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©️CLOUDS Architecture Office

数年の間に世界を一変させる可能性を秘めているDXにフォーカスする連載「プロジェクトDX」。時代の変化やニーズに、DXを通じて見事に応える、優れたサービスの開発者やその現場を訪ね、未来を変える可能性やそこに込められた思いを紹介していきます。

今回訪ねたのは、24時間で建てられる家『Sphere(以下、スフィア)』。日本初の3Dプリンター専業住宅メーカー「Serendix(以下、セレンディクス)」が描くのは、なんと約300万円でマイホームが手に入る未来です。

セレンディクスの3Dプリンターの家「スフィア」
プロジェクトDX~挑戦者No.10~

©️セレンディクス

その昔、豊臣秀吉は組み立てるだけの状態にした木材を川に流して現地で建造する、いわゆるプレハブ工法を採用し、一晩で城を築き上げたとされています。2018年創業、兵庫県のスタートアップ企業セレンディクスがリリースした、床面積10平方メートルの球体住宅スフィアは、まさに令和版の一夜城。最先端の3Dプリンターから出力したコンクリート製のパーツを組み立てて、24時間以内に家を建造します。

2022年3月には、3Dプリンターのある愛知県小牧市にスフィア第一号が完成。以降は、そこで作られたパーツを全国各地へ運び、その土地の協力会社が設営することを想定しています。スフィアの販売価格は税込330万円。脅威の建設スピードとコストパフォーマンスに、世界中から問い合わせが殺到。最初に販売予定だった6棟はすでに完売しています。未来の街の風景を変える、まったく新しい形の住宅です。

24時間以内に、330万円以下の家をつくる。そんな夢物語を叶えられたのは、現時点で、国内最大となる3Dプリンターがあってこそ。採用している3Dプリンターは、同社の“世界最先端の家で人類を豊かにする”という理念に共感してくれた中国とオランダの3Dプリンターメーカーによるものです。

日本最大。数ミリ単位で操作可能な3Dプリンター

では、両社の3Dプリンターは一般的なモデルと比べて、どの点が優れているのでしょうか。それは単に大きな物体を出力できるというだけでなく、セメントにも対応しているということ。そして、巨大な造形をするために欠かせない高性能なアームやクレーンの機構も、そのパフォーマンスを支えています。

セレンディクスには、上述の会社だけでなく、協力企業が世界中に189社以上も存在します。屋根づくり、3Dプリンターから出力した部品の組み立て、水回りの工事に特化した会社などの“チームアップ”があってこそ、スフィアは完成しています。

スポーツカーの開発技術を応用

オンラインでの取材に応じてくれたセレンディクス 代表 小間裕康氏。

代表を務める小間さんは、2010年にはじめて起業し、日本で唯一スポーツカーの量産に成功した経歴の持ち主。その後、その技術を海外のEV車開発企業に提供し、世界の車事業の発展に尽力されました。

さらには会社の事業が大きくなるにつれ、さまざまなエンジニア会社に事業投資をするように。そのなかの一社が、上述の3Dプリンターの会社です。スポーツカーとスフィアを建造する工程には類似点が多く、どちらも3Dプリンターを利用しています。完成形をパーツに分けて出力し、いわばレゴブロックのように結合して形成。素材がコンクリートの場合には、プレキャスト・コンクリートと呼ばれます。スフィアがスピーディに建築できるのは、この製法を採用していることが大きな理由です。

「衣食住ならぬ“移”食住の、移動に関しての改革は自分なりに達成した。次は、少し視野を広げて、“住”の改革に着手したいと思いました。しかも、EV車やスポーツカー造りとも親和性がある。同じ技術を応用できそうだったので、セレンディクスを立ちあげたんです」と小間さん。

スフィアの建造において、セレンディクスが担うのは3Dプリンターにダウンロードするデジタルデータの設計。耐震性や耐熱性、堅牢性に対しての特許を取得しており、出力される住宅の安全性を担保します。

「我々のファースト・ミッションは、住宅ローンをなくすこと。これまでにない新しい物を普及するための最重要課題として掲げています。自社だけではできなかったことを、それぞれのプロから知恵を集めてカタチにしていきたいです」

