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時代のニーズや変化に応えた優れモノが日々誕生しています。心踊る進化を遂げたアイテムはどのようにして生み出されたのか?「ビギニン」は、そんな前代未聞の優れモノを”Beginした人”を訪ね、深層に迫る企画です。

宮田織物 YAYAのパンツ

ここ数年で職場環境や生活スタイルがガラリと変わり、自身の衣・食・住を見直す機会が増えたという方も少なくないのではないでしょうか。リモートワークが増えたことで通勤時間や外出の機会が減り、おうちで過ごす時間を少しでも快適に過ごせるよう、部屋着にこだわるようになったという声も多く聞かれます。

そんな中、日本の伝統織物である「しじら織」をフォーカスし、心地よい日常着を提案する新たなブランド「YAYA」を立ち上げたのが、今回ご紹介するビギニンです。

しじら織

しじら織は、伝統的な技法を用いて作られる独特の風合いが特徴の織物で、徳島県徳島市で生産される阿波正藍しじら織は国の伝統的工芸品にも指定されています。明治時代の始め、当時庶民の間で流行していた木綿織物「たたえ縞」を干していた際、にわか雨で生地が濡れ、縮んだ生地の凹凸の風合いの美しさを気に入って、シボのある木綿織物を作り始めたことが誕生のきっかけであると言われています。

このシボと呼ばれる織物の表面にできる細かいしわのような縮(ちぢみ)が生み出した生地の凹凸が、軽さと肌触りの良さを与えるとともに、汗をかいてもぺったりと肌に張り付くのを防ぐため、夏場も涼しく快適に過ごせる生地として古くから親しまれています。

そして、この日本が生んだ伝統的な春夏素材であるしじら織をリブートし、新たな自社ブランド「YAYA」を立ち上げたのが、創業100年を越える木綿織物の老舗、福岡県筑後市の宮田織物でテキスタイルデザイナーを務める澤田久美子さんです。

今回のビギニン

宮田織物株式会社 澤田久美子さん

宮田織物株式会社 澤田久美子さん

1991年生まれ。福岡県筑後市出身。アイドルグループやミュージシャンのMV制作、CM制作などの映像制作の仕事を経て、筑後市へのUターンをきっかけに宮田織物へ入社。2023年1月「産地の見える服」をコンセプトにしたに自社ブランド「YAYA」をスタート。休日は2歳になる息子さんとのお散歩や電車でのおでかけを楽しんでいる。

Idea:
日常の全てが新たなアイデアの源

以前は映像制作の仕事をしていた澤田さん。専門学校に通っていた10代の頃から、福岡と東京を行き来しながら、アイドルやミュージシャンのMV制作、CM制作などの現場で働いていました。

「学校よりも現場にいるほうが勉強になるし、とにかく仕事が楽しくて、現場経験を無理矢理実習単位にしてもらっていました(笑)。学校の先輩を頼って身一つで上京し、ご飯はロケ弁、お風呂はテレビ局のシャワー、住む所がなかったので控室の一角で寝泊まりさせてもらって。いつも同じ格好をしていたので、見かねた先輩から『身だしなみだけはちゃんとしたほうがいいよ』と注意されたときはちょっとへこみましたが、仕事自体が辛いと思ったことはなかったです」

やりがいを感じ、一生映像制作の仕事を続けるつもりでしたが、実家に戻ることになり25歳のときに筑後市へUターン。地元で仕事を探すなかで出会ったのが「宮田織物」でした。

宮田織物の工場内

「このあたりには昔から久留米絣や八女の人形、灯篭などといった伝統工芸が数多くあり、ものづくりが盛んな土地です。子どもの頃は気がつかなかったけれど、周りを見るとこだわりや熱意を持った人達がたくさんいて、こういう場所で一からものづくりに携わるのも面白いんじゃないかと思ったんです」

1913年(大正2年)創業の「宮田織物」は、久留米絣をルーツに持ち、糸の段階で染色する「先染め織物」を用いた製品を、糸選びからテキスタイルデザイン・織り・商品企画・縫製・販売まで全てを自社で行っています。これは、商品企画、販売を行うメーカーと、生地や製品の生産を担う専門企業による分業化が定着しているアパレル業界では、珍しい生産スタイルです。主力製品の綿入れ半纏には、多くのファンがいます。

宮田織物の工場内
糸を染めてから生地に織り上げる先染め織物。こちらは糸を染める染色窯。天井から吊り下がったクレーンを使って糸を投入する。気温や湿度などで同じ染料でも微妙に色合いが変わることもあり、熟練の職人がタイミングを見極めながら染め上げる。

