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数年の間に世界を一変させる可能性を秘めた「DX(デジタルトランスフォーメーション)」にフォーカスする連載「プロジェクトDX」。時代の変化やニーズにDXを通じて応える優れたサービスの開発者やその現場を訪ね、未来を変える可能性やサービスに込められた思いを紹介していきます。

プロジェクトDX 〜挑戦者No.17〜3DCGで服の作り方、選び方、買い方が一変する

突然ですが、上の写真を見てください。被写体は同じ女性ですが、ヘアカラーと洋服が違うことがわかります。ネタバラシをすると左が実物の写真で右がCGを合成した後の写真なんですね。

「そんなの簡単にできるんじゃ?」と思ったそこのあなた! 確かに映画やゲーム、建築など、あらゆる分野でCGは利用されていて私たちにも身近な存在ですが……実はアパレル業界には未だ浸透していないのが現状。「そもそも必要あるの?」なんて声も上がりそうですが、もしファッションテックが今よりも広がれば、服の選び方まで変わる可能性も!!

今回は、最新の3DCG技術を駆使して業界のサプライチェーンの効率化を進める「株式会社FMB(Fashion Metadata Bank以下、FMB)」の小原さんと荻野さんにお話を伺いました。

近い将来、着ているの服を脱がずして新作のフィット感をチェックできる日が来るかもしれません。

小原 明日香さん(左)。デジタルファッションプロデューサー。入社3年目の創業メンバー。業界未経験ながら、営業からアプリ開発までプロジェクトの全てを担う。 荻野 秀文さん(右)。3DCG開発マネージャー。小原さんと同期入社。前職はインテリア系マテリアルをデータに変換する3DCGデザイナー。

ファッション・アパレル業界のDXは遅れている⁉

SDGsへの関心の高まりや、長く続いたコロナ禍の影響もあって、今、アパレル業界は過渡期にさしかかっています。特に変革が求められているのはサプライチェーン。手仕事を良しとする文化も影響してか、大手の中にも企画から販売までアナログな手順のままで進行している企業があります。

それは過重労働や人手不足といった雇用の問題、大量生産や水質汚染などの社会問題にもつながりかねない業界の課題。ファッション・アパレル業界は“世界で第二位の環境汚染産業”という不名誉な指摘もあります(国連貿易開発会議〔UNCTAD〕)。

こうした現状を、テクノロジーの力でアップデートしようというのがFMB。日本初のファッションテックスクール「Tokyo Fashion Technology Lab」を運営する株式会社TFLが親会社の、国内最高峰のファッション3DCGを制作するスタートアップです。

FMBが得意とする3DCGとは、3次元の立体空間で描かれるコンピュータグラフィックス(CG)です。縦と横でしか表現手段のない2次元と比べて3次元ではリアリティを追求できるため、モデルに光を照らして影を作ったり、アニメーションを付けたりすることも叶います。

こうした技術はすでに他業界では広く活用されていて、例えば大手家具メーカーではアプリに3DCGを駆使した配置シミュレーション機能を搭載し、販売促進に利用しています。購入を検討している大型家具を選び、カメラで撮影した空間上に3DCGで再現、画面上で好きなように自分の部屋に家具を配置できるという仕組みです。自分の部屋の雰囲気とマッチするかを事前に確認できるため、自宅に届いてからがっかり、なんて失敗も未然に防げます。

一方、ファッション・アパレル業界の3DCG導入は一筋縄ではいきません。なぜなら、“3DCGを使って洋服をつくる”ということは、生地の質感や光沢感だけでなく、服として正確に組み上げ、仕立てたときに現れるドレープラインなどの物性(伸縮性や滑らかさなどの性質)をリアルに表現しなければならず、一定の技術が求められるからです。CG領域や映像領域はもちろん、パターン、糸、織物、編物などファッション分野の高い専門知識も必要です。

FMBの強みは、テクノロジーとファッション、両方の分野に長けたスタッフが揃っていること。仕様書やパターンデータから製品に関しての正確な情報を読み取り、それを元にした3DCGを制作することが可能です。

ファッションテックができること

FMBの創業は、今からおよそ3年前。立ち上げメンバーのひとりである小原さんは、もともと異業種で働いており、同社系列のファッションテックスクールに入学。はじめはアパレルもCGも全くの未経験でした。

「昔からお洒落に興味があって。せっかくなら業界課題を解決できそうなファッションテックを学びたいと思ったんです。改善したいのは、企画、生産、営業のフロー。例えば商品サンプルが工場に貸し出し中で、企画の参考にしたいときに手元にないとか。実際、コロナの影響で中国の工場がストップしたときは大変でした。でも3DCGのソフトを使えば、パソコン画面上で生地の伸びや見栄えを忠実に再現したサンプルを作れます。色合いやシルエットの微調整も画面上でできるからサンプルの修正も最小限に抑えられますし、手間がだいぶ省けるんじゃないかと思うんです」

