ここでは、トレンド不問のスタンダード靴についてお勉強。正しく選んでたっぷり愛せば一生履ける靴だけに、微差までしっかり理解して選びたいところ。その秘訣をスペシャリストに伺いました。
本格靴素人のカギモトが直撃!
編集部 カギモト
春からビギンに異動してきたものの、手持ちの革靴はわずか2足と本格靴に関してはど素人。今回目の前にズラリと並べられた黒ストの群れに早くも当惑中。
教えてくれたスペシャリスト
本格革靴専門家 ジェンティーレアンドカンパニー 代表取締役
寺杣敦行(てらそまあつゆき)さん
日本屈指の老舗にして皇室御用達メーカーとして知られる大塚製靴に長年勤務。革の品質から製法まで熟知するプロ中のプロ。独立後は”本格子ども靴”の販売を行う「ジェンティーレ東京」を設立し、発育を支える正しい靴選びの普及に尽力している。
同じに見えすぎる~からこそ、超専門家に聞く
カギモト「正直どこをどう見ればよいのか……(笑)」 寺杣さん「よく見るといろいろ違うんですよ。一緒に勉強していきましょう!」
一にも二にも、まずはフィッティングが命!
カギモト カジュアル靴の定番、黒ローファー。定番のジェイエムウエストンもいいし、オールデンも憧れるな……
寺杣さん ちょっと待った! デザインで選ぶのも結構ですが、それ以上に重要なのはフィッティング。近年は日本人向けにモディファイしたモデルも多いですが、靴紐でフィットを調整できない分、入念な試着が必要です。
カギモト そっか〜。でも、正直全部履きに行くのは面倒……ざっくりとサワリだけ教えていただけませんか?
寺杣さん (苦笑)そうですね、まずジェイエムウエストンの「シグニチャーローファー #180」は6種類のウィズから選べるので、万人の足に合うはず。カモメ型の窓やモカの拝み縫いなど、ローファー史上最も普遍的なデザインも唯一無二の魅力ですね。
ジェイエムウエストンの「シグニチャーローファー #180」
カギモト ローファーの元祖って憧れます! ほかのモデルはいかがでしょう?
寺杣さん 対照的にエドワード・グリーンの「デューク」は、ベルトやモカ縫いのステッチ使いがミニマルな印象。こういう控えめさが英国らしさなんですよ。ラストも全体的にシャープなので、ホールド感ある履き心地が好きな人に向いているんじゃないかな。
エドワード・グリーンの「デューク」
カギモト 同じ英国製だとC&Jの「ボストン2」がありますが、こちらも同様ですか?
寺杣さん やはり印象は控えめですが、どちらかというとカジュアル寄りですね。日本人用のラストなので、エドワードグリーンよりはやや幅広。キュッと締まったヒールカップでフィットさせる構造になっています。カジュアルにドレスにと履き回せる万能型です。
C&Jの「ボストン2」
カギモト 逆に米国・オールデンの「99362」は、英国の2モデルとはまた違う印象のようにも見えます。
寺杣さん その通り! かかとの芯材もなく、ホールド感というよりはカジュアルに履き崩したい人向け。モカやベルトのゴツゴツとしたステッチ使いもいかにもアメリカらしさがあって、いい意味で「荒々しさ」があるんですよ。
オールデンの「99362」
カギモト そして最後は、この中で唯一のジャパンブランド・三陽山長です。
寺杣さん 「弥五郎」は日本人の足を研究し尽くした幅広甲低のラストや丁寧な二重ステッチなど、随所に日本人らしい真面目な仕事が光っていますね。
あとこの中で唯一のラバーソールなので、毎日ガンガン歩き回る営業マンなんかにはいいんじゃないかと思います。端正な顔つきもグッド!
三陽山長の「弥五郎」
カギモト ローファーもなかなか奥が深いんですね〜。僕も面倒くさがらずにしっかり試着して履き比べよっと。
❶名門による日本人のためのモデルから選ぶ
幅広いウィズから選べたり、日本人用にラストを改良したモデルが狙い目。ここではそんな基準で5足をピックアップ。
❷「フィッティング」を比べよ
靴紐でフィット感を調整できないローファーは、ラストとヴァンプが要。ヴァンプが長くて広いほどフィット感アップ。
❸「ベルト」を比べよ
甲を橋のように覆う横長のパーツは「ベルト」と呼ばれる。ここに空いた「窓」とともにローファーの顔となる部分だ。
❹「モカ縫い」を比べよ
トウに施されたU字形のモカ縫いも、ローファーの印象を決定づける重要ディテール。縫い方にもさまざまな種類がある。
世界の名門による、日本人に合うモデルを比較!
