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セダンはおっさんの乗り物という先入観!? そのナナメ上を行くフレンチ切れ味セダン

全長4.7mぐらいのセダンといえば、コンサバ臭の強い大人カテゴリーで、今や日本市場でもステータス性の高い輸入車がかなりの割合を占めます。BMWの3シリーズとかメルセデス・ベンツのCクラス、アウディA4といったドイツ御三家が強くて、対する日本勢はレクサスISやマツダ・アテンザなどです。言っちゃなんですが、ベタめの高級感か、ドメドメのスポーツ風味大盛り仕様か、そんな二者択一しかなくて、まだココロはヤングなミドル見習いには手を出しづらいのが実情でした。

セダンはおっさんの乗り物という先入観!? そのナナメ上を行くフレンチ切れ味セダン

数日前に、本国のCEOプレゼンとともに日本国内でも発表されたプジョー508は「ラディカル」をキーワードに、このクラスのセダンの定石をフレンチ目線でモダナイズ。508のネーミングこそ引き継ぎますが、このクラスでは珍しくゴテゴテしないデザインで、ベースとなるプラットフォームも最新世代のEMP2を採用しています。今回はフランス本国にて、セダンとステーションワゴン版の508SWに乗った印象を、つらつらと報告してみましょう。

まず508の美点はやりすぎてないシュッとしたデザインが、外観にも内装にも貫かれていること。窓枠のない(サッシュレス)ドアで横アングルをすっきり見せる手法はドイツ車でもお馴染みですが、プレスラインに凝りすぎず、適度な細マッチョの佇まいを醸し出してます。トランクはリアガラスごと跳ね上がる5ドア・ファストバックで、クーペライクな外観と実用的な荷室という、小ズルいボディ形式です。ヘッドライト脇の牙のようなLEDライトこそ、当初はエグみと映りますが、横から見るとフェンダーラインにきっちり沿う造形なので、実車は写真で眺めるより控えめです。

内装の精密感は、ラテン車離れしています。このクラスのセダンは、各メーカーとも概して、居間というより書斎っぽい寛ぎとパーソナル感を狙いますが、ドイツ車は事務的で日本車は要素が煩雑な傾向。508は要素すっきりの少なめで、腕どころか手や指のリーチまで計算され尽くした操作系のエルゴノミックな配置まで、地味ながらよく出来ていますし、大ぶりシートのホールド性も上々です。

セダンはおっさんの乗り物という先入観!? そのナナメ上を行くフレンチ切れ味セダン

試乗したのは225ps・300Nm仕様と、180ps・250Nm仕様、いずれもガソリンの1.6Lターボ+8速オートマでした。日本には導入されない前者のほうが、トルクが太いおかげでエンジン回転が抑えられより静か。路面状態をカメラで読み取ってコンマ数秒レベルで減衰力を最適化するアクティブサスも備え、19インチの大径ホイールなのに乗り心地も上々で、断然、説得力に満ちていました。

セダンはおっさんの乗り物という先入観!? そのナナメ上を行くフレンチ切れ味セダン

つづいて508SW、つまりワゴンでアクティブサス付き、180ps・250Nmの18インチ履き仕様に乗ってみたところ……目からウロコが落ちました。何がって、アクティブサス・コントロールが壮絶に優秀だったってことです。全般的に静粛性は高くてもトルクが細くてエンジン音が耳に届く分、225ps仕様には譲る印象だった180ps仕様ですが、ドライブ・モードをスポーツ/ノーマル/エコに切り替えたときの、メリハリが凄いんです。

ワリとドイツ車や日本車の同じような機能は、0~100%の間が3等分に切られて、硬い・フツー・柔らかいに分かれているだけだったりします。でもプジョー508のそれは、巧い役者さんが目の前で喜怒哀楽を演じているかというぐらい、キャラが明確にバチーンと変わるんです。

大体、ノーマル状態でも、フツーのクルマよりスポ―ティさは+1.5割ぐらい。スポーツに切り替えると2段ほど低いシフトを選ぶようになり、ステアリングやアクセルの応答性が鋭くなって、マジで噛みつき&戦闘モードに……。いきおい本能的に走りに集中することになります。逆にエコ・モードでは、一気に操作フィールは丸められ、加速もまったり・のんびり、でもひとたびアクセルを奥まで踏み込めば、ロジックよりドライバーの意志を尊重とばかり、通常加速に移ります。つまり手元のスイッチやタッチパネル内をガチャガチャやらずとも、クルマが従います。

そもそも508は1.5t程度の軽量かつ低重心設計で、ハンドリングの感触もしっとり。どこでどう切ってもミズスマシのようにキュンキュン曲がるわかりやすいスポ―ティな演出はないのですが、ドライバーがちゃんと前荷重をかけてやればもっと曲がる、そういうタイプです。上下動は感じられても、キツい突き上げはきっちり吸い込むフラットな乗り心地が、まさしく成熟した大人のアシ。ステーションワゴン版の508SWはセダンより車重がかさむ分、鈍くなるかと思いきや、左右に切り返す際も無駄な動きを抑えつつ、じつに滑らかでした。

加えてADAS(運転支援システム)関連も、レベル2として完成度は高いです。アダプティブ・クルーズコントロールを設定すると、設定した瞬間の車線内での位置を守ろうとする「レーンポジショニング」機能が作動するので、緩い右カーブで左に修正舵を当てるような、ピンボール現象的な動きや違和感がありません。

惜しむらくは、高速道路の上り坂で8速巡航だと、1,2段ほどキックダウンしてうるさく感じるところ。エコ・モードならキックダウンしづらくなりますが、その分、回転が失われやすくなるところ。というわけで長距離ツアラー的に乗ることが多いなら、トルクが400Nmのモリモリ仕様、2Lディーゼルをすすめます。フランスの高級オーディオメーカーであるフォーカル社のシステムを搭載している点も、508ならではのウリです。

ついでに言っておくならエントリー価格は417万円~と、ガソリンもディーゼルも500万円アンダーに収まる価格帯もかなり戦略的。「フランス車=お洒落」的な軽さではなく、「セダン=おっさんの乗り物」の偏見を覆しつつ、それでいて理性で選んで損のない一台と断言しておきます。


写真・文/南陽一浩

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