業界・業種共に未経験の分野でしたが、一から何かを作り上げていくということと、淡々と作業をするのではなく、思いを込めてものづくりをしていることに共感を覚えた澤田さんはテキスタイルデザイナーとして入社。「道具のことを理解していなければ自分の作りたいものを形にすることはできない」と映像制作の現場で学んだことから、まずは織機について現場で学ぶところから始め、宮田織物で使用している織機の仕組みや特徴などへの理解を深めていきました。

宮田織物の工場内

「私はプライベートと仕事、オンとオフの切り替えをせずに常に仕事のことを考えているというスタイルで、例えば出張で訪れた空港の床の模様がキレイだなとか、家で野菜を洗っているときにこぼれた水の形がユニークだなと思ったら、すぐにこれをテキスタイルにするなら…と思ってしまうんです。映像の仕事をしていたせいかもしれませんが、日常にある画からヒントをもらって、うちの技術に落とし込む、というのが私のデザインのやり方。機械のことも理解しているので、これを形にするならあれをこうして…と具体的な生産まで想像をめぐらせています」

しじら織の製作過程

こうした澤田さんの独創的な発想とデザインスタイルは世界的に活躍する北欧デザイナーからも注目され、直々に特別注文が舞い込んだことも。

「以前日本に来たときに、うちの半纏を買って自分もこういうものを作りたい!と思ったそうで、商品タグを見て直接連絡が来たんです。最初は海外から何やら怪しいメールが…と思いましたが(笑)、屋久島で見た苔に生命力を感じて『これを生地にしたい! KUMIKO、苔を作ろう!』と言われて。私にとっては何かのモチーフを基にデザインを起こすのは得意分野なので、専用ソフトでグラフィックを作り、『こういう苔はどうですか?』と提案しました。その生地は現在、『moss moss(モスモス)』という名前のテキスタイルになっています」

moss mossという名前のテキスタイル海外デザイナーの依頼で生まれたmoss moss(モスモス)。

Trigger:
産休明けに見た会社の変化に愕然

宮田織物株式会社 澤田久美子さん

宮田織物の持つ技術を活かしながら、ものづくりの面白さを感じていた澤田さん。しかし、産前産後休暇・育児休暇などで1年半休職した後、復帰した会社の様子に愕然とします。

「休職中にちょうどコロナ禍になり、会社を取り巻く環境が激変していたんです。それまでうちのメインの取引先は卸問屋で、そこから百貨店に商品を卸していましたが、百貨店の休業や営業時間短縮、外出控えなどで市場自体が大幅に縮小し、売上も減少。実習生は三分の一に減っていましたし、織機もフル稼働していない。関わっていた自社のオリジナルブランドの新企画はストップしていました」

そして何より、社員が意気消沈していて、会社自体に元気がないと感じた澤田さんは、この状況を何とかしなければならないという思いに駆られます。

宮田織物の社内

「当社の掲げる信念の一つが、『見えないところに手を抜かない』ということ。例えば、冬場に人気の綿入れ半纏は1枚ずつ手縫いで仕立てていくんですが、縫い目の長さにも決まりがあり、職人たちがひと針ひと針均等に縫い上げています。羽織ってしまえば見えない襟裏の部分も、着たときの首元のフィット感が手縫いと機械縫いとでは全然違う。そういった商品の細かい部分にも一つひとつ手間をかけて商品づくりを行っている――ということを今までは表立って伝えていませんでした。でも、こうした見えない部分に、宮田織物の着心地の良さや長く着られる理由がある。だから、これからは『見えないところにも手を抜かない』ことを『見せていかなければならない』と思ったんです」

多くの人たちが手間ひまをかけて丁寧に作ったものだからこそ、着心地の良さ、品質の高さが保たれているのだとお客様に伝えることで、「良いものを使っている」と感じ、満足度もより高まります。こうした本来の良さを伝えるために新たに立ち上げたブランドが、「産地の見える服」というコンセプトを持つ「YAYA」です。 後半では、新ブランド「YAYA」に込められた思いに迫ります。

後編:牛舎から生まれた「YAYA」は6000年のポテンシャルを持つ に続く

YAYA
SHIJIRA PANTS

宮田織物の綿100%しじら織「八雲」を使用。さらりと軽い着心地で肌ざわりがよく、ジェンダーレス・エイジレスに着用できる色とゆったりとしたデザインとなっている。両脇ポケット、ウエストは総ゴムでサイズ調整紐あり。後ろに摩耗したゴム替え用の口があるのも嬉しい。1万2100円。パンツのほか、同素材のカーディガン1万4300円、開襟シャツ1万4300円、スタンドカラーシャツ1万6500円、Tシャツ9900円もあり。全アイテムBLACK・NAVY・GREENの3色展開。

(問)宮田織物株式会社
https://miyata-orimono.co.jp/yaya

※表示価格は税込み


本記事は2023年3月に取材したものです。
写真/椿原大樹 文/亀井玲奈

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