[1]J.M. WESTON(ジェイエムウエストン)since 1891 フランス
シグニチャーローファー #180(LAST:41)
ヴァンプ(つま先からベロにかけての甲部分)がやや長く、そのぶんホールド感が高い。ジャストフィットを選べば、足入れする度に“シュポッ”と空気が抜ける音が聞こえる。
ローファーのスタンダードといえる“カモメ型”の窓をはじめ、極めてベーシックながら上質な仕立てで品のよさを醸し出す。自社タンナーでなめされたレザーソールも魅力で、軽さ・柔らかさ・耐久性を絶妙バランスで兼備。12万6500円(ジェイエムウエストン 青山店)
ローファー史上最も愛された、永久不滅の「カモメ」ベルト。
縫合面が三角形に合わさるように仕立てる拝み“モカ”。すっきりとした印象になり、フレンチローファーらしい上品さを演出。
パンツ不問のボリューム感。名作ローファー最強の優等生
[2]EDWARD GREEN(エドワード グリーン)since 1890 英国
デューク(LAST:137E)
やや広めなヴァンプと細身シェイプが相まって、すっきりとコンパクトな顔つき。ラストの完成度が高いことで知られるブランドだけに、足全体を包み込むような履き心地だ。
近年、非常に高い人気を博する新傑作モデル。エプロン(Uモカの内側部分)の面積が小さく、窓も小ぶりでドレス感の高いデザインだ。インサイドストレート・アウトサイドカーブを特徴とする独特のフォルムも健在。19万5800円(ストラスブルゴ カスタマーセンター)
主張控えめな小窓&カンヌキで、英国らしさ全開のベルト。
ミニマルな印象に仕上がる通称“乗せモカ”を採用。熟練職人が好む平たい糸が用いられている点でも技術力の高さが伺える。
英国的シャープフォルム。ホールド感が好きな人へ
[3]CROCKETT&JONES(クロケット&ジョーンズ)since 1879 英国
ボストン2(LAST:376)
日本人の足に合う履き心地に改良した「376」ラストを採用。ヒールカップが小ぶりでカカトが抜けにくくなっている。ヴァンプはやや短めで、つま先が若干低めなのも特徴的。
アメリカンテイストを取り入れ、カジュアルに寄せてデザインされた定番モデル。程よくボリュームをもたせたラウンドトウに力強いモカ縫い、ハーフムーンと呼ばれる小ぶりの窓などが米国顔のエッセンスになっている。9万200円(グリフィンインターナショナル)
小さめの小窓に、カンヌキは二本針で補強も抜かりないベルト。
中に細い糸状の芯を入れ、太い糸で力強いモカ縫いに仕上げているのが特徴。米国テイストを高めるポイントになっている。
生まれは英国、顔つきは米国スーツ、デニム両極に好相性
[4]ALDEN(オールデン)since 1884 アメリカ
99362(LAST:VAN)
ヴァンプを長めにとり、甲部分を低く抑えてガッチリと足をつかむ設計が特徴的。一方でカカト部分はゆったりしており、独特の履き心地を味わえる。ソールは若干柔らかめ。
日本の輸入総代理店を務めるラコタが国内市場向けにリクエストし、名作として定着させた「99362」。唯一無二のオーラを放つ重厚な佇まいは、オールデンの象徴的素材であるホーウィン社製コードバンとベストマッチだ。経年変化の美しさも特筆もの。17万4900円(ラコタ)
太糸で縫い付けた、タフさと荒々しい印象を兼ね備えるベルト。
木型を入れた状態でモカ縫いを行う”オン・ザ・ラスト”の仕立てが特徴。手縫いによるつまみモカは存在感たっぷりだ。
アメリカンカジュアル全開。ラフに履いてカッコいいNo.1
[5]SANYO YAMACHO(三陽山長)since 2001 日本
弥伍郎(LAST:R2013)
スリップオン用として開発された「R2013」ラスト。程よく横幅があり窮屈すぎない履き心地だが、ヒールカップは小ぶりでホールド感も◎。靴底はオリジナルのラバーソール。
精緻なダブルステッチをあしらったサドルなど、日本らしい丁寧な仕事ぶりが光る一足。均整の取れたフォルムでビジネススタイルにも合わせやすい。ローファーとしてはヒールが若干高めに設定されていて、さりげない脚長効果も。8万300円(三陽山長 日本橋髙島屋S.C.店)
ステッチは全て二重で、丁寧な仕事が光る日本らしいベルト。
ボリューム感のあるモカ縫いはアメリカンなテイストだが、きっちり整った糸目で端正な印象も。日本仕立てらしい表情だ。
歩行性配慮のラバーソール。ガシガシ歩く営業マンへ
[ついでに知りたい“黒ローファー”こぼれ話]
コインローファーの由来にもなった“ラッキーペニー”って?
「コインローファー」という名称は、かつて米国でローファーの窓に1ペニー硬貨を挟む習慣があったことに由来。なんでも当地には“エイブラハム・リンカーンの肖像面が上になった状態で落ちていた1ペニー硬貨を拾うと幸せになれる”という風説があり、拾った硬貨は“ラッキーペニー”と呼ばれたとか。それを窓に挟んでお守り代わりにした……というお話。
[番外編]革靴には買い時がある!?
「10月、または2月ぐらいに買うのがおすすめです。」―寺杣さん
立体的な靴を作るためには、アッパーを木型に吊り込んだあと、しばらく“寝かせる”ことが重要。夏・冬の休暇を挟んで完成した靴はそのぶん“寝かせ”の時間が長くなっている可能性があるため、10月・2月に入荷する靴は“買い”なのだ。
※表示価格は税込み
[ビギン2022年10月号の記事を再構成]スタッフクレジットは本誌をご覧ください。