特集・連載
地方ショップの情熱リポート!
あのWHCが進化して復活!? 福岡県・フレームで見つけた新定番の革小物&幻の革靴【ナニコレ珍名品#3】
BEORMA この記事は特集・連載「BEORMA」#04です。
ビギンが日本全国津々浦々を行脚し、地方ショップの「オリジナル商品」を掘り起こす本企画。僭越ながら今年で創刊36年目を迎えるビギン、もはやどこにでも置いてありそうなセレクトアイテムに興味はございません。各ショップがウンウン悩んで考えた末に生まれる「ナニコレ⁉」なオリジナル商品にこそ、唯一無二の魅力が、ひいてはそのお店の「スピリット」が宿っているのです!
第3回は福岡県白金にお店を構えるフレーム。ビギンではおなじみ、名だたる名門がひしめく店内にどんな珍名品が待っているのか⁉ そしてそんな珍名品から紐解く、お店の「スピリット」とは? 直撃取材で聞いてきました!
今回お邪魔したのはココ!
福岡といえば、博多や天神、薬院が有名! 海外からも観光客がわんさか訪れていますが、近年、注目されているエリアといえば白金。博多の中心地からタクシーに乗って10分ほど。閑静な住宅地の通り沿いに、地元のファッションフリークがお忍びで通う個性派ショップが続々と開業しているんですね。
今回ビギンが訪れた「フレーム」は、名だたる名門のインポートを務めるグリフィンインターナショナルが、1999年に福岡市大名にオープンした全国で唯一の直営店。これまで賑やかなショッピングタウンで営業してきましたが、2021年に白金へ移店。繁華街から少し離れることで、以前にも増してゆっくり買い物を楽しめるように。店前に駐車場を備えているので、レンタカーを借りてフレームに向かっても安心です。
展開中のブランドは、昨年惜しまれつつ廃業したホワイトハウスコックス(以下、WHC)の後継ブランド、べオーマや、英国靴の代表格クロケット&ジョーンズなど。職人技の活きるレザー製品が、店内には整然とディスプレイされています。
フレームならではの旨みは、豊富な取り揃え。べオーマもクロケット&ジョーンズも通常のセレクトショップでは拝めないようなニッチなモデルも常備しています。店に入ってすぐの机には、全国各地から集まった革好きたちにエイジングされたWHCがずらり。それらを眺めるだけでも十分楽しめますが、自分だったら……なんて妄想を膨らませているうちに、やっぱり我が子をお迎えしたくなるのはモノ好きの性(笑)。そこで今回はレザー界の聖域にて発見した珍名品をご紹介します。期待を裏切らないとんでもアイテムが見つかりましたよ〜♪
写真左は、ショップマネジャーを務める日髙さん。キャリア20年以上の大ベテランで、入社当時から現場一筋。「移店してから早3年目。来店されるのは、いまもWHCファンの方が多い印象。アジア圏のお客様も多いですね」
日髙さんと同期の水本さんは、スクエア型のメガネがお似合い。物腰が柔らかく、レザーについて造詣が深い!「かくいう私もWHC好きで、もちろん財布はWHC。エイジングサンプルとしてご紹介できるよう、大切に育てています」
名品FILEその1
ベオーマのスリムスナップシリーズ(3型)
ビギンが創刊当初から推しまくっていたWHC終了の悲報が流れたのは、2022年のこと。ビギン的にも思い入れの強いブランドだったので、編集部にも衝撃が走りましたが、そんなWHCが早くも復活!?
