入館料はたったの100円(!) モノ好き必見の「ヴィンテージライターの世界展」開催中
ハンドバッグのメーカーで、コンパクトやハンドミラーなどの婦人向け小物も展開した米・エバンスのポケットライター(1930年代~’50年代製)。いずれも優美な造形や華やかな装飾が特徴だ。
機械式時計にも通じるライターの魅力
都内には数多くの博物館や美術館があり、それぞれが独自のテーマやコンセプトのもと、個性的な展示で人々を楽しませています。また、そうしたさまざまな文化や芸術、歴史に触れて、気軽に親しむことができるのは都会生活ならではの醍醐味といえるでしょう。
そんなカルチャースポットのひとつ、たばこと塩の博物館(東京都墨田区)では只今、特別展「ヴィンテージライターの世界 炎と魅せるメタルワーク」が開催中です(会期:2022年12月25日まで)。館蔵資料の中からライターの前身である着火具をはじめ、ダンヒルやジッポーなどの名門メーカーが手がけた傑作や、ユニークな造形のテーブルライターなど約200点を展示。同館となじみ深い隅田川周辺地域の地場産業であった、国産ライターの歩みなども紹介されています。
とはいえ、「自分はたばこ、吸わないから、ライターにも関心がない」ってな人も少なくないハズ。が、その歴史を垣間見れば進化の歩みはじつに興味深く、実用品でありながら美術品としての鑑賞にも値する点では時計やカメラなどと共通する魅力があると納得できることでしょう。ということで、以下では同特別展で目の当たりにできるヴィンテージライターの一部を紹介しながら、簡単ではありますが、ライターの歴史について触れてみたいと思います。
ライターが“火の取り扱い”をより身近に、より気軽なものにしてくれた
ライターの誕生は17世紀末のヨーロッパでのこと。フリントロック式銃(点火装置に火打石を用いた銃)の機構を利用して点火するというもので、当時は「tinder lighter」とか「tinder pistol」などと呼ばれました。日本では、幕末期に加賀のからくり師・大野弁吉がフリントロック式のライターを根付として持ち運べるものにして製作したという記録が残っています。ちなみに、現在見ることができるマッチの原型は1827年、英国の化学者ジョン・ウォーカーの発明によって誕生。意外にもマッチよりライターのほうが先に誕生していたことになるのですね。
ふた付き懐中時計のようにも見える、これは1910年代に製造されたハンドメイド・オイルライター。オイルライターが工業製品として本格的に普及するのは第一次世界大戦(1914~’18年)後のことだった。
近代的なライターの歴史は1903年、オーストリアの化学者で発明家のカール・ヴェルスバッハが高効率な火打石の合金を発明したことから始まりました。いち早く、本格的生産を開始した同国のメーカー、イムコ(1918年創業)は、軍装備品として「イーファ」と命名したオイルライターを開発。これがライターの普及に一役買うことになります。
1920年代〜‘30年代、オイルライターが普及するにつれてポケットライターは装身具として、また、テーブルライターは調度品として、その外観も重視されるように。当時の装飾美術のトレンドだったアール・デコの特徴的な幾何学デザインを取り入れた銘品が数多く生み出されました。
英・ダンヒルの1920年代製オイルライター「ユニーク」(製造地はスイス)。1880年代に馬具専門製造卸売業としてロンドンで創業したダンヒルは、後年に開業した自動車用品店の顧客に向け、たばこやパイプなどとともに、こうしたオリジナルライターの製造・販売も手がけた。
米・ジッポー(1932年創業)は、キャップを開け、着火部の横に取り付けられたフリントホイール(ダイヤル状の点火用ヤスリのこと。ロータリースイッチともいう)を回転させることで、片手でも着火できるうえ、耐風性にもすぐれたオリジナルライターを開発。その「ジッポー(Zippo)」は世界的なヒットとなり、オイルライターの代名詞的存在になりました。
写真は、ともに米・ジッポーの軍用ライター「ブラッククラックル・モデル」(1940年代製)。同社は1941年~’45年の第二次世界大戦期、一般市場向けの製造を中断して軍用ライターのみを製造。その際、それまで使用していた真鍮が軍需物資だったことから、鉄製の基体に錆止めの黒い焼き付け塗装を施したモデルを生産した。
日本では1920年代からオイルライターの製造が本格化しました。日中戦争勃発(1937年)から第二次世界大戦時にいたる期間、軍需以外の金属使用の制限により、メーカー各社は次々と転廃業に追い込まれたものの、戦後に復興を遂げ、やがて輸出の販路も開かれていきました。1960年代にはガスライターが普及し、着火方式も、フリントを用いず電圧で火花を起こす電子式が発明されたことで、使い切りライターやキャンプなどでも重宝する点火棒なども広く普及するにいたりました。
日本で製作されたライター付きスロットマシン。右側面のレバーを倒すとスロットが回転するとともに、前胴右上の穴から火が出る仕組みだ。今回の特別展では、こんな珍品も目の当たりにできるのだ。
お出かけついでに立ち寄るのもオススメ
さて、上記をお読みになって「ライターって面白いかも」と興味をもったなら、たばこと塩の博物館の特別展「ヴィンテージライターの世界 炎と魅せるメタルワーク」にぜひ! 質的にも量的にも見応えあるヴィンテージものが多数展示されているので誰もが楽しめますし、それらを鑑賞するうちにますます興味&知識が深まって、なにやら得した気分になれること請け合いです。しかも、入館料は嬉しいことに大人100円! スカイツリーからほど近い場所にあるので、お出かけやショッピングのついでに、気軽に立ち寄ってみるのもいいかもです!
たばこと塩の博物館の1階エントランスホールのミュージアムショップでは、特別展の期間中、特設コーナーが設けられており、各種ライター(写真)や関連書籍などが販売されている。
左/東武鉄道伊勢崎線・とうきょうスカイツリー駅から徒歩約8分の好立地にある、たばこと塩の博物館の外観。右/同館2~3階の常設展示室では、たばこの歴史や塩に関する展示が多数あり。写真は、3階の常設展示室「たばこの歴史と文化」内の「世界の喫煙具」コーナー。
「ヴィンテージライターの世界 炎と魅せるメタルワーク」
会期:2022年9月10日~2022年12月25日
会場:たばこと塩の博物館 2階特別展示室
住所:東京都墨田区横川1-16-3
入館料:大人・大学生/100円、満65歳以上(要証明書)/50円、小・中・高校生/50円
開館時間:10~17時(入館は16時半まで)
休館日:月曜日
問い合わせ先/たばこと塩の博物館 ☎ 03-3622-8801
https://www.tabashio.jp/
※表示価格は税込
文/山田純貴