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いつの時代もストリートカルチャーにはキーパーソンと呼ばれる存在がおり、自ら発信をしていたり、つくり手と受け手との間をつなぐハブとしての役割を果たしていたりするもの。現代の日本で言えば、中津川吾郎さんは確実にそのひとりです。東京、池ノ上(いけのうえ)という一風変わった場所で粛々と営業を続ける、「ミンナノ」という小さなショップの店主が、これほどの影響力と魅力を持つに至った経緯とは? 今日も優しく朗らかなゴローさんに訊いた、現代のストリートウェア考。

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中津川吾郎と「MIN-NANO」

新旧ストリート世代を繋ぐ最重要人物&ショップ

about GORO NAKATSUGAWA & MIN-NANO

1977年生まれ、東京都出身。COMEBACK MY DAUGHTERSのドラムスとして活動していた2009年にミンナノをオープン。その後はバンドを脱退してショップに専念し、USのスモールカンパニーを中心に、多くのブランドの日本での地位向上を後押ししながら、ストリートに新たな潮流をつくってきた。2015年からは原宿にてセレクトショップのTOXGOを展開。現在は伊勢丹新宿店、本館2階のIsetan the Spaceにて行われているイベント、SHINJUKU_RESOLUTIONに参加していて、写真家の森山大道とミンナノによるコラボTシャツも発売中。


−−まずはゴローさんの来歴やミンナノの成り立ちから、改めて聞かせてください。ご自身のキャリアですが、最初はミュージシャンですか?

中津川吾郎さん(以下 中津川):遡るとそうですね。バンドをやっていて、そのバンドのボーカルはどちらかというと直球なアメカジが好きで。オールデンやトリッカーズをよく履いていて、僕よりもBeginに近かったと思います(笑)。

−−その当時も、いわゆる“バンドマンらしいファッション”みたいなものがあったと思いますが、ゴローさんはあまりそういう格好はされなかったんですか?

中津川:そうですね。洋服に関してはそこまでバンドとリンクしてなかったと思います。10代の頃にパンクとかハードコアから入ったけど、そういうバンドのTシャツを着るとか、革ジャンを着るとか、そういうのはあんまり。世代的にはハイスタとかハスキングビーが出始めてた頃で、特にそういう風潮は強かったけど、そこにそのまま取り込まれたくない自分もいました。バンドの人がつくる服とかとは少し距離を置きつつ、自分はグッドイナフとか、そういう裏原のカルチャーに影響を受けたのでそれを追ってました。

−−今までのゴローさんの活動は、いわゆる裏原からの流れとはまた別のものだと感じている人も多い気がします。だから、昨年のダブルタップスとミンナノのコラボレーションは余計に新鮮でした。

中津川:別に距離を保とうとかっていう意識はもともと全然なくて。ダブルタップスは展示会にお邪魔したり、自分でも洋服を着たりしてましたし。10年くらい続いてる僕らとポーターとのコラボについても、僕の中ではポーターって、そういうカルチャーの中にも昔からあった存在なので。だからダブルタップスからコラボの話をいただいたときはめちゃくちゃアガりましたよ。ちょうどミンナノが10周年っていうタイミングでしたし。それで、「アーカイブをいじりたいです」ってミーティングでお話ししたら、向こうも同じことを考えてくれていて。それをTET(ダブルタップスデザイナー 西山 徹)さんとやりとりして。

「誰とでもフェアに仕事ができるように黙々と頑張ってます(笑)

−−そんな経緯だったんですね。それに限らず、ミンナノのコラボレーションは意外なものが多くて、純粋に毎度楽しみです。

中津川:コラボ的なことは、わりかし大きめのところとやらせてもらうことが多いかもしれないですね。普段はワケわからないお店なのに、いざやるとなるとそういうすごい所と一緒にできるっていうのは自分のお店の強みだと思うので。ただ、それって自分からアプローチしてどうにかなることじゃないんですよね。僕の基本的な信念として、そういう仕事が来ても然るべき姿勢で取り組むようにはしています。“こういうことをしたい”という夢はありますけど、公言せずにやることをやっていれば、そういう巡り合わせがあるんです。そのとき、そういう人たちに会っても「なんかすいません……」みたいに卑屈にならずに、胸を張って「僕はこんなことをしてます」って言えて、フェアに仕事ができるように黙々と頑張ってる感じです(笑)。

