ゆっくり流しても楽しめるスポーツカー
アルピーヌA110がカタログ・モデルに!

例の逮捕劇で国際的に揺れてますが、「ルノー車はイマイチ」などと、乗ったこともなさげなコメンテーター連中の放言にちょっと待った! 同じパーツや素材からポテンシャルを引き出すのは、むしろフランス車のお家芸。今秋、限定版の禁が解かれてカタログ・モデルとして日本市場に定着した「アルピーヌA110」に乗れば、即・合点がいくはずです!

坊主憎けりゃ袈裟まで憎いで、クルマを造っているのは日産で、ルノーは自動車メーカーとして体をなしていないかのような言われようです。が、大衆車メーカーながらF1でフェラーリやマクラーレンなどに次ぐ出走回数を誇るのはルノーですし、ルノー・アルピーヌとしてル・マン24時間を制し、ラリー世界選手権は初年度タイトルを獲ったほど。’90年代にA610がディスコンして以来、永らく独自モデルがありませんでしたが、近年ルノー・グループ内のレジェンドなスポーツカー・ブランドという位置づけで復活しました。それこそが、知る人ぞ知るフランスの名門アルピーヌであり、しかもリバイバル第1弾のモデル名は、昔の名車同様の「A110」なんです。

日本市場にもこの夏から「プルミエール・エディション」が導入されたとはいえ、この初期段階では50台限定モデルのため、買うには抽選で当選するしかありませんでした。それが今冬より、「ピュア」と「リネージ」という2種類がカタログ・モデルとして、全国のディーラーに恒常的にラインナップ。しかも右ハンドル仕様も選べるようになったのです。

違いは、ピュアのほうが簡素な内装で、リネージは車重が+20kgのプチ豪華仕様。ピュアの軽量モノコックバケットシートにはリクライニングも座面高調整もないものの、身長175cmの筆者はステアリング側で手元を調整して、すぐに自然なドライビングポジションがとれました。背の高い人にはボルト式で座面高を下げられるリネージが必須でしょうが、いずれにしてもリネージの車重+20kgの内容はブラウンレザーのシートとシートヒーターなので、リネージを薦めます。

 

価格面では前者が790万~811万円、後者が829万~841万円となっており、右ハンドルも選べます。原理主義的なフランス車乗りは、マニュアルシフトで操作系の配置も自然な左ハンドル仕様を好む人もいますが、アルピーヌA110は7速DCTの2ペダル・オートマ仕様で、マニュアル時はステアリング裏のパドルでシフトアップ&ダウンするため、運転視界など、右ハンドルを選ぶメリットのほうが大きいでしょう。

乗っても乗せられないスポーツカー

ドアの開口部は広く、サイドシルも乗用車的でそんなに高くないので、スポーツカーとしては乗降性は悪くありません。むしろ上々の部類ですが、頭をかがめる必要アリですし、助手席に女子を乗せるなら事前説明&同意という、今ドキのコンプライアンス感覚は必要なようです。ドアを開けて手を貸すのは紳士的かもしれませんが、タッチとかセクハラと受け止められることのない相手に限るでしょう。4205×1800×1250㎜というコンパクトなサイズで外観もシュッとしてて流麗ですし、女子も一度ぐらい乗ってみたいと興味は示すかもしれませんが、基本的にスポーツカーは一人、もしくは男二人でキャイキャイやるための乗り物と心得ましょう。

走り出すとまず、一般道をぼさっと移動中にプチ・サプライズが。足回りの感触が柔らかで、路面からビシッとかズンッといった垂直方向の衝撃がほとんどなく、あっても角が丸められ、スポーツカーにしては乗り心地が望外にいいんです。いざワインディングで軽く飛ばしてみると、前後のサスペンションの沈み込みがよく感じられ、まぁ軽快なこと。1110kgの軽さと前後44:56という重量配分だけでは、説明のつかない痛快ぶりですが、それは後述します。

ドライブ・モードを選べるので、スポーツにすると、シフトチェンジのレスポンスが速まって、さらにエンジンも元気よくなります。危ない場面で助けてくれるはずのESPが作動せずとも、旋回速度がナチュラルに速いんでしょう、マルチファンクションスクリーンのテレメトリー上で横方向1G超えが軽々と出てしまいました。

いってみればA110の優れている点は、軽さや重量配分だけでなく、開発陣がとにかくこだわった低重心化と重心位置。平たくいえば、ドライバーのお尻の辺りに重心があるので、自分の背骨を中心にクルマがくるりと回る、そんな感覚がワインディングはおろか、交差点で直角に曲がるときでも味わえます。だからすっ飛ばすばかりが楽しいスポーツカーのようなカリカリのパフォーマンスを求めて造りました、っていうタイプではないんです。そういう人馬一体的なコンセプトの国産スポーツカーもありますが、骨盤回りを包み込むようにフィットするシートや、ステアリングを通じたタイヤの接地感など、決して味の濃さ云々ではなく、ドライバーに語りかけてくる対話力というか「お喋り具合」では、フレンチが一枚も二枚も上手です。

公道に続いてミニサーキットでも試しましたが、