特集・連載
“木型の妙”が生むその佇まいは唯一無二。個性的な木型で作られた名門ブランド靴
本格革靴会議 「モノを大事に」なサステナ社会だし、物価高で「本当に永く使えるモノ」が欲しいし、「今こそ本格靴が必要!」と強く思うからこその珠玉の革靴100連発。おいそれと買える値段じゃないものも多いけど、だからこそ詳細解説したいワケです。ってことで、初心者もツウも納得する「一生靴」をここで見つけてください! この記事は特集・連載「本格革靴会議」#06です。
名門ブランドの注目作をお題に、4名の靴賢者+編集長イチカワがあーだこーだと本音で言いたい放談! じっくり読み込んでいただければ、今買うべき本格靴が見えてくる!?
上段/左から、イラストレーター 綿谷 寛さん、ワールドフットウェア ギャラリー ディレクター 日髙竜介さん 下段/左から、スタイリスト 武内雅英さん、編集・ライター 小曽根 広光さん、ビギン編集長 イチカワ
独特な美しさを湛える唯我独尊ラストの官能
フラテッリ ジャコメッティ
市川 フラテッリ ジャコメッティの2足、こうしてまじまじと見るとかなり個性的な木型ですね。
小曽根 親指から小指にかけて斜めにカットされた、いわゆる“オブリークトウ”ですね。内側に大胆にカーブしているほか、履き口も内側のほうをかなり高めに設計しているため、全体的にねじれて見えます。
日高さん「これはオブリークトウですね」 綿谷さん「このラストは他に真似できない」
武内 オールデンのモディファイドラストしかり、靴好きにはこういう歪な木型が好きな人が多いですよね。
日高 フィット感がよく、自然な“あおり歩行”を促すという物理的なメリットに加え、歪な木型だからこそ生まれる独特の色気があると思うんですよ。そこが好まれるんじゃないかと。
市川 ジャコメッティはまさにそれ。一見オーセンティックにも見えるんだけど、やっぱり雰囲気あるんだよなぁ。
レ ユッカス
綿谷 独特の色気といえば、このレ ユッカスも相当なもんだよ。そもそも高いヒールをつけているところからしてムードたっぷり。70年代っぽいフレアなパンツと合わせたら相当カッコいいだろうな。ただ履き心地はどうなんだろ。ヒールの高い靴は疲れない?
小曽根 高さはありますが、足が前に行かないよう甲やウエストでホールドしてしっかり重心を支える秀逸な木型を採用しているそうです。
綿谷 デザイナーは確かイタリア在住の日本人女性だったよね。
武内 ストール・マンテラッシ(※1)でも活躍した村瀬由香さんが立ち上げたブランド。生産はエンツォ・ボナフェ(※2)が担当していますから、革も仕立ても最高ですよ。
日高 村瀬さんはスポーツシューズのデザイナーとしての経歴もあり、人間工学にも精通。それが高いヒールでも疲れにくい木型に生きているんでしょう。足を痛めないよう足の腱や太い血管の上にステッチラインを当てないという工夫もなされているとか。
スポーツ靴の経験も盛り込まれたレユッカス
市川 木型は履き心地を左右するだけでなく、その靴のムードを決定する一番大事なポイント。それを改めて教えてくれる2ブランドですね。
日高 木型のことをラスト(LAST)といいますよね。これ、靴のよしあしは最終的に木型で決まること、に由来するという説がありますよ。
武内 なるほどねぇ……、深い!