−−お店自体のお話ですが、最初は自転車屋さんだったとうかがいました。

中津川:はい。もともとは今の場所で友達がお店をやっていて、そこが移転することになったときに、「せっかくハコがあるから何かやってみたら? ゴローちゃん、そういうの向いてるからどう?」って言われて。まぁ、僕に押し付けたかったんでしょうね(笑)。そのとき僕はピストに乗ってたし、BMXも好きで古いパーツを集めたりもしてたので、何かしら店としてやってみようと始めたのがミンナノで。最初はガラクタを売ってる店みたいだったと思います。

−−満を持して! みたいな感じではなかったんですね(笑)。

中津川:そうですね。それで、最初の頃はバンドをやりながらお店をやってて、バンド界隈の人たちには知らせてたからバンドTを置いてみたりして。自分でも、お店ってこんな感じなんだろうな、みたいに。変な言い方をすれば、100%自分の好きなものっていうわけではなかったんですよね。ちょっとふわふわしていて、これでいいのかな……って。だけど、だんだんいろんなお客さんが来てくれるようになって、それこそ自分が憧れてるような人たちも部品を探しに来てくれたり。それで少しずつ、自分が好きなスニーカーを置いたら「これ何?」とかって反応をもらえるようになってきて、自分がブーストされるようになっていきました。最初は自転車しか見てなかった人が、「このTシャツ、いいなぁ」とかって振り向いてくれるようになっていったりして。

−−そこでようやく今のショップのスタイルの基盤が出来始めたんですね。

中津川:だから僕自身が出来上がってる状態から始まったというよりは、お客さんにつくってもらったように感じていて。お店をやってなかったら、今の自分はないんじゃないかなぁ。自分が「これ、いいんじゃないかな?」と思ったものを人にも気に入ってもらえたら自信にもなるから。その積み重ねでより深いところに行ってみて、「あ、反応してくれてる!」とか。それで欲が出て、例えばTシャツならスケートボードのブランドはたくさん(デザインを)作ってるから、ロゴじゃなくて変な写真のものを選ぶとかっていうことをしてたんです。そのうち、今のメインのセレクトになっているような、若い子がやってる小さいインディーなブランドにたどり着いて。

−−確かにミンナノのセレクトには、他であまり見ない海外のスモールブランドが多いですけど、最初はどこだったんですか?

中津川:今もあるところで言えば、ストレイラッツ(※注1)。マイアミのブランドです。2011年くらいに偶然ブランドを見つけて、格好いいなと思ったんです。僕は今もハードコアが好きなんですが、ストレイラッツのデザイナーはハードコアシーンに詳しくて、僕の好きなバンドのメンバーがその服を着ていたり。かと思ったらラッパーも着てる、みたいな。それで、「何だ!? このカルチャー」と思って、とりあえずメールでコンタクトを取ってみたんです。「日本でお店をやってるんだけど、置かせてもらえない?」って。

 

【※注1】
ストレイラッツ/STRAY RATS

マイアミを拠点にアーティストとしても活動するデザイナー、ジュリアン・コンスエグラが設立したストリートレーベル。コンセプチュアルなサンプリングを筆頭に、ユーモアと皮肉に富んだグラフィックアイテムに定評あり。音楽シーンとのリンクも強い。

−−なるほど。それで、返事は?