「WHCはフレームの主力ブランドでした。まさか150年近く続いてきた老舗があっけなく廃業してしまうなんて、夢にも思いませんでしたね。しかも、時代はコロナ禍。守っていくのは難しいんでしょうけど……今じゃなくていいだろ!みたいな(笑)。お店のスタッフも、危機感を持っていましたね。この先、どうして売り上げを取っていこうって。頭を抱えていた矢先に、舞い込んできたのがべオーマでした」
WHCが廃業し、程なくして立ち上がったベオーマ。かつてWHCの日本総代理店を務めていたグリフィンインターナショナルの直営店・フレームが別注を敢行し、今春、晴れてリリースの日を迎えました。
べオーマがWHCから引き継いだのは一流の素材とモノづくり。耐久性が高く、使い込むほどに艶の増していくブライドルレザーを使用し、生産は自社工場で行います。なんでも、イギリスでは革職人が慢性的に不足している状況で、腕の立つ名手となると各社で引っ張りだこなんだとか。しかし、べオーマではWHCのクオリティを維持してきた精鋭部隊がそのまま製作を引き受けているため、ニューブランドだからといって、品質は超ハイクオリティ。メイドインUKの刻印を押すだけでも難しいなか、一度の解散を経験したことでチームの結束も強くなり、これまで以上のパフォーマンスが発揮されています。
「それじゃ、WHCと一緒じゃん!」と、思ったら大間違い。デザイン面ではキャッシュレス会計が浸透した現代のライフスタイルに合うようにアップデート。べオーマではすっきりとしたミニマムな設計を心がけており、最低限の実用性を確保しながら、スタイリッシュに磨きをかけています。
まず、特徴的だったコバのデザインを一新。WHCといえば上の写真左側の無骨なターンドエッジがおなじみですが、スリムスナップシリーズでは思い切ってそのアイコニックな意匠に頼らず、写真右のケースエッジに変更。さっぱりと仕上げることで、持ち前の重厚感をキープつつ、クールな印象に仕上げました。もともとオンオフ兼用可能な面構えですが、ジャケパンコーデへのなじみ方が段違いにアップ。休日のカジュアルスタイルでは、男の品格を高める効果を狙えます。
「実際に使ってみて、もっとこうだったらいいのになっていう願望を詰め込みました」と言うのは、長年WHCの財布を愛用してきた日髙さん。スリムスナップシリーズにはスナップボタンが付いており、財布がパカパカするのを防ぎます。実用性が高くなったのはもちろん、パチンっといい音を鳴らしながら財布を閉じるのもサイコーに気持ちがいい! 財布のサイズ感だけでなく、会計時の所作までスマートになりそうです。
スタイリッシュたる所以は、ポケットにもあり。各収納スペースのマチをあえて排除しており、スリムなフォルムに。そのわりに、実用性を欠かない程度の収納力はありますし、パンツの尻ポケに入れてもパンパンに膨らまず、手ぶらでスマートに出掛けられます。さらに、棚ぼた的なグッドポイントとして、マチがないとカードの出し入れもスムーズに!
WHCのDNAが色濃く残るのは、三つ折りの形状。一見すると同じに見える写真の2型ですが、左にあるべオーマのモデルの方が一回りコンパクトであることにお気づきでしょうか。さらに横から見ると厚みも薄くなっている。WHCのど定番だったスタイルを継承しつつ、確実に進化をしています。古参のファンも安心してべオーマに乗り換えられそうですね。
実は、WHC廃業の知らせがフレームに届いたのは昨年の秋頃で、世間に解禁されたタイミングとほぼ同時期に情報を知ったんだそう。しかし、不穏なムードが流れているときこそ、新しいチャンスが巡ってくるもの。
「べオーマはお披露目したばかりのブランドなので、正直WHCファンのお客様がいまだに大半ですね。新調されるだけでなく、将来のためにストックをしておきたいという方もいたりして。べオーマも、そうした人たちの思いを裏切らない、満足度の高いブランドに育てていきたいです」
名品FILEその2
クロケット&ジョーンズのブラックロシアングレインシリーズ
そんなWHCと並んで人気だったのが、本格靴の名門・クロケットアンドジョーンズ(以下、クロケット)。かつてはかのポール・スミス氏も「最高の靴」と評した英国生まれの実力派ブランドです。
グリフィンインターナショナルは、WHCと同様、クロケットに関しても30年以上にわたり深い親交があります。さまざま種類があるなかで、フレームが取り揃えているのは、カジュアルに履き回しできるモデルが中心。ビブラムソールを採用したミリタリーテイストの「サンドハースト」やブランドを代表する名作ローファーをベースに、木型を日本人の足形に合わせた「ボストン2」が売れ筋です。そして、そんな2大定番に、この夏フレーム限定シリーズ、ブラックロシアングレインが登場しました。
スペシャルなのは、その素材。なんと世界のマニアから幻のレザーとして知られる、ロシアンカーフを再現した「ロシアングレイン」を使用しているんですね。しかも、一般的な赤茶系ではなく、滅多にお目にかかれない漆黒カラーで! ブラックロシアングレインを使ったモデルは、クロケットでもお初。言うまでもなく、長年の付き合いがあってこそ実現された希少種です。レザーオタクの水本さんに、開発するに至ったきっかけを教えてもらいました。
「当社の代表が渡英した際、ロシアンカーフの復刻に挑んでいたとあるタンナーで黒いロシアンカーフを見つけたのが全ての始まり。その足で、クロケットの工場にそのまま交渉に行ったと聞いています」
