string(38) "https://www.e-begin.jp/article/364362/"
int(1)
int(1)
  

ノウタス

数年の間に世界を一変させる可能性を秘めた「DX(デジタルトランスフォーメーション)」にフォーカスする連載「プロジェクトDX」。時代の変化やニーズにDXを通じて応える優れたサービスの開発者やその現場を訪ね、未来を変える可能性やサービスに込められた思いを紹介していきます。

この連載の記事一覧へ>>

ビニールハウス栽培のおかげで一年中楽しめるようになった果物狩り。フレッシュな果実を自らの手でもぎりその場で味わう。家族連れにもちょうどいい贅沢な休日の過ごし方です。今回お届けするプロジェクトDXは、そんな果物狩り体験をもっと特別にするサービス。生産者と参加者のコミュニケーションを手助けする、ノウタスの取り組みを取材してきました。

「ノウタス」のクダモノガリプラス
プロジェクトDX 〜挑戦者No.8〜

ノウタス
現在、農業従事者の平均年齢は約68歳(農林水産省のページ>>)。しかもその数は、2030年には2020年の半分以下になると予測されています。農業業界は私たちが想像するよりもはるかに深刻な状況。次世代へ農業をつなぐために、国をあげて推進しているのがアグリテックです。

アグリカルチャー(農業)×テックと聞くと、ドローンを使って農薬を撒いたり、無人のトラクターを投入したりするDX化が頭に思い浮かびます。ですが、2022年春設立されたノウタスは、そうした変革とはまったく異なるアプローチで農業の課題と向き合います。

人生に農を足そう!

ノウタス代表 高橋明久氏ノウタス 代表取締役 Chief Executive Officer 高橋 明久氏(※「高」は、正しくはハシゴダカ)

ノウタスの代表を務めるのは高橋明久さん。世界最大級のコンサルティング会社で金融×デジタルをテーマに企業の新規事業への参入をサポートしてきました。プライベートでは実家のすもも農家の経営支援も行います。

忙しい日々を過ごすなかで「家族農家の抱える業界課題に改めて直面した」と高橋さん。世代交代ができていなかったり、そもそも人手が足りなかったり。農園で仕事をしていると、別の職種の人と関わりをもつ機会も少なく、どこか閉鎖的。そこで思い描くようになったのが、農業にデジタルを掛け合わせた新しい未来です。

「自分の経験を活かせますし、農業に異業種が参入できる事業を始めようと思いました」

世の中の優れた技術や人々を“農”に“足す”ことにより、農業の課題を解決する。自身のキャリアとバックボーンが重なり、高橋さんは仲間と一緒にノウタスを創業しました。

ノウタス ミーティングの様子
基本はリモートワーク。メンバーの中にはカンボジアに住む方も。テクノロジーに特化していたり、大手人材会社出身者だったり。それぞれの専門分野を極めているからこそ、自由なワークスタイルとチームシップが築かれている。

メンバーは農業にゆかりのある人ばかり。熊本県のイチゴ農家や長野県のブドウ農家など。ノウタスの事業を自分ごととして考えられるチームが結成されています。さらに地域の農家にコミットできる体制を整えるために長野支社も設立。熱意、人材、土壌の3つの要素が揃い、2023年に本格始動させるのが、果物狩りプラットフォーム「クダモノガリプラス」です。

参加者が推しの農家と出会える果物狩り

クダモノガリプラスの流れ
家族農家が持続可能な社会を目指す。そのゴールに向かって企画されたクダモノガリプラスは、予約受付、入場管理、定型の商品説明、決済など、果物狩りに必要な業務をスマホ上で一元的に管理するプラットフォームです。

目指すのは果物狩りを無人で行うことではない、と言う高橋さん。「このサービスを使うことで、農家さんは参加者との価値のあるコミュニケーションに集中することができます。収穫のコツ、独自の栽培方法、農業ライフのエピソードなど、作り手だからこそできる話で参加者と交流する時間が生まれます」

 

コミュニケーションでファンを獲得!

ノウタスの実証実験
味わいだけでなく作り手の想いやこだわりも参考にして、果物の価値を見極められるようになれば、自ずと推しの農家ができるもの。クダモノガリプラスは、果物狩りを終えた後の作り手と買い手のつながりも育みます。「忘れられない体験を提供したい」と高橋さん。

「果物狩りに行っても、農家さんと話す機会がなかったりして。種類とかもよくわからないまま、食べたなってことくらいにしか記憶に残らない。家族農家さんの力になるためには、これを改善して、ファンを増やすことが大切だと思ったんです」

30分程度で会場設営完了!

