コンパクトな仏流お洒落番長ついに見参! DS 3クロスバックに薫る甘い毒とは?!
今やすっかり猫も杓子もSUV。なかでも全長4m強のサイズ感のBセグ·SUVコンパクトが国産を中心に市場的には熱いですが、プレミアム系はミニ・カントリーマンとアウディQ2のみ、それぞれBMWグループとVWグループから派生したクルマですから、ドイツ車優勢のセグメントといえます。そこへプジョー&シトロエンを擁するフランスのPSAグループが数年前にDSブランドを独立させ、ベース車体ごとまっさらのニューモデルを投入。それがDS 3クロスバックというわけです。
すでに昨年よりニューモデル第1弾、ふた回り近く大きいDS 7クロスバックが日本市場に投入済みですが、「3」の勘どころは、標準的な立体駐車場に余裕で収まるコンパクトさに、圧倒的な貫禄と洗練とお洒落感を備えたところ。DS開発陣は、フランスお得意のメゾン系ブランド的な造りのよさや世界観を自動車に置換した、といっていましたが、あながちハッタリではありません。試乗に供された「オペラ」仕様の運転席に座ると、これがコンパクト·クラスの内装か? という質感が圧倒的で、柔らかく上質な素材感で乗員を甘やかに包み込みます。車格サイズや排気量や馬力が大きいほど豪華という、従来のヒエラルキーを軽く無視しているんです。要は「コンパクトで高品質な内装ですけど何か?」という、仏流のこまっしゃくれた開き直りというワケです。



具体的には、インテリア全体の質感はマットで、オトナ感ある落ち着きを醸しつつ、ダッシュボードやシートレザーの一部はベルルッティばりのパティーヌ仕上げ。キラキラ感重視の「盛りカルチャー」とは正反対の、地味ハデなのに甘すぎない素材のよさが引き立つ意匠です。オプションでフランスのHi-Fiオーディオであるフォーカル社の最高級システム、「エレクトラ」も選択可能。ちなみにエレクトラは車載オーディオとしてはDSの独占採用です。
走りについては、3気筒の1.2ℓターボ130psと聞くとスペック的にショボく思えますが、新開発のアイシンAW製の8速トルコンATや、これまたオールニューのCMPというプラットフォームとのマッチングが抜群。筋肉や出足自慢のガサツなタイプでなく、1200kg強の軽さとシャシーのバランスで優れた効率を引き出すという、パフォーマンスに知性を感じさせるタイプです。実際に乗ると高速道路ではコンパクトな車格を忘れるほど、静かかつスムーズ。ビタッとした直進安定性があるのに、ワインディングでは水を得た魚のように自在なのです。ミニ·カントリーマンとアウディQ2より静粛性を高めることは、開発時の至上命題としてこだわり抜いたとか。
当然、レベル2の運転支援機能も充実しており、車線キープと車速感応式クルーズコントロールの各機能を試した限り、その制御のこなれっぷりは大したもの。後者をオンにした瞬間に、車線内で右寄りか左寄りか中央だったかメモリーしてくれるので、緩やかな左コーナーを通過中に右に修正舵が入ってピンボールぎみに進路がブレるといった、気持ち悪い動きをしない点に好感がもてます。





何せブランドのオリジンは1954年に登場し、ハイドロ(油圧回路)によるサスで究極の乗り心地を実現した、今もエンスー車の代表格であるシトロエンDS19です。静かに滑るような安心感重視の動的質感と、ねっとりとバウンスして地面を離さないロードホールディングは、現代にDS を蘇らせるにあたって最重要されたDNAの一部。高級車なのに後輪駆動じゃないの?的な、口プロレスを挑まれたときは、DSの祖にして今年100周年を迎えたシトロエンこそ、FF(フロントエンジン前輪駆動)を世界で初めて市販した事実と、そのノウハウ蓄積がケタ違いであることをリターンでねじ込みましょう。そして下手なドライバーの乗る大馬力な後輪駆動車の危なっかしさを指摘してやれば、十分でしょう。
とどのつまり、DS 3クロスバックは、トッピングの量や盛りの豪華さではなく、引き算と磨き込みで洗練を追及した高級車です。「優雅さはお金では買えない」とよくフランスではいわれますが、下取り損が怖くてスペック過多のハイエンド癖に陥っているような人こそ、注目すべき一台でしょう。人とカブりにくいことも請け合いです!
写真・文/南陽一浩