強豪フランスに初勝利まであと一歩……ラグビーワールドカップ2023に向けて日本代表が見せた成長

国立競技場で57,011人の大観衆が歓声を上げた。しかし歴史的初勝利はあと一歩のところでするりとこぼれ落ちた。
7月、フランスが世界に誇るパリ・サン=ジェルマンに先んじてラグビーのフランス代表が来日し、日本代表と2試合を行った。来日時は世界ランキング2位、第2戦の翌週には同国初の1位(7月29日現在2位)へ浮上した強豪中の強豪に対し、同10位の日本代表は苦戦を強いられるとみる向きもあったが、その予想はいい意味で外れてくれた。
さかのぼれば、2020年はパンデミックの影響で一切活動できなかった日本代表。翌2021年の春、コロナ禍に見舞われながらも強化を続けていた世界各国よりも1年以上遅れて活動を始めた。
来年のラグビーワールドカップ2023フランス大会までにそのブランクを取り戻すべく、急ピッチで強化を進めた日本代表だったが、ラグビーの強化は一朝一夕にはいかない。昨年はブリティッシュ&アイリッシュ・ライオンズ(イングランド・スコットランド・ウェールズ・アイルランドの4カ国により4年に1回結成される代表チーム)、アイルランド(7月および11月の2試合)、オーストラリア、スコットランドと対戦し、いずれも敗戦。テストマッチでの勝利は格下のポルトガル戦のみだった。オーストラリア戦、スコットランド戦は接戦に持ち込み健闘したものの、11月のアイルランド戦は5-60で敗れるなど、現実を突きつけられた1年となった。
ジャパンラグビー リーグワンの記念すべき1年目のシーズンを経て6月から始動した日本代表は、選手層を厚くしてレベルを底上げする目的で、準代表に相当するNDS(ナショナル・デベロップメント・スコッド)も並行して活動を開始した。まずはNDSのメンバーがトンガサムライXV(日本でプレーするトンガにルーツを持つ選手によるチーム)とのチャリティーマッチとウルグアイ代表とのテストマッチ(第1戦)に臨み、いずれも勝利。その後は当初から日本代表としてセレクションされていたメンバーを中心に、ウルグアイ(第2戦)とフランス(2試合)とのテストマッチに臨んだ。
ウルグアイ戦第2戦は43-7で快勝した日本代表だったが、昨秋はニュージーランド代表を撃破、今年のシックス・ネーションズ(欧州6カ国対抗戦)は全勝優勝を果たすなど成長著しいフランスが、大きな壁として立ちはだかった。
7月2日、豊田スタジアム(愛知県)で行われた第1戦は、日本代表に新型コロナウイルス陽性者が続出。本来先発予定だった山沢拓也に代わり李承信が司令塔として急遽先発するなど不測の事態に見舞われたが、NO8テビタ・タタフのトライ、そして李の落ち着いたゲームメイクもあり、前半は13-13と互角の勝負を演じる。しかし後半に入ると、前半にもトライを決めたWTBダミアン・プノーのトライなどでフランスに突き放され、日本代表は23-42で敗戦。1週間後の第2戦で修正が求められる試合内容となった。
都内で行われた練習を完全に非公開にするなど万全の準備をして迎えた7月9日の国立競技場(東京都)での第2戦、日本代表はフランスに先制トライを許しながらも、山中亮平の前半12分と40分のトライなどで15-7と8点リードして折り返す。山中と同年齢のリーチ マイケルらベテラン勢に加え、齋藤直人や中野将伍らこれからの選手たちの活躍も光り、対フランス戦初勝利が見えてくるような前半となった。

後半、敵地とはいえ格下には負けられないフランスは2本のペナルティゴールで15-13と2点差に迫ると、31分にはSHバティスト・クイユーのトライで逆転。15-20と5点を追う展開となった日本代表は直後の34分、敵陣でのラインアウトから途中出場のNO8テビタ・タタフが持ち前の推進力でインゴールへ飛び込んだ。57,011人の大観衆が沸きに沸いた瞬間だったが、TMO(ビデオ判定)でノックオンがあったことが判明しトライは認められず。決まっていれば逆転濃厚だった幻のトライの後は追加点を奪えず、日本代表は初勝利まであと一歩のところで敗れた。
試合後の記者会見で、ジェイミー・ジョセフHCは
「チームとしては残念な結果になってしまった。勝てる状況にはあったが、後半ミスが増えてしまったことで勝つことができなかったのは残念。若い選手もパフォーマンスを発揮できたと思うし、経験のある選手とのバランスが取れたチームになったと思う。若い選手の中でも特に9番(齋藤直人)と10番(李承信)はよく頑張ったし、ここからステップアップし前に進んでほしい」
と唇をかみながらも、手応えを口にした。選手は一様に勝てなかった悔しさをあらわにしたが、世界トップの強豪に対して勝利目前まで迫ったことで2020年のコロナ禍によるブランクを埋めつつあることを証明したと言えよう。コンディション不良で今回のセレクションから外れていた姫野和樹、流大、松田力也、中村亮土、松島幸太朗ら2019年のラグビーワールドカップの主力たちが秋に合流すれば戦力、選手層は間違いなく厚みを増すことになる。

今秋にもフランス代表と、そしてワールドカップでの対戦が決まっているイングランド代表といずれも敵地で対戦することが決まっている日本代表。来年のワールドカップに向けて真価が問われる欧州遠征で、さらに成長した姿をファンに見せてほしい。
齋藤龍太郎
《ワールドワイドにラグビーを取材中》
編集者として『ラグビー魂』をはじめとするムックや書籍を企画。2015年にフリーの編集者兼ライターとなり、トップリーグをはじめ日本代表の国内外のテストマッチ、ラグビーワールドカップを現地取材。フォトグラファーとしても活動。著書に『オールブラックス・プライド』(東邦出版)。
文・撮影/齋藤龍太郎(楕円銀河)