「大変だったのは素材造り」と続ける小間さん。スフィアには、セレンディクスが日本の素材メーカーと協業して開発した速乾性の高いコンクリートが使用されています。

3Dプリンターで建造するときは、ソフトクリームのように層を積み重ねて高さを出していくため、従来のコンクリートだと安定する前に新たな層の重みで崩れてしまうという課題がありました。また、硬化の過程では外気温も大きく影響するなど、外的要因も含めて、オールシーズン安定して生産できるように、スフィアの開発はオリジナルの素材造りから始まりました。小間さんは当時の失敗を笑いながら振り返ります。

「初期の頃は、コンクリートがノズルに詰まってしまうなんてことも(笑)。配合の調整で硬さが安定してくると、積層痕もなだらかになります。出力してから均す作業を最小限にするためにも、セメントの開発は必須でした」

火星住宅開発を研究する日本人建築家のデザイン

特徴的な球体のデザインもただ意匠を追求しているだけではなく、堅牢性や安全性を高めるための工夫のひとつ。日本人建築家、曽野正之・オスタップ・ルダケヴィッチ「Clouds Architecture Office」が担当。彼の所属するチームが発表したのは、「MARS ICE HOUSE」(火星の氷の家)です。火星の表面では常に強風が吹き荒れ、その力によって砂丘の地形が激しく変化するといわれていますが、火星の氷の家はそうした状況下でも耐えられるように設計されており、さらには3Dプリンタを用いて出力されています。

「日本人だからお願いした、というより世界最先端の建築をされていたのが曽野さんだった」と小間さん。地球では考えられないような強風にも耐えられる住宅のデザインを踏襲し、スフィアも球体状になりました。

©️CLOUDS Architecture Office

昨年販売されたスフィアは、床面積が10平方メートル。グランピング施設や離れの書斎といったメインの住居とは違う用途の建物として提案しています。モニター販売だけではなく、2023年の百貨店の初売りでは一棟限定で一般販売され、話題となりました。

「ステップ・バイ・ステップでやっています。リアルにスフィアを使ってもらうのはこれから。正直なところ、ワクワク感と不安な気持ちが半分半分といったところですね(笑)。うまくいくことを願っています。なにはともあれ、一般コンシューマーに喜んでもらえたら、それが一番ですね」

フジツボモデルの完成予想©️慶應義塾大学KGRI環デザイン&デジタルマニュファクチャリング創造センター

さらには本来の「家」としての役割を担う、一般向けの3Dプリンター住宅「フジツボ モデル」の開発プロジェクトも、慶應義塾大学KGRI環デザイン&デジタルマニュファクチャリング創造センターと一緒に進められています。1階建て平屋で、49平方メートルの広さを確保。高い天井のある快適な室内は構造強度・耐火性・耐水性・断熱も担保します。もちろん、こちらも24時間以内で建造、価格も550万円と一般的な住宅と比べてかなりお手頃。プロトタイプは今年中の発表を目指しているんだそう。小間さんは「フジツボモデルが街の風景を変える」と未来を思い描きます。

フジツボモデル内装設計図©️慶應義塾大学KGRI環デザイン&デジタルマニュファクチャリング創造センター

「日本は木造建築が多い。そのため、経年で建物の価値が下がっていきますよね。一方で、海外を見渡してみると、長く住めるコンクリート造りの家が数多くある。建物自体の価値もちゃんと継承されているんです。歴史を刻みながら、未来へつなぐ。そんな美しい風景を、まずは我々が出力する3Dプリンターの家でつくっていきたいと思っています」

通信データを利用した住居サービスも

©️セレンディクス

現在は従来の建築手法に基づいて施工し、国の定める安全性をクリアしているスフィア。加えて、IoTやAI技術を家に取り入れた、新たな住居サービスも検討中とのこと。2025年の大阪・関西万博に世界最先端の家として出展も目指しており、スフィアが世界の風景を変える未来はそう遠くはないのかもしれません。


写真/伏見早織 文/妹尾龍都

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