クダモノガリプラス
クダモノガリプラスの導入が本格的に進められるのは今年から。

30分程度で設営できるので、これまで果物狩りをしてこなかった農家でも気軽に始められます。今は地方自治体とタッグを組んで、参加する農家をどんどん増やしているそう。ふるさと納税の返礼品として体験を提供することも検討しています。

昨年りんご農家とぶどう農家で行った実証実験では、農家からも参加者からも喜びの声が多数。高橋さんも「みんなが楽しいと言ってくれて手応えを感じた」とにっこり。

スマホ一台で受付から退園、支払いまで

では、実際にどのようにして私たちは参加できるのか。予約から支払いまで、とてもスマートな設計です。

まずは、専用のアプリをダウンロードして、お目当ての農園を選びます。ここは一般的な予約の流れとほぼ同じ。農園は果物やエリアごとにグループ分けされており、希望にマッチしたグループを選択すると、運営サイドからおすすめの農園を紹介してもらえます。もちろん、指定の農園に予約を入れることも可能です。

アプリ利用時のイメージ。

農園に到着したら受付のQRコードをスマホのカメラを使って読み込むだけ。収穫時間を表示するページに遷移し、終わり時間に合わせてアラームを設定できます。農園内には農園や果物の品種の説明を確認できるQRコードも設置されています。

クダモノガリプラス

チェックアウトもスマホから。忘れ物がないか、レンタルした物を返却できているかなど、収穫後に確認すべき内容をチェック項目表で確認できます。受付が終わると、農家にも連絡が届く仕組みになっているので退園もスムーズです。

満足度に応じて参加者が価格を決める


体験料金は、株式会社ネットプロテクションズの後払いサービス「あと値決め」を利用して支払います。ユニークなのは満足度に応じて自分で支払額を決められること。「美味しかった」「ありがとう」「応援したい」などの項目から直感的に値段を設定できます。この決済方法を取り入れた理由は、「オンラインでシャインマスカットと巨峰のセットを販売したのがきっかけ」と高橋さんは言います。

「シャインマスカットの人気がすごくて、巨峰の値段が年々下がってきているんですね。でも、あと値決めを採用してオンライン販売してみたところ、巨峰のほうに高値がつきました。市場価格にして、約1.7倍も! どちらにも農家のこだわりが詰まっているし、何よりも美味しいんです。流行によって価格が左右されていては、本当の価値が評価されにくい。果物のおいしさと農家さんの大変さを再評価してほしいから、クダモノガリプラスにも取り入れることにしたんです」

巨峰とシャインマスカット岡木農園のみずみずしいシャインマスカットと濃厚な味わいの巨峰。ノウタスのオンライン販売サイト「ノウタスモール」にて販売していた。支払いはあと値決めサービスを採用。最低価格は送料分の1000円に設定された。現在は完売。

果物や体験にも、もちろん最低価格は設定されていますが、その価格も農家が自由に決められる仕組みになっています。高橋さんは「育てている品種も、栽培方法も一軒一軒違いますから当然です」と言いながら、農業の実情について本音をポロリ。

「本っ当~に問題が山積み。生活に身近な業界であるにも関わらず、なにしろ関係人口が少なすぎる。だから僕らとしてはいろんな企業や人を巻き込んで、少しでも農業を生活の一部にしていきたいと思っています。一億人が何かしらの形で農業に携わっているようにしたい! その取り組みの一つとして、つい最近、現役アイドルの非常勤メンバーとしての参加も始まりました」


さらにノウタスではクダモノガリプラスのシステムや、そこで得た各種データを、農家だけでなく企業・金融機関向けにも提供することで異業種の農業参入を支援する基盤を準備していると言います。例えば、クレジットカードのゴールド会員向けサービスとして展開することなどを検討しています。

「農業をテーマにした新規事業なんて正直儲けは少ない。お声かけいただいた企業にも、それを承知で関わっていただくようにしています。とにかく、楽しんでもらうことが一番。WIN-WINな関係は約束できないけれど、FUN-FUNな関係になることは間違いなく保証できます」

ファン-ファンな関係をAI広報がさらに加速させる


ノウタスでは広報に、巷で話題の人工知能チャットボット「チャットGPT」を採用しています。成実 柚子(なるみ ゆず)という名前を付けて、ノウタスに関する問い合わせを一手に引き受けます。LINEで友だち追加すれば、誰でも使用可能です。

「今後、試験的にクダモノガリプラスにも取り入れていきます。というのも、消費者と農家さんがつながることは、必ずしも良い面ばかりではないんですね。一年かけて大事に育ててきた果物を『不味い!』の一言で片付けられてしまったら傷つきますし、参加者のレビューには批判も含めてさまざまな声があるはず。そうしたコミュニケーションの問題解決に、成実さんが一役買ってくれれればと思っています」

「まずは自分たちがやってみようってことで」と高橋さんは続けます。誰もやらないのなら、自分がやる。そんな心意気が、農家と関係者を“ファン”でつなぐ未来を作っていく。ノウタスのクダモノガリプラスは、新しい日本の農業を支える一歩です。

※取材した「クダモノガリプラス」は、長野県須坂市に採択され市内複数農家への導入が進められています。それを皮切りに全国にも展開予定。最新情報はノウタス企業サイトで発信しています。

ノウタス https://www.notas.co.jp/


写真/大見謝星斗 文/妹尾龍都

特集・連載「プロジェクトDX」の最新記事

農業×IT×ファンが社会を変える!? ノウタスの「クダモノガリプラス」がつなぐ農と人

Begin Recommend

facebook facebook WEAR_ロゴ