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服飾べしゃり力が身につく[小林学の小噺学]

バレンシア製「LVC」で紐解く、現代的ヴィンテージの新たな価値

服好き同士のしゃべり場で日夜繰り広げられる服飾トーク。知らなくても生きていけるネタを披露し合う瞬間こそ、服好きには至福のジ・カ・ン。ということで、業界屈指の服飾べしゃり力で洒落者を引き込むオーベルジュの小林さんを指南役に迎え、即話したくなる小噺をレッツ・スタディ♪

Profile
オーベルジュ デザイナー 小林 学さん

オーベルジュ デザイナー

小林 学さん

服飾漫談師

1966年生まれ。ヴィンテージにモードにフレンチと守備範囲は宇宙。べしゃり力も業界随一で、自身のYouTubeチャンネルでも服好き垂涎の小噺を軽快に繰り広げる、服飾亭の止め名。ちなみに題字は愛娘の小林凛さん著!

《90’sバレンシア製LVC》
「無駄な誇張を一切省いた、いわばリアル森進一の『おふくろさん』(笑)」

90’sバレンシア製LVC

オリジナル!? と見紛うほどヴィンテージ顔の一本は、小林さんが20年ほど前に入手し、手塩にかけて育てたもの。状態やサイズによって異なるが、バレンシア製LVCのジーンズは2次流通市場で1万円〜5万円程度で入手可能。

最近思うんです。『今ヴィンテージ界は“2周目”に突入している』って。どういうことかというと、そもそも数年前までは、まだ“1周目”。つまり『古い年代に作られた“オリジナル”だけが“ヴィンテージ”』と認定されていました。でもどうでしょう?

今や高騰しすぎてオリジナルなんて買えたもんじゃない!(涙) だからこそ若い世代の服好きたちを中心に、『古い年代のものじゃなくても、ロマンを感じるんだったら“ヴィンテージ”と認定してもいいでしょ!』というマインドに変わっていったと思うんですよね。

これが“2周目”。つまり『“ヴィンテージ”の枠組みを、90年代以降に作られた新しいものにまで拡張する』という流れが生まれているんです。

その象徴こそが、“バレンシア製のLVC(リーバイス ビンテージ クロージング)”。LVCというのは、過去の名作をリーバイス自らの手で忠実復刻したライン。今でも継続展開されているんで、これ自体が偉いわけじゃないんですが、キモは“バレンシア製”という部分。

これはリーバイスのお膝元であるサンフランシスコのバレンシア工場で作られていた製品を指すんですが、この工場は2002年に閉鎖されているんです。つまりここで作られた製品はもう手に入らない!

この“希少性”と、言わずもがな“米国製”であること、伝統ある“コーンミルズ社のセルビッジデニムが使われている”こと、“555刻印のボタンが使われていて判別しやすい”ことなどなど、色々な役が乗っかって、ヴィンテージ“フィール”なアイテムとして価値が高まってるんです。

しかも服作りに携わる身として俯瞰で見ても、この頃の製品はクオリティが高い。この手の復刻モノって、消費者にわかりやすく伝えるために、えてして特徴を誇張してることが多いんです。森進一のモノマネみたいに、コロッケくらいデフォルメしないと満足してもらえないから(苦笑)。

その点バレンシア製LVCは“リアル森進一”。ビッグEタブや紙パッチ類の意匠はきちんと押さえつつ、肝心のデニム生地はいたってプレーンなうえ、藍の濃度もレギュラートーン。当時は未洗い販売で、僕が20年かけて履きこんだ結果が写真の通り。悔しいほどにリアルに育つんだよなー。

はみだし用語解説
 

ボタン裏の555刻印

❶ボタン裏の555刻印
リーバイス製品はボタン裏などに工場番号が刻印されていることが多く、価値を見極める際の判断基準になることも。バレンシア工場の製品は“555”と刻印されているのが目印なので、初心者でも見極めやすいはず。
 

紙パッチ

❷紙パッチ
ウエスト部分に配されるパッチもまた、各年代によって仕様が異なる通好みな意匠。小林さんが愛でる上の一本は、紙パッチに“501XX”という文字が明記された、通称“55年モデル”。他の年代は革製パッチもあり。

 
※表示価格は税込み


[ビギン2025年11月号の記事を再構成]スタッフクレジットは本誌をご覧ください。

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