創業100年を越える老舗「宮田織物」。見えないところにも手を抜かず、コツコツと良いものを作り続けてきましたが、時代の変化と共に、その良さを自らが発信していく重要性に気がつきます。そのスタートとして立ち上げた新ブランド「YAYA」についてご紹介します。

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今回のビギニン

宮田織物株式会社 澤田久美子さん

宮田織物株式会社 澤田久美子さん

1991年生まれ。福岡県筑後市出身。アイドルグループやミュージシャンのMV制作、CM制作などの映像制作の仕事を経て、筑後市へのUターンをきっかけに宮田織物へ入社。2023年1月「産地の見える服」をコンセプトにしたに自社ブランド「YAYA」をスタート。休日は2歳になる息子さんとのお散歩や電車でのおでかけを楽しんでいる。

Struggle:
一から十まで“全部見せる”仕組みづくりを

宮田織物 YAYAのシャツ

糸選びから生地織り、デザインや裁断、縫製や半纏の綿入れまですべてを自社で行っていることが特徴であり、強みでもある宮田織物ですが、今まで何度も同社の商品を購入していても、そのことを知らなかったという方が多かったそうです。

宮田織物ならではのものづくりの良さを、なんとかして伝えられる仕組みを作りたいと思い悩んでいた際に、ヒントになったのはなんと「牛舎」でした。

「休日に息子と散歩をしていると、彼が牛を見たいと言い出して、実家のすぐ裏にある牛舎に行ったんです。その時、ふと牛の耳についているタグが目に入り、これをうちの服づくりに応用したらいいんじゃないかと思いつきました」

宮田織物 YAYAの下げ札
下げ札のQRコードを読み込むと、作業工程がすべてわかる仕組み。澤田さんが各現場に出向き、撮影を行った。

牛の耳につけられた耳標と呼ばれるタグは、国産牛の安全・安心を確保するために定められている「牛トレーサビリティ制度」の個別識別番号です。タグを読み込めば、その牛の出生から牛肉になるまでの履歴情報がすべてわかるというもの。この取り組みを宮田織物の服にも応用し、商品の下げ札についているQRコードを読み込むと、商品がお客様の手元に届くまでの糸選びから生地の織り、テキスタイルデザイン、商品企画、縫製、販売まですべての服づくりの工程を見ることができるようにしました。

こうした取り組みができたのも、地場ですべての工程を行っている宮田織物だからこそ。QRコードを読み込んで出てくる人は、全員が宮田織物や地場の協力工場の社員で、撮影も澤田さんらが各現場に出向いて行っています。なんと、カタログに登場しているモデルさんたちもすべて社員の方々なのだとか。まさに「すべてを自社で担う」プロの集まりです。

「全員が自分たちの仕事に誇りを持っているからこそ、衝突する部分もあります。生産現場は高品質のものきちんと安定生産したい。でもデザインチームはギリギリまで粘って細部までイメージを形にしたい。そこはイコールではないので、難しいところです」

宮田織物の工場内
一つの生地に織り込まれる経糸は3,748本。1本でも掛け間違えると違う生地になってしまうため、色や太さを間違えないように、1本ずつ人の手でセットしている。

そこを解決するための方法はただ一つ、「首を縦に振るまで説得し続ける」こと。

「絶対に良いものを持っているのだから、それを売りたいし、そのためにもっと多くの方に伝えていきたい。社員全員、思いは同じです。だから、そのために必要だと思うことを、こういう取り組みをして、こういう打ち出し方をしたら、こういうお客様に響きます、宮田織物の未来に繋がります、と社長や工場長にとにかく熱意を持って話すんです。最終的に、首を縦に振るまで訴え続けます」

以前は展示会に来てくれるお客様のために、カタログではなくすべて実物で見ていただきたいから、と111柄分のhaori(同社が手掛ける羽織のシリーズ)を一点ずつ作ることを提案。手間がかかり、他の量産を止めることにもなるため現場から大反対されたそうですが、反物運びも裁断も全部自分でやるので、縫製だけお願いできないかと何度も説得してやっと実現したのだとか。そうした努力が実り、1点もののhaoriが111パターン並んだ前代未聞の展示会は大盛況だったそうです。

Reach:
生まれたばかりの「YAYA」の伸びしろは6000年!?

宮田織物株式会社 澤田久美子さん

今回、新ブランド「YAYA」のスタートとして選んだのは、宮田織物が長年に渡り開発を続け、100種類以上のオリジナルを持つしじら織のなかの「八雲」という名の生地です。幾重にも重なる雲、という意味を持つこの生地は、縦糸と横糸を重ね、深みのある色合いを実現しています。

宮田織物が手がける「先染め織物」の特徴として、この縦糸と横糸を重ね合わせ、レイヤーの考えで色を表現するということが挙げられます。例えば青い生地を作る際、後染めの場合は青い染料に生地を漬け込んで染めていきますが、先染めの場合は縦糸と横糸を重ねることで、色合いを作り出します。さらに、青色の生地を作るために青色の縦糸と横糸を使うのではなく、縦糸に青い糸、横糸に黒い糸を使うことで、奥行きのある色を作っていくのです。

しじら織 八雲の素材となる糸
久留米絣をルーツに持つ宮田織物にとって、「青」は特別な色。「八雲」のNAVYはトーンの異なる2種類の青色の糸と黒い糸を重ね、味わい深い色合いを表現している。