そもそも、なぜロシアンカーフが幻のレザーと呼ばれるようになったのか。その真相を語る前に、まずは特徴的なレザーの質感をご覧あれ。白樺の木から抽出したオイルを使って鞣されており、しっとりとしていて艶やか。シューズに鼻を近づけると、重厚感のあるオイリーな香りがふわり。おまけに、表面にはクロスハッチと呼ばれるダイヤモンド状の型押しをプラス。触覚、嗅覚、視覚の3方向から高級感を演出します。
ひと目見ただけで「なんじゃこりゃ!」と驚き、手に持ったら最後、そのミステリアスな艶めきに所有欲をそそられ、知らず知らずのうちに財布の紐が……っと、危ない危ない(汗)。衝動買いするには勇気のいる値段かも!?しれませんが、その昔ロシアンカーフは軍事用の革製品に使われるほど丈夫な素材で、水や湿気に強く、防虫効果もあります。そのレア性と耐久性を考慮すると、決して高すぎないプライスと言えましょう。
「その特性の凄さを物語る話を聞いたことがあります」と、水本さん。ロシアンカーフが人々を魅了するのは、神秘的なエピソードも影響しているようです。
「18世紀後半の出来事で、ロシアンカーフを乗せた貨物船が、イタリアへの航路の途中、嵐に見舞われて沈没してしまったらしいんです。海底に沈んだ貨物船は、その事件から200年ほど経ったころ、ある調査隊によって発見されました。すると、かなり腐敗は進んでいたようですが、跡形もなく消えてしまっていても不思議ではないのに、積荷の中には当時のロシアンカーフが残っていたらしく。真相は定かではありませんが、そうした逸話も語られるほどロシアンカーフにはロマンがあるというワケなんですよ」
さて、ロシアンカーフが幻たる所以の話ですが、結論から申しますと、現代に正式な鞣し方法や加工製法が伝承されておらず、誰も復刻することが叶わない代物なんですね。一般的にはトナカイの皮を白樺オイルで鞣した赤茶レザーとされていますが、前述の通り、その定義は誰も知り得ません。ホースレザーを使ったタイプも存在していたというウワサも業界には流れています。
ちなみに、今回クロケットに使用しているのはカウレザー。とあるメゾンブランドからの要請を受けた英国のタンナーが、ロシアンカーフについての文献や資料を調べ上げ、さらに200年以上前の沈没船から引き揚げられた実物も徹底的に分析し、6年の歳月をかけて可能な限り忠実に再現したロシアンカーフ風のレザーがベースで、それをブラックに染めています。
「現時点ではフレーム以外の店では手に入らない代物です。ロシアンカーフの革靴がどれだけ市場に出回っているのかわかりませんが、ブラックはかなり激レアだと思います」とレザーオタクの水本さんも鼻息荒く猛プッシュ! レザー愛がひしひしと伝わってくる話っぷりで、その語りを聞けるだけでも、フレームの入り口を跨ぐ価値がありますよ!!
新しい風が吹き込む新天地で、進化していく
これまでも度々登場してきましたが、フレームを運営するグリフィンインターナショナルは、東京を基盤に事業を展開するアパレルの輸入卸売販売業社。なんですが、コンセプトショップのフレームが根ざしているのは、福岡県博多周辺。その理由を、日髙さんに伺いました。
「店を博多にオープンしたのは、取り引き先からご提案されたからでして。担当者の方が福岡在住で、いい場所があるよと。東京に比べて福岡には卸先も少なく、ちょうどネット通販も広まってきた時代だったんです。地方から自分たちのスタイルを紹介するかたちをとってもいいんじゃないかって。当社としても取り扱い商材の世界観をきちんと箱を設けて紹介したいという思いがあって、話がまとまりました」
「フレームはWHCをメインに販売していた店でした。目の前にある“いいモノ”を紹介するのが自分らのスタイルでしたが、べオーマというブランドが走り始めて、変わらないために変わっていかなくちゃいけないなって気がついたんです。また一から歴史を紡いでいく。今べオーマに関わる人みんながワクワクしながらアイデアを出し合っている状況です。そして、それはショップにいる私たちも例外ではありません。フレームとしても、新天地で再出発したばかり。互いに共鳴し合いながら、新しいチャレンジに挑戦していきたいですね」と、べオーマとフレームの境遇を重ねる日髙さん。ショップを次のステージに進めたい。そんな思いが、アイテムを見つめる眼差しからも伝わります。
今から約2年前、買い物客で賑わう天神から、生活の匂いがする白金に場所を移したフレーム。碁盤の目のように整った静かな街並みと、べオーマやクロケットの端正な佇まいがリンクして、店内の雰囲気がさらに洗練されました。中心部からは若干外れていますが、それでも世界各地から革を愛してやまない強者たちが集まり、水本さんとレザー談義に華を咲かせている様子。
「レザー業界の物価は、どんどん世界的にも値上げされています。質の良いレザーになればなるほど手に入りにくい。だから、単純に値段が高くなっているだけではないんです。レザー製品の価値、そのものが上がっている。となると、それを販売する我々もアップグレードしなくちゃいけないと思っています。人が集まる場所で賑やかにやるのはビジネスとして楽しいですけど、自分たちの本質に立ち返ってゆっくり営業するのもまたいい。白金に移ってきて、最初は戸惑いましたが今は良かったと思っています。さらなるブラッシュアップを目標に、これからは発信力に磨きをかけて、さまざまな仕掛けを作っていきたいですね。頑張んなきゃいけない。必死ですよ。」
FRAME
住所:〒810-0012 福岡県福岡市中央区白金2丁目5-17
電話: 092-707-0562
営業時間:11:00-18:00 定休日:水曜日
写真/椿原大樹 文/妹尾龍都 編集/鍵本大河(Begin News)