文房具ルメ

リヒトラブ AQUA DROPs クリップファイル

近頃、仕事ではすっかりパソコンやデジタルの出番が多くなったが、どうしても手書きでなければしっくりこない、という場面も少なからず存在する。私の場合は、資料などを作り始める前に、アイディアや要点を整理する最初の段階がそうで、その際には入手しやすく気兼ねなく使える、真っ白なコピー用紙を愛用している。

このような仕事を行う際に、道具としていちばん必要なことはなんだろうかと考えてみると、それは「思考の妨げにならないこと」ではないかと思う。

自分の頭の中だけにあるモヤモヤとしたイメージを、言葉や図として輪郭をもった形に落とし込む作業は、まさに蜘蛛の糸を手繰りよせるようなもの。細い糸は、ほんの些細なきっかけで、たやすくちぎれて霞の中へと消えていってしまう。いちど途切れた集中力をまた紡ぎ直すためには、余分なエネルギーが必要となる。そのため、「考える仕事」に使う文房具には、極限まで「邪魔」を排することが求められるのだ。

そこで、私が愛用しているのが、リヒトラブの「AQUA DROPs クリップファイル」である。

「AQUA DROPs クリップファイル」はいわゆる用箋挟み、クリップボードといわれるカテゴリーの商品だが、手にとってまず感じるのは、非常に軽いこと。そして、綴じ具の部分が一般的なクリップボードと比較して、とても薄いことだ。

ポイントは、綴じ具がよくあるバネ式ではなく、スライド式になっていること。バネ式のクリップボードは、構造上どうしても綴じ具が出っ張る形になるが、バネを使わないスライド式にしたことで、厚みがわずか9mmに抑えられている。それでいて、コピー用紙であれば20枚までしっかり綴じられる仕様だ。

薄いだけではなく、凹凸が少ない形状なので、しまうときも持ち運ぶときも場所を取らず、出し入れの際に引っ掛かってイラッとさせられることもない。

リヒトラブ AQUA DROPs クリップファイル

スライド式の綴じ具の下には、PP製の紙押さえが付いており、紙をセットするときに綴じ具が紙を巻き込まないようになっている。特に気が利いているのは、綴じ具と一体になったツメが、開く動作に連動して紙押さえを「どうぞ~」と言わんばかりに持ち上げる仕掛け。用紙を抜き差しする際に、こちらは紙押さえにまったく意識を向ける必要がないのが心憎い。

ボード部分は机のない場所でも書けるだけの十分な硬さがあるだけではなく、左片と上辺に紙をセットするときのガイドとして機能する段差がもうけられている。これのおかげで、どんなに適当に紙を放り込んでも、ピシッとまっすぐにそろうので、いざ考え事を始めようとしたときに「あ~紙がまっすぐじゃないのが気になる~」と思考が横道に逸れてしまうリスクを回避することができる。

ボードに付いているカバーは、360度折り返すことができ、筆記時には邪魔にならず、使わないときは紙が折れ曲がらないように保護してくれる。ポケット付きなので、書き終わった紙をサッと移して、一時的に保管しておくことも可能だ。ダメ押しは、折り返し部分の上部にあるちょっとした切り欠き。ここにペンのクリップを引っ掛けておけば、「書きたいのにペンがない!」を防ぐことができるのだ。

ホテルや飲食店などにおける最上級のサービスとは、「お客様に気づかれないこと」だという。「これだけのことをしてやったぞ!」とあまりにハッキリとわかるようでは、かえってお客様に気をつかわせてしまうこともある、ということなのだろう。その点このクリップファイルは、あくまでもさりげなくて出しゃばらないのに、痒いところに的確に手が届く。なぜだかわからないけど居心地がよくて通ってしまう小料理屋を切り盛りしている、気が利く女将さんのような存在なのだ。

唯一の難点は、これを使っていると仕事に集中できないのは道具のせいだ、という言い訳が立たないことだが……。そこは女将には敵わないな、と観念して、自分は自分でやるべき仕事、やりますか。

560円(A5サイズ)、780円(A4サイズ)
https://www.lihit-lab.com/products/catalog/F-5065.html
https://www.lihit-lab.com/products/catalog/F-5067.html

※表示価格は税抜き

ヨシムラマリ

ヨシムラマリ

神奈川県出身。子供の頃、身近な画材であった紙やペンをきっかけに文房具にハマる。現在は会社員として働くかたわら、イラスト制作や執筆を手掛けている。著書に『文房具の解剖図鑑』(エクスナレッジ)。

文房具グルメとは? 価格やブランド名だけでは価値が計り知れない、味わい深い文房具の数々。フランス料理店でシャンパングラスを傾ける記念日もあれば、無性にカップ麺が食べたくなる日もありますよね? そんな日常と重ねあわせて、文房具に造詣の深い気鋭のイラストレーターが気になるアイテムとの至福のひとときをご紹介!

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