「縦糸の方が強く色が出るという特徴があるので、暗い色にしたいときは縦糸に黒、横糸に青を使ったり、明るい色合いにしたいときは逆の組み合わせにしたりと、様々な組み合わせで色を重ねて、深みのある多彩な色合いや繊細な柄を表現しています。今回はエイジレス・ジェンダーレスな日常着というデザインコンセプトで、年齢や性別に関係なく長く着ていただけるようにベーシックな3色で作りましたが、今後のサンプルとして鮮やかな発色のものなどたくさん作りました」

しじら織

また、日常着としての毎日着たい心地よさを生み出すため、一定の強度を保ちながら糸の太さを極限まで細くして、軽やかさと肌ざわりの良さを実現。綿100%なので洗うほどに強くなる特徴があり、色落ちのしにくさ(抵抗性)を示す堅牢度は3級、縮率(縮みにくさ)も合格ラインに達していて、日常着として家庭で安心して洗濯できます。

宮田織物の工場内
生地の段階で洗い加工などを行っているので、色落ちや縮みの心配が少なく、湯通し等の手間も不要。

宮田織物が長年培ってきたこだわりをたっぷりと詰め込んだ「YAYA」。これからブランドとしてどんなゴールを目指しているのでしょうか。

宮田織物 YAYAのパンフレット

「もちろん商品が売れるのは嬉しいです。でも、『YAYA』が本当に目指しているのは“たくさん売ること”ではなく、宮田織物が持つ技術力と素材の良さ、そしてそこから多くの新しい可能性を広げていくこと。今回作った「SHIJIRA」のアイテムが、1シーズン売れるというだけではダメなんです」

宮田織物株式会社 澤田久美子さん

そうした思いを抱きつつ、今年(2023年)の2月に工芸を中心とした各地のものづくりメーカーが集まる展示会に『YAYA』を出展したときのこと。ブースを訪れた方々からは、展示している商品だけでなく、「生地を販売してほしい」「この生地を使ってこういう商品は作れないか」などといった問い合わせや要望も多く寄せられました。また宮田織物に興味を持ってくれて、綿入れ半纏の依頼や問い合わせにもつながり、確かな手ごたえを感じたと言います。

ブランド名の『YAYA』には、日本古来の赤ちゃんの呼び方である“やや子”という意味もあります。澤田さんは自身が子どもを持ったことで、ひと言で「赤ちゃん」と言っても名前や顔、泣き声も違って、一人ひとり個性があるということを改めて実感したそうです。

「うちの生地には『八雲』のように全部に名前がついていて、私たちは品番では呼びません。生地ができるまでにそれぞれいろんな物語があって、一つひとつが私たちにとっては大事な赤ちゃんのようなもの。これからたくさんの未来があり、可能性があるこの子たちが、どんな風に育っていくのか、とても楽しみです」

しじら織

「今回取り上げた『しじら織』はあくまでスタートに過ぎません。宮田織物にはものづくりを100年続けてきたなかで培ってきて、埋もれてしまっている良い素材がまだまだたくさんあります。柄違いや色違いなど、表に出ていないものも数多くあり、6000種類以上はあるんじゃないでしょうか。今回は春夏におすすめの素材として『しじら織』を取り上げましたが、今後は1年に一つ素材をフォーカスするような形で、第2弾、第3弾と、宮田織物の持つ素材を紹介していければと思っています」

宮田織物株式会社の本社2階で生地見本を見る澤田さん
本社2階には、今までの生地見本がずらり。一つひとつに名前がついており、それぞれに物語がある。

今までは半纏や甚平、作務衣など和テイストのアイテムが多かったため、「YAYA」では若い世代の方も日常着として着やすいよう、シンプルでゆったりとしたシルエットのデザインを採用。基本的にアイテムのデザインは変えずに素材だけを変更していく形をとる予定で、既に第2弾の素材や別カラーなどの案も構想中です。

例えばお気に入りの定番シャツを、夏にはシャリッとした蚊帳素材で、秋冬は柔らかな重ねガーゼ素材で、といった、新しい服選びの楽しみ方ができるようになるかもしれません。

毎年新たな素材を発表していくとしても、全素材を紹介し終わるまでには6000年以上もかかってしまうほどの膨大な財産を持つ宮田織物が育てる「YAYA」。これから一体どんな風に成長し、どこへ羽ばたいていくのか、これからも目が離せません。

YAYA
SHIJIRA PANTS

宮田織物の綿100%しじら織「八雲」を使用。さらりと軽い着心地で肌ざわりがよく、ジェンダーレス・エイジレスに着用できる色とゆったりとしたデザインとなっている。両脇ポケット、ウエストは総ゴムでサイズ調整紐あり。後ろに摩耗したゴム替え用の口があるのも嬉しい。1万2100円。パンツのほか、同素材のカーディガン1万4300円、開襟シャツ1万4300円、スタンドカラーシャツ1万6500円、Tシャツ9900円もあり。全アイテムBLACK・NAVY・GREENの3色展開。

(問)宮田織物株式会社
https://miyata-orimono.co.jp/yaya

※表示価格は税込み


本記事は2023年3月に取材したものです。
写真/椿原大樹 文/亀井玲奈

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