小曽根さん「木型で全てが変わってきます」
(※1)ストール・マンテラッシと(※2)エンツォ・ボナフェ
フィレンツェ近郊にて1912年創業の「ストール・マンテラッシ」。日本では1990年代の「クラシコ・イタリア」ブームの際、スクエアトウで一世を風靡した名門。ボローニャに工房をもつ1962創業の「エンツォ・ボナフェ」。前ローマ法王ヨハネ・パウロ2世も愛した、高い技術力を持つ名門。
①F.LLI Giacometti
フラテッリ ジャコメッティのダブルモンク(右)、ストレートチップ(左)
高級タンナーとの太いパイプを生かした極上素材と、イタリア北部のハンドメイドシューズ文化を継承するマニアックな仕立てで靴好きを魅了し続けてきた同ブランド。ご覧の2モデルはともに英国ビスポーク靴からインスパイアされた「グリジア」と呼ばれるオブリークトウ木型を使用しており、美しい見た目そのままの官能的な履き心地だ。右/13万2000円、左/11万8800円(ウィリー)
カーブやねじれが独特の色気を生む(武内さん)
日高さん「天才的なフォルムだなぁ」
②Le Yucca’s
レ ユッカスのセンターエラスティック
アッパーを上質なカーフの一枚革で仕立てた、贅沢なセンターエラスティックの定番スリッポン。ミニマルなデザインだからこそ、高めのヒールを装着したシルエットの美しさが際立つ傑作だ。15万4000円(伊勢丹新宿店)
このヒールの高さが生む美しさはまさに唯一無二です(イチカワ)
日高さん「女性ならではの感覚が活きている」
レショップ バイヤー 金子恵治さん教えてください!
本格靴レポート[なぜ? レ ユッカス]
美しさと履きやすさを兼ね備え、お洒落のプロからも熱視線を集めるレ ユッカス。今いちばんお洒落といわれるショップを牽引する金子さんに、自身の別注とともにその魅力を語っていただきました。
シャープなフォルムのUチップに、クロコダイル(左)やリザード(中央)をのせた別注作。手前のカーフモデルにのみ、取り外し可能な飾り「キルト」が付属する。左から27万5000円、25万3000円、18万1500円(レショップ 青山店)
超本格なのにカジュアルに振れるのがイイ
実力ある女性デザイナーならではの色気、伊の名工ゆえの品格が共存する無二のブランド。本格靴には珍しく洋服との相性も考えられていて、ジーンズなどカジュアルな合わせにこそしっくりくるのが魅力だと思うんです。クセのない木型を生かすべくヒールはやや低めに設定し、よりカジュアルな洋服に合わせやすく別注しました。(金子さん)
ワールドフットウェア ギャラリー ディレクター
日髙竜介さん
[愛靴:WFG×オリエンタル ジョセフ Ⅱ]
靴好きが高じて製薬業界から転身。古今東西の名靴に足を通してきたが、最近のお気に入りは写真のモンク靴。「スリッポン感覚で気軽に履け、撥水スエード&ラバーソールで雨にも強い。デザイン的にも幅広い装いに合うので、気がつくとこればかり履いています」
編集・ライター
小曽根 広光さん
[愛靴:ジェイエムウエストン ゴルフ]
兄弟誌「MEN’S EX(メンズ・エグゼクティブ)」のエースとして活躍するほか、多数の雑誌やWEBでも執筆。クラシックな装いと靴が好み。「じつは昔はモード好きでしたが、12年前にゴルフを買って徐々にクラシック志向に。“今のボク”を作った大切な靴です」
スタイリスト
武内雅英さん
[愛靴:パラブーツ ワークブーツ]
ドレスにもカジュアルにも強く、全編集部員が頼りまくり。撮影現場ではいつもサンダル履きだが、名靴を多数所有し、とくにブーツのコレクションはかなりのもの。「このワークブーツは廃番となると知って慌てて購入。ワークブーツなのに革が柔らかで極上の履き心地です」
ビギン編集長
イチカワ
[愛靴:ブルックスブラザーズ タッセルローファー]
若い頃から給料の大半を靴に注ぎ込んできた靴バカ。このタッセルローファーはオールデンがブルックスのためにOEMしたもの。「日本ではモディファイドのVチップが人気ですが、本国ではこのアバディーンラストのタッセルも大定番。所有オールデンの中で一番思い入れがあります」
イラストレーター
綿谷 寛さん
[愛靴:山陽山長 岸三郎]
ご存じ、日本で最も忙しいファッションイラストレーター。この日お持ちいただいた愛靴は、ご自身がデザインを担当し、3年前に50足限定で発売されたもの。「じつは古いロブ・ロンドンのカタログにあった靴から着想。ギリーのホワイトバックスって珍しいでしょ?」
※表示価格は税込み
[ビギン2022年10月号の記事を再構成]スタッフクレジットは本誌をご覧ください。