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ブリティッシュ&アイリッシュ・ライオンズと対戦したラグビー日本代表の面々

2019年のラグビーワールドカップ日本大会で史上初の決勝トーナメント進出を果たし、「ONE TEAM」が流行語大賞に輝くなど世の話題を独占したラグビー日本代表。だが、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大の影響で、前回ワールドカップから今年5月まで約1年7か月もの間、チームとしては一切活動することができなかった。

2023年の同フランス大会に向けて再び時計の針が動き出したのは、今年がラストイヤーとなったトップリーグ閉幕直後の5月26日、大分・別府合宿からだ。実に601日ぶりの実戦となった6月12日のサンウルブズ戦、その翌週から7月にかけての欧州遠征は、2019年からラグビーの虜になった層も含め多くのファンから注目されることとなった。

6月26日は、実に130年以上の歴史を誇る「ブリティッシュ&アイリッシュ・ライオンズ」とスコットランド・エディンバラのBTマレー・フィールドで初めて対戦した。ブリティッシュ&アイリッシュ・ライオンズ(以下「ライオンズ」)とはイングランド、ウェールズ、スコットランド、アイルランドの4つのラグビー協会の所属選手によって構成されるドリームチームで、編成は4年に一度だけ。南アフリカ、オーストラリア、ニュージーランドの順に4年ごとに遠征するため、それ以外の国の代表との対戦はレアケースと言える。日本代表がワールドカップで極めて高い評価を得たからこそ、また商業的な成功が見込まれたからこそ実現したカードだ。

前述の通り長いブランクがあった日本代表は、サンウルブズとの苦戦で浮き彫りとなった課題を抱えながらの遠征となった。前回ワールドカップで世界ランキング1位(2021年7月19日現在)の南アフリカとの対戦に向けて準備を進めていた精鋭揃いのライオンズとの対決で課題を軌道修正し、最終調整できるか否かが勝敗を分けるポイントとなっていた。

その前半から後半9分にかけてライオンズに4トライを決められ、歴史的金星を目指していた日本代表は苦しい状況に追い込まれる。それでも後半19分、マイボールラインアウトを起点に途中出場のFL/No.8姫野和樹がトライを決めるなど後半は攻守ともに持ち直し、試合は28-10で敗れたものの後半に限れば7-10と一定の成果を残した。

ライオンズ戦から1週間後の7月3日、日本代表はホームで85%という高い勝率を誇る強豪アイルランドと敵地ダブリンのアヴィヴァ・スタジアムで相見えた。2019年のワールドカップで日本代表に敗れたアイルランドはライオンズに中心選手を送り出していたほか、SOジョナサン・セクストンやPRキアン・ヒーリーといった主力が休養していたこともあり完全な1軍とは言えないものの、SOセクストンに代わりキャプテンを務めたLOジェームズ・ライアンをはじめとする一線級のメンバーが日本代表を迎え撃った。

試合直前、先発予定だった姫野が練習で負傷し急遽欠場するというアクシデントがあったものの、日本代表は前半からキャプテンのFLリーチ マイケル、CTBラファエレ ティモシーがトライを決め、19-17とわずか2点ビハインドで試合を折り返す。後半3分にはチーム最年少のWTBシオサイア・フィフィタがSO田村優のグラバーキックをインゴールに持ち込み逆転トライを決め、19-24と逆転に成功する。その後アイルランドに2トライを奪われたが、後半17分にはWTBフィフィタに次いで若いSH齋藤直人がトライを決め、33-31と再び2点差に詰め寄る。

代表デビュー2試合で高い貢献度を見せたラグビー日本代表SH齋藤直人
代表デビュー2試合で高い貢献度を見せたSH齋藤直人(写真は6月12日のサンウルブズ戦)

だが、日本代表がペナルティーを重ねたことによりアイルランドは2本のPGを追加し、39-31で日本代表は連敗。2019年のワールドカップに続く対アイルランド連勝はならず、欧州では勝ち星を挙げられないまま遠征を終えた。

世界屈指の名手が揃ったライオンズはともかく、主力を欠くアイルランドに勝てなかったことに失望する向きもファンの間であったようだが、シックス・ネーションズなど強度の高い試合を重ねてきた相手選手たちと違い、日本代表はまだ始動したばかりだ。世界のトップチームと真っ向勝負し、しっかり対抗できていたことは高く評価すべきだろう。日本代表のジェイミー・ジョセフHCも「ライオンズ戦はチャンスを作っても(トライを)取り切ることができなかったが、きょうは良くなった」と評し、「ポジティブな結果。ここが出発点になる」と欧州遠征を総括している。

2023年のワールドカップまであと2年だが、2019年の同じく2年前に当たる2017年6月に日本で行われたアイルランドとの対戦は2戦2敗(22-50、13-35)。2戦目は修正できた面もあったが、日本代表は勝機を見出せないまま連敗を喫した。

むろん単純比較できることではないものの、今回のライオンズ戦、アイルランド戦も同じく連敗に終わった一方で、日本代表は十分戦えることを示したと言える。ライオンズ戦で代表デビューを飾りアイルランド戦でトライを決めたWTBフィフィタ、SH齋藤という若い戦力が世界に通用する実力を示したことも日本代表にとって大きな収穫だ。

サンウルブズ戦で持ち前のフィジカルの強さが光ったラグビー日本代表WTBシオサイア・フィフィタ
持ち前のフィジカルの強さが光ったWTBシオサイア・フィフィタ(写真は6月12日のサンウルブズ戦)

勝負事に「たられば」を持ち込むべきではないが、アイルランド戦の試合前に急遽欠場となった姫野と後半11分に負傷交代したFB松島幸太朗という、世界(姫野はニュージーランド、松島はフランス)を舞台に活躍してきたキーマンが万全であれば、違う結末が待っていた可能性は十分ある。また、彼らを脅かすような選手が現れれば日本代表の選手層がさらに厚くなり、戦力の上積みはもちろん前回ワールドカップで出た課題である主力選手の連戦による疲弊も避けられるだろう。

11月はスコットランドと、そして再びアイルランドとそれぞれ敵地で対戦することが決まっている日本代表。一部の代表候補メンバーによる合宿を8月下旬から開始し、秋のテストマッチに臨むこととなる。次こそは「ONE TEAM」の旗印のもと強豪との対戦を制してほしい。

編集者兼ライター
齋藤龍太郎

《ワールドワイドにラグビーを取材中》
編集者として『ラグビー魂』をはじめとするムックや書籍を企画。2015年にフリーの編集者兼ライターとなり、トップリーグをはじめ日本代表の国内外のテストマッチ、ラグビーワールドカップを現地取材。フォトグラファーとしても活動。著書に『オールブラックス・プライド』(東邦出版)。

文・撮影/齋藤龍太郎

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