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ここ数年、ファッション業界のキーワードになっている“サスティナブル”! 持続可能な社会を目指して、多くのブランドでSDGsへの意識が急速に高まってきています。環境に配慮した素材の採用や、長~く使えるようにするためのリペアサービスの開始など、その取り組みの内容は実に多種多様……。本連載では「SDSEEDs(エスディーシーズ)」と称して、名門ブランドのサスティナブルの種を紹介していきます!

今回ビギンが注目したのは、国内最高峰と呼び声高いレザーブランドのガンゾが立ち上げた、リメイクプロジェクト「リナトゥス」。対象はガンゾのオリジナルアイテムだけでなく、他社のレザー製品も。その詳しいサービス内容について、銀座店に所属する職人の大口さんにお話を伺いました。

教えてくれたのは……

ガンゾ銀座店 職人 大口智史さん
専門学校で技術を学び、2012年からレザー業界に。生産工場での勤務を経て、2017年に入社。レザー製品が大好きで、コレクションは数知れず。「自宅にはレザーバッグが大量にあります(笑)。使うだけでなく、構造が気になるものはバラバラに解体して作り直したりして日々勉強しています」

直営店で始まったリメイクサービス


旅の思い出が詰まったボストンバッグや大事なプレゼンの日を共にしたビジネスバッグが、あなたのクロゼットにも眠ってはいませんか? 2020年にスタートした「リナトゥス」は、そうしたレザー製品を全部で11種類の革小物に再生するリメイクサービスです。腕時計用のベルトやキーリング付きのシューホーン、家族やペットをいつでも身近に感じられるフォトフレームキーホルダーなど、日常生活を豊かに彩るメニューが揃います。


「リナトゥス」を始めたのは株式会社アジオカ。有名メゾンとライセンス契約を結び、1世紀以上にわたって日本のレザー業界を牽引してきた企業で、長い歴史の中で育まれてきたスキルとノウハウは、現代まで脈々と受け継がれています。

アジオカは1999年にオリジナルレザーブランドのガンゾをスタート。「リナトゥス」に携わる職人は、ガンゾの直営店でセミオーダーの制作などを担当しています。リメイクの提案から仕上げまで一貫して行える実力派ばかりです。


「リナトウス」を依頼するファーストステップは、東京の表参道、六本木、銀座、そして大阪にあるガンゾの直営店に手持ちのアイテムを持ち込むこと。各店に常駐する革職人がレザーの経年変化を活かしたリメイク方法を提案してくれます。

「お客さまの大切なバッグをお預かりするので、実物を見ながらでないと、軽はずみにご提案ができなくて。ただし、これまで持ち込んでいただいたものは、全てリメイクをお引き受けしていますね」と話すのは、革職人として11年目の大口さん。銀座店の守護神で、お店に入って直ぐに設けられた工房スペースで腕を振るっています。

「提案から仕上げまで、1人の職人がマンツーマンでリメイクの担当をさせていただきます。ですから、お客さまとの距離が近くって。ご希望を踏まえてリメイクしやすいし、私たちも程よくプレッシャーを感じつつ、楽しみながら作業をしています」

ガンゾ製品じゃなくてもリメイク可能⁉︎

型紙をアイテムに当てて、リメイクするためのレザーが十分か検証。切り返しやパッチワークのない、一枚革で仕上げられているタイプの方が好ましい。名入れや刺しゅうなどのパーツも残せるように工夫してくれるから、まずは相談。

「リナトゥス」が太っ腹なのは、モノグラムデザインでなければ、他社の製品も受け付けてくれるところ。本革ならその種類も問わず、裏地付きでも問題なし。ただしリメイクをするためには、ある程度の大きさが必要です。使える革の範囲が広ければ広いほど、選べるメニューの種類が多くなります。

「一番オススメの型はパスポートケースですね。お持ち込みいただくレザーのサイズも比較的小さくていいですし、思い出の詰まったキズやシミを最大限に取り入れることができます。とにかく一度お手持ちのレザー製品を拝見させていただいて、一緒に可能性を探っていけたら」と大口さん。

リメイクを依頼したお客様の私物。バッグの背面のレザーをペンケースに利用。

上の写真は、とあるお客様の一例。リメイクしたのは、36年前に新婚旅行先のフランスで購入したレザーバッグ。ステッチの一つひとつを丁寧に解いて、背面のレザーを巻き型のペンケースに。「ハンドルや錠前の修理跡をみると、大切に使われてきたのが一目でわかりました。積み重ねてきた時間の分だけ、レザーと裏地の間にはホコリや汚れがびっしり。リメイクの作業では、時に手を真っ黒にしてクリーニングするところから始めます。お客様に完成品をお見せするととても喜んでくれて、リメイクし甲斐がありましたね」