中津川:「ダメ」って(笑)。

−−ですよね(笑)。

中津川:まず、「お前誰だ?」みたいな。「今はそういうのは考えてない」って言われちゃって、そりゃそうだよなぁと。で、それならと周りから攻めようと思いました。その年のサマソニにオッドフューチャー(※ラッパーのタイラー・ザ・クリエイター率いるヒップホップコレクティブ。当時から既に、アートやファッション方面にも強い影響力を持っていた)が来てたんですよ。それで普通に観に行って、物販でTシャツを買って店で売ったりしてた(笑)。でも、LAにはああいうカルチャーがあるけど、なかなか日本からは手が届かないし情報も入ってこないなと思って、とりあえず1回、ってLAに行ったんです。そこでお店に行ったりいろんな人に会ったりして、そこから広がって、ストレイラッツの人たちとも繋がっていった感じです。そのとき買ってきたものにも、日本のお客さんが「いいね」って買ってくれるものが結構あって。後で聞いたら向こうとしても、日本人がコンタクトを取ってくるなんてあり得なかったらしくて。「友達と身内で始めた遊びみたいなことなのに、日本人が興味を持ってて、しかもそいつが自転車屋? なんだ、怪しいな……」みたいな(笑)。

−−ブランド側の懐疑も、もっともですよね。

中津川:ですね。でも、そこで僕がたまたま早めにアクセスできたおかげで日本にブランドが知れ渡って、お世辞かもしれないけど、「お前のおかげだよ!」って言ってもらえて、今も付き合いがあるんです。キャロッツ(※注2)とかもそうですね。今は扱ってないけど、連絡を取り続けていて、東京に来たら会いに来てくれる子たちもいるし。ポーターとかダブルタップスとかみたいなコラボがあると、“僕も頑張ってるよ!”って知らせることができるし、彼らもTETさんのファンだったりするから、「俺も欲しい」とか「ゴロー、すごいな!」って言ってくれるので、それが自分の糧になってます。自分は自分で頑張って、彼らは彼らで頑張って。自分が彼らを大きくするとかっていうより、一緒に頑張ろうよっていう感覚です。よく日本で扱う代理店とかが、海外のブランドを本国の動きとは全然別にしちゃうことがあるけど、あれはすごく違和感があります。昔は海外のものがほとんど見られなかったから、ある程度つくり込む必要があったんでしょうけど、今はもうネットで海外のリアルな状況がわかっちゃうから。

【※注2】
キャロッツ/Carrots

2007年設立。LAの新世代ストリートシーンのキーマン、アンワー・キャロッツが創設者。その名の通り、人参がトレードマークになっていて、日本では中津川さんともゆかりの深いアーティスト、VERDYさんとのコラボレーションなどで知られている。

「早さ勝負って“消費”しちゃってる気がするんです」

−−確かに、日本の人たちはアメリカの動きを追っているつもりでも、実は別物っていうケースは多いですよね。

中津川:そうなんです。それでもハイプな、一時的な盛り上げはできるかもしれないけど、30年続けようとするなら本人たちの頑張りが絶対に必要だから。「僕に期待しないで」ってことはいつもブランド側にも言っていて、そこに賛同してくれる人たちは「そうだよね」って言ってくれて、今も関係が続いてます。(ザ)グッドカンパニー(※注3)とかもそうだし、ルックスタジオ(※注4)もそう。彼らはこっちに寄りかかってきたりしないし、ずっといい関係性でいられます。

【※注3】
ザ グッドカンパニー/THE GOOD COMPANY

スタートは2012年、現在はアレンストリートに拠点を構える、ニューヨーク発の気鋭ショップ。オリジナルプロダクトも人気で、先ごろ再始動を果たした同じく東海岸の重要ブランド、エニシングとのコラボレーションなどでその名を知らしめた。人気バンドによるインストアライブを行ったりと、型にはまらない活動を続けている。

【※注4】
ルックスタジオ/LQQK STUDIO

ブルックリンにアトリエを構える、NYローカルに根ざしたプリントファクトリー。様々なブランドのアイテムを手がけているだけでなく、メンバーにはシュプリームNYのスタッフや米国拠点の日本人アーティストが名を連ねるなど、精鋭ぞろいで多方面のカルチャーと親和しているのが魅力的。