「営業やPRにも活かせる」と、続ける小原さん。数に限りがある現物に対して、世界中どこからでもチェックできる3DCGで作られたサンプルがあれば、受注予約も取りやすくなり大量廃棄も免れる。さらに、FMBでは3DCGを使ったAR・VR事業にも着手しており、シーズンごとのコレクションルックの撮影も3DCGを使ったサンプルと空間で対応しています。

「テクノロジーを取り入れることで、異業種との関わりも増えてきます。新しいアイデアや視点を持った人を業界に送り込み、クリエイティブの可能性を広げたいです」

生地をひっぱったり、色を変えたり自由自在

では、3DCGは、どのようにしてつくられているのでしょうか。そのヒントになるのが上のギャラリー。使用しているのは、アパレル向けの3DCADツール「CLO」。3DCG開発マネージャーの荻野さんによると、有名なソフトは世界に3種類ほど。その中でも最も普及率が高いのがCLOで、データの加工がしやすくて日本でも導入している企業が多く、実装しやすい点もメリットに挙げられます。

3DCGを使ったシミュレーションにまず必要なのがパターンデータ。サンプルを細かく指示された数値の通りに画面上で組み上げて、生地データに反映します。

生地のデータは、繊維の一本一本まで全方向から細かく読み取る専用のスキャナーでスキャンしたもの。そのデータに生地の物性を流し込みます。最後はアバターに3DCGデータを着せてフィニッシュ。現実の人間が袖を通しているかのようなシワや落ち感が表現され、現物を作らずとも完成した商品のイメージを具体的にアウトプットできるのです。

「生地の伸縮性は、ほとんど変わらない見た目に設定出来ます。デザイナーの出来上がりイメージを具現化できるのも強み。アウトプットすることでデザイナー自身も思考の整理がつきますし、生産のチームに正確にシェアできるので、認識のズレを防げるんです」と荻野さん。

この一連の作業を業界では『3Dモデリング』と呼んでおり、完成したデータはオンライン通販サイトや電子カタログに活用することも可能です。

ここまでは作る側に対したメリットをご紹介してきましたが、買う側の私たちにとってもイイことがあるんです。

3DCGで服の選び方・買い方が変わるかも


Snapchatを使用したAR試着の事例。

将来的に大きく変わる点がニつ。一つ目はオンライン上で試着をしてから購入を検討できること。すでに大手の通販サイトでは、画面上の自分の姿に眼鏡やシューズを合わせられるサービスを展開中。実店舗ではデジタルサイネージに3DCGの技術を応用しています。

こうしたサービスの現状について「技術はすでに整っているんですが、リアルを追求すればするほどデータ量が重くなってしまって。通信速度がさらに早くなれば、活用の場がもっと広がると考えています」と語る荻野さん。

二つ目は、店頭で取り扱いのない商品を、オンライン上にアップロードされたリアルな3DCGで確認できること。例えば海外ブランドのショップに訪れた場合。あなたは日本展開のない商品に心が惹かれるとします。試着してみたいけど、“取り寄せ=購入”という流れになりそうで言い出しにくい……。そんなとき、FMBの商品データを埋め込んだデジタルカタログであればその問題を解決できます。「すでに大手のゴルフウェアブランド様で実装していて評判もいいんです」と、荻野さんも得意げ。

「日本に限定しても、売り場面積が小さくて全部の在庫を持っていないお店ってたくさんありますよね。デジタルカタログが広がっていくと買い物をもっと自由に楽しめるんじゃないかと思います」

FMBがこれから目指すのは、アパレル業界においての銀行のようなポジション。パターン、生地、仕様書などブランドにとって資産と言えるものを、秘密保持契約のもとデータ化して預かり、テクノロジーの力で一括管理する。欲しい情報を欲しいときに出すことはもちろん、要望があれば過去のコレクションを3DCGで再現してアーカイブとして後世に残すというような活用法も。社名の「Fashion Metadata Bank」からも、そうした志が窺い知れます。

「書類をスキャンしてデータ化するように、アーカイブも含めて服や生地もデータ化できたら便利だと思うんです」と小原さん。こういったサービスは、ある程度参加企業が多くなっていかないと浸透していかないことも事実です。FMBの、信頼と実績を積み重ねる地道な挑戦は続きます。

思うがままにお洒落を満喫! 3DCGが服好きの願いを叶える

「理想のドレスに巡り会えなくて…笑」と、プライベートも3DCGをフル活用する小原さん。自身のウエディングフォトも、荻野さん協力のもとアレンジされたんだそう。

「仮想空間でのファッションも注目されていますよね。体型や予算で諦めていた洋服も、バーチャルの世界なら挑戦できる。そして、自由度の高さは着用者だけでなくデザイナーも同じ。仮想空間で人気になった洋服を現実世界で作るなんて、逆輸入的発想の新しいモノづくりも出てくると思います!」


写真/武蔵 俊介 文/妹尾 龍都

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