リメイク品の内装には、ガンゾのオリジナル製品にも採用されるイタリアの有名タンナー、バタラッシィ・カルロ社のミネルバボックスを使います。カラーはナチュラル、タバコ、ブラックの中から好きなものを選べて、カスタマイズすることも可能です。

ガンゾならではの行き届いたリメイクっぷり

ガンゾの品質は本格志向の革好きの中ではおなじみ。腕利きの職人は優れた革製品の作り手としてガンゾの品質を支えています。そうした職人にリメイクを任せられるところも「リナトゥス」の特徴です。

「1人でやっているので時間を忘れて没頭しちゃいます」と笑う大口さんは、カット作業のある日は相棒の革包丁の刃を必ず研ぎます。裁断の方法は手断ちで、大口さんは型紙をレザーに当てて、尺を当てずに真っ直ぐにカット。「金型を使って型抜きすると、圧力が一定にかからず断面が潰れてしまうんですよね。一方で手断ちの場合は、レザーに対して垂直に切れるので切り口が滑らか。包丁のブレでいくらでも凸凹になってしまうのが手断ちのマイナス面ですが、そこは職人の腕の見せ所というか(照)」

切り出したレザーには、耐久性を高めるために裏地を貼り付けます。一般的に裏地は合皮やレーヨンポリエステルに合成ゴムを染み込ませたシートをすることも多いですが、「リナトゥス」ではガンゾと同じく牛革を使用。貼り付け時は、専用の糊をレザーと裏地どちらの面にも薄く塗り、しっかりと圧着して仕上げます。

革小物の表情を決めるコバの処理も、スタイリッシュで格式高いガンゾ製品のクオリティと同じ。職人技が息づく切り目本磨きを施し、赤茶色をした茶粉(ちゃこ)と呼ばれるオリジナル染料を塗ります。さらに上から布糊を塗って、磨きをかける。これを何回か繰り返し、ミニマムで厚みを抑えたコバに仕上げていきます。

縫製のこだわりは、パーツとパーツが重なっている部分をまたぐようにして縫い合わせること。例えばカードポケットならスリットとベースの接続部に針穴が被らないようにして、縫合箇所からの千切れを予防します。

「レザー業界では特別ではない」と大口さんは言いますが、サンプルで仕上げてもらったステッチ部分を見ると、繊細な技術を要することは一目瞭然。当たり前のことを当たり前にする。クオリティを追求しているからこそなせる、美しい手仕事に「リナトゥス」の品質は支えられています。

「正直、お値段はかわいくないサービスです。だけど、それだけのコストを出しても蘇らせたいと思ってもらえる感動を提供している自負があります。捨てようにも捨てられない、思い入れのあるレザー製品がありましたら、ぜひリメイクする選択肢も検討してみてください!」

新たなSDGs企画もスタート!

受注開始日:2023年7月20日(木)~ 価格:9万9000円 店舗:GANZO銀座店限定 ※生地の柄は、受注時の在庫状況に応じて異なります。納期は、受注状況によって異なります。

「リナトゥス」では、ガンゾで取引のある老舗の生地メーカーから、保管されるだけで利用予定のない見本生地を提供してもらい、クラッチバッグを作る取り組みもしています。クラッチバッグは、ユナイテッドアローズ創業メンバーのひとり、鴨志田康人氏と共同制作されたんだとか。そのことからもリナトゥスのファッション業界からの注目度が高いことが窺えます。

店舗:GANZO直営店、オンラインストア、一部百貨店 価格:キャディバッグ 14万3000円、他ヘッドカバーなど1万1000円~

ほかにも、リサイクルペットボトルを原料としたゴルフギアの製作も開始。岡山県児島の工場にある旧シャトル機で織ったキャンバス素材で、品格たっぷりの仕上がりです。

「環境に配慮したモノづくりは、当社にとっては当たり前。私たちが伝えていきたいのは、レザー製品を長く大切に使い続けてほしいという思いです。そのマインドが広がることで、日本の素材や職人の素晴らしさを改めて感じていただけたら。「リナトゥス」のプロジェクトが、何かのきっかけになったらうれしいです」

リメイクプロジェクト「リナトゥス」
現在11種類のメニューが用意されており、専属の職人にカウンセリングを受けて、手持ちのレザー製品を希望のアイテムに再生できる。価格は3万5200円(税込)〜。場合によってはアレンジも可能。

ガンゾ 銀座店
住所:東京都中央区銀座3-3-7
営業時間:11:0020:00
電話番号:03-3561-5772


写真/丸益功紀(BOIL) 文/妹尾龍都

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