−−新鋭ブランド、スモールブランドを扱ううえで、早さと量の勝負みたいになってしまっているお店は多いですよね。

中津川:そのときだけよければ、みたいな感じですよね。僕も他の人に負けないように、ウチだけのカラーが欲しくてそういうふうに積極的にピックしてたこともありますけど、そうするとブランド数ばっかり増えちゃって、まとまったコレクションをオーダーできなくなるし、何て言うか狭い範囲で消費しちゃってるような気がしたんです。早さ勝負で、誰も持ってないTシャツを買って、ドヤって終わり! みたいな。それはブランドにもよくないですよね。もっとじっくりやらなきゃいけないし、それには本国の動きも一緒にないとダメ。今は落ち着きましたけど、そういう(ストリートの)ブランドが流行ってるときは大手(ショップ)も扱ってみたくて手を出すんですけど、結局売り切れなくてセールで叩き売り、みたいな状況を結構見ました。新しさにだけ惹かれて扱っても、実際に販売してる人たちがブランドのことを好きで知ってなかったら、お客さんは買うわけないじゃないですか。僕ら(個人店)の動きとかを見ていてホットだなと思ってやってたりするのかもしれないけど、扱えないですよ。

「(背景を)知っている人同士の共通言語になるのがストリートの面白み

−−ブランドの成長の大事な時期を担うからこそ、ゴローさんがお店をこの規模で維持する理由が生まれるわけですよね。

中津川:それはあると思います。自分も好きですし、みんなが着ていないものを見つけて共感してもらって、ブランドがうまく続いて彼らが生活できるのであれば、それが一番ですよね。だから適当にはできないです。

−−急激に規模が拡大したり知名度が上がったりするのは、必ずしもいいことじゃないんですね。

中津川:例えばスケーターならデッキを持ってるだけで会話するきっかけになったりするし、そういう共通言語があるのがストリートの面白みだと思うんです。僕の今日着てるTシャツも、知らない人からすればただ数字が書いてあるだけに見えるでしょうけど、意味をわかって着てる人が、道で自分と同じTシャツを着てる人に出会ったら、そこからコミュニケーションが生まれやすいじゃないですか。そういうツールになるんだけど、知らない人にとってはどうでもいいもの。でも、知ってる人同士だけがリンクできるからこそ強い。それが大切なことだし、僕がストリートウェアを好きな理由です。

−−ハイプなモノ選びやSNSの情報戦に疲れた人たちにも知ってほしいメッセージですよね。

中津川:僕らは大きな店じゃないから、コミュニケーションしながら買い物してもらいたいし、逆に自分がお客さんから得るものもたくさんあります。そうやって価値観をアップデートさせてもらってきたところがあるし、僕のお店で売ってるアンダーグラウンドな洋服って、世間的な価値はほとんどないものが多いんです。でも、その背景とか意味を説明したら、その人の中に情報が入るじゃないですか。求めてない人に押し付けるつもりはないけど、欲しい人にはそうやって一言添えるだけで、きっと何かが変わるんじゃないかなって、思うんです。


【NEW ARRIVAL】
DIGAWEL×MIN-NANO/ディガウェル×ミンナノ

2着のシャツは中津川さん同様に、熱心なミュージックラヴァーとして知られる西村浩平さんが手がけるブランド、ディガウェルにオーダーしたミンナノのエクスクルーシブモデル。インラインにはないかなり大きなシルエット&サイジングがポイントで、グリーン(左)のモデルは中津川さんが10代の頃に愛用していた某ストリートブランドのパターンをサンプリングして制作したとのこと。各1万8000円。


【SHOP DATA】

MIN-NANO/ミンナノ

住所:東京都世田谷区北沢1-31-3 102

TEL03-5465-2242

営業時間・定休日は 公式インスタグラムを要確認

@minnnanoo


写真/宮前一喜 文/今野 壘

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