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堀田カーペットの機械
世界でここにしかない織機「アキスタイル」。現在は2台が稼働している

トヨタ自動車から家業を継ぐため堀田カーペットに戻った堀田さんでしたが、フローリングの床材が主流になったことと、カーペットに関する“誤情報”が広まったせいで、新築住宅でカーペットが占める割合は0.2%まで落ち、業界はまさに途絶える寸前…。逆風のなか、自社商品への理解を深めるにつれ堀田さんは「こんな良いものが売れないのはなぜか」と考えるようになります。「日本にもう一度、カーペットの文化をつくる」というビジョンを掲げ、会社のリブランディングと、エンドユーザーに向け新商品開発に取り掛かる堀田さん。3代目として前進を始めます。

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今回のビギニン

堀田カーペット株式会社 堀田将矢
堀田カーペット株式会社 堀田将矢

1978年大阪府生まれ。北海道大学経済学部卒業後、2002年トヨタ自動車株式会社に入社、バイヤーとして活躍する。勤務5年目に、父から「家業を継ぐかどうか決めて欲しい」と電話があり、熟慮の結果「父親と一緒に働いてみたい」という気持ち優先し、2008年トヨタを退職。同年、堀田カーペット株式会社に入社する。2017年、3代目として代表取締役社長に就任。五人家族で、玄関ホール、廊下、階段、寝室、子供部屋、リビングダイニング、キッチン、脱衣所と、風呂場とトイレ以外全ての床にカーペットを敷いた自邸「カーペットの家」に暮らし、自ら「生活者」としてカーペットライフを実践。カーペット伝道師としての啓蒙活動を続ける。

struggle:
世界に一つしかない織機を消滅の危機から救う

堀田カーペット 社員
ニッシンカーペットでアキスタイルの開発に携わった古久保久也さん。現在は堀田カーペットに在籍

2017年、堀田さんの社長就任と時を同じくして、カーペット業界に衝撃のニュースが駆け巡ります。それは、1904年に創業した老舗「ニッシンカーペット」が100年を超える歴史に幕を下ろすという話でした。1970年代の最盛期、大阪泉州にはウールを使ったウィルトンカーペット作るメーカーが約50社あり、400台程度の織機が稼働していました。それがニッシンカーペットの廃業で残り4社という危機的状況に…。それを聞いた堀田さんは腹をくくります。

「彼らがやってきたことを何らかの形で引き継ぐことができなければ、市場は減少し、業界全体の衰退に直結します。ぼくらは『産地の維持』も重要な経営課題と捉えています。カーペット文化を残していくために、なんとかしなくてはいけないと考えました」

当初は工場ごと買い取ることも計画した堀田さん。残念ながら様々な事情で実現しませんでしたが、その代わり、ニッシンカーペットが開発した世界に一つだけの織機「アキスタイル」の4台すべてを引き取る決断をします。

堀田カーペット 社員
元・陶芸家でもある田中正志さんもアキスタイル織機に精通する一人。日々、具合を見ながら織機のアップデートを行っている

アキスタイルはタイルカーペットを作る機械です。ただ、その製造方法が通常とは全く異なります。一般的なタイルカーペットは“タフテッド”と呼ばれる(布に糸を突き刺す“刺繍”のような)手法で長い反物を作成、裏面を樹脂と布で固定した後、型で必要なサイズに打ち抜きます。効率は良いですが、柄に合わせて切断するのが難しく、模様は敷いた時、繋がらないことが前提でデザインされています。例えば、WOOLTILE「PUZZLE」にあるようなタイルの外周を細い罫線で囲むようなデザインは絶対にできないそうです。対して、アキスタイルは50cm角の基盤に接着剤で糸を1列ずつ植えていく“ボンデッド工法”で作られます。1列あたり156本のウール糸が使われ、その作業を156回繰り返して50cmの正方形のタイルカーペットが完成します。個別に作ることで、上下左右の模様がぴったり合う。これはカーペットの常識を覆す革新的な技術なのですが、その分、製作に時間がかかり、一般的なカーペットが1日1000㎡以上生産できるのに対して、1日にたった20㎡しかできません。その差なんと50分の1。

「この貴重な技術を絶やさないため、機械を買い取りました。開発者である職人も一緒に弊社へ来てもらい、和歌山の工場を増改築してアキスタイルを設置、稼働できるようになるまで約2年かかりました」

堀田カーペットの工場
アキスタイルの織機が稼働している和歌山工場

世界に一つということは、当たり前ですが、不具合が生じた際、問い合わせできるコールセンターもありません。すべて自分たちの手で行ったといいます。

「まず苦労したのは引っ越しですね。持ち運ぶように作られていないので、専門の業者にお願いして、まず、どこで分断したら後で問題なく組めるかというところから始まって、結果的に、機械の値段より、移送、設置費のほうがはるかに高くなりました。和歌山の工場に移動した後も、どう据え付け、水平をどこで取るかなど、アキスタイルという織機そのものを立ち上げることがとにかく大変でした」

堀田カーペットの機械
アキスタイル織機の後方部分。156本のウール糸が繋がっている

Reach:
タイルカーペットをインテリア製品に昇華させて常識を覆す

HOTTA CARPET 堀田カーペットのWOOLTILE
WOOLTILE「LINES」。デンマーク・コペンハーゲンのデザインスタジオ「All the Way to Paris」とのコラボシリーズ。全11柄が展開。1枚5500円(税込)。

2019年。世界に一つの織機アキスタイルで、堀田さんは「WOOLTILE(ウールタイル)」という新たなタイルカーペットのブランドをローンチします。

「アキスタイルを受け継ぐ際、今までにない面白いカーペットが作れるなら、それをお客さんとのコミニュケーションに使っていけたらと考えていました。じつは、同時期に、会社のブランディングも進み、カーペットに興味を持ってくれるお客様が増え、webサイトを通じて『フローリングの上に敷きたいんだけど見てくれないか』という問い合わせが届くようになっていたんです。でもCOURTはラグのブランドで部屋全体には使えない。woolfloringは床の上に敷き込むことも可能ですが、ドアの開閉時に擦れてしまう恐れがあり、施工には専門知識を持った職人による検討が必要です。もちろん一般の方はそんな事情は知るはずもなく、軽い気持ちで『見積もってください』と聞かれる。ぼくたちのビジョンは『カーペットを日本の文化にすること』なのに、せっかく興味を持ってもらった方に対応できないことが心苦しく、なんとか答えたいという気持ちがあったんです。それなら、お客さん自身が簡単にDIYで施工できるカーペットがあればいいんじゃないかっていうのが『WOOLTILE』のはじまりです」

堀田カーペット株式会社 堀田将矢

精緻な柄合わせができるというアキスタイルの特徴を最大限に活かし、シンプルかつユーザー自身が組み合わせを楽しめるように考案された柄は、フレーム、スラッシュ、ストレート、プレーンの4種類。「タイルカーペットをインテリア製品に昇華した」と評され、見事、2019年のグッドデザイン賞に輝きます。

「woolfloringには及びませんが、ウールをたくさん使用し密度感を上げているので肌触りは良く、羊毛の特性である調湿、断熱、耐久性が期待できます。厚みは約13mm、そのうち5mmがクッションで、快適な踏み心地と防音効果も実現しています。裏側に滑り止めが付いていて、設置は並べるだけ。カッターナイフと定規で簡単にカットでき、部屋全面に敷き込む場合でも専門業者による施工は不要です。原状回復が求められる賃貸住宅でも気軽にお使いいただけます」

HOTTA CARPET 堀田カーペットのWOOLTILE

“カーペットのある暮らし”を手軽に体験してほしいという思いから生まれたWOOLTILEは、販売方法にも工夫が見られます。一般的にタイルカーペットはセット販売が基本なのですが、WOOLTILEは1枚から購入可能。オンラインストアには専用のシミュレーションソフトがあり、複数枚購入した時のデザインを具体的にイメージできるなど、遊び心とユーザービリティが光ります。そんな堀田カーペットのwebサイト、筆者が見て面白いなと思ったのは「ディクショナリー」というコーナーでした。カーペットの知識が文字通り百科事典的に網羅されているのですが、堀田カーペットのプロダクトの紹介を見ると、デメリットもしっかり記載されています。

「お客さんには良いところ、悪いところちゃんとわかった上で選んで欲しいんです。たとえば、WOOLTILEでいうと欠点はズレることです。裏に滑り止めを付けているんですが、じつは、これが技術的に難しところで…。効果が高すぎると密着し過ぎてフローリングが剥がれたり、成分が床に残って大変なことになるんです。かといって、少ないと効果もない。ぼくらはそのギリギリを調整しています。なので、上を走ってズルッとなることは絶対にありませんが、生活している中でどうしてもズレることはあります。気になる場合、ぼくらが推奨してるのは、市販で売ってる滑り止めの小さいシールです。それを端っこに貼って頂いたらかなり安定します」

堀田カーペット株式会社 堀田将矢

日本にカーペットライフを広めるビジョンはまだまだ道半ばという堀田さんですが、最後にこれからについて尋ねました。

「直近の課題はカーペットを身近に選んで買える環境を作ることですね。現在、堀田カーペットの商品はネット販売が中心です。大阪の本社事務所がショールーム的な機能を果たしていて、ここまで足を運んでもらえれば全てのプロダクトを買える状態にはなっているんですが、それ以外でも堀田カーペットの商品を体験していただける場所を作ろうという計画が進んでいます。あと、もう一つ、カーペットが文化になったら社会はどう変わるのかっていうことは常に考えています。その話をすると応援してくれる人がいる反面、あなたたちが生き残りたいだけでしょって、うがった見方をされる人もいます。でも、それだけではないとぼくは思ってるんです。産地の維持もありますが、それを押し付けたいわけではありません。ユーザーに対して何が寄与できるか。ぼくらがやっていることで、お客さんをどこへ導くことができるのか。どう社会に貢献できるのかっていうことを、この一年くらいで言語化したいと思っています」

堀田カーペット株式会社 堀田将矢

日本には家に上がる際、靴を脱ぐ習慣があります。足の裏の感覚は思った以上に鋭敏で、柔らかい床ほど安らぎを得られます。家の環境は社会を反映していて、畳からフローリングとへ変遷する中で、日本の文化も移ろい、最近は少し硬直してきたようにも感じます。カーペットが昔のように普及するのは少し時間がかかるかもしれませんが、こんな時だからこそ、柔らかい床が必要なのではないかなと、堀田さんのお話を聞いて感じました。

HOTTA CARPET 堀田カーペットのWOOLTILE

WOOLTILE
誰もが簡単にDIYで設置でき、組み合わせ次第で様々なデザインをつくれる50㎝×50㎝の正方形のタイルカーペット。希少なウール素材を使用し柔らかく心地良い肌触りで、水をはじき、汚れにも強くお手入れも簡単だ。防音効果もあるためマンションにもおすすめ。ウールは「天然のエアコン」と呼ばれるほど調温・調湿効果に優れ、夏でも快適に使える。写真のPUZZLEシリーズは1枚4950円(税込)

(問)堀田カーペット
https://hdc.co.jp/


写真/中島真美 文/森田哲徳

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