ(つけ天そばとセットで870円)あり。カツ丼、親子丼など丼もの充実。製麺所らしくラーメンも隠れた人気者。
11:30から14:30の短めな営業時間は上述した副業感があって好ましい。店員さんは製麺工場と兼業なのかもしれない。
ところで筆者は開業時刻前に先頭で並ぶつもりが5分ほど遅れて到着してしまったのだが、現地について驚いた。このわずか5分ほどの間に行列ができているではないか。店内には既に食べ始めているお客もいる。
みなさんラフな格好でいるところを見ると近隣にお住まいのかたのようで、年齢性別もさまざまでアットホームな常連な雰囲気を醸し出している。この値段でこの味の店が自宅の近くにあれば、通い詰めたくなるのもよくわかる。
八角本店には立ち席は無いが、非常にリーズナブルな価格やセルフサービスのお水など、ある意味“座って食べられる立ち食いそば屋”と言えるかもしれない。
ここ本店以外にはJR横浜駅のポルタ地下街にも出店あり。こちらはカウンターのみのお店。揚げたて熱々の天ぷらを提供するところが本店と異なる。本店同様にうまい蕎麦とつゆなので、気になるかたはそちらも訪問してみることをお勧めする。
住所:神奈川県横浜市港北区大倉山5-15-19
アクセス:東横線・大倉山駅、徒歩15分
営業時間:11:30〜14:30(月〜土、祝日)
定休日:日曜
評価:3点 ☆☆☆
※本記事は、2022年6月11日取材当時の情報です。
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写真・文/ケビン(平林啓一)
オートバイに乗って900軒の立ち食いそば店を探訪。最盛期には年間300軒を食べ歩く。立ち食いそばチェーン店・個人経営店にかかわらず食す。また、生めん・茹でめん・冷凍めんにこだわらず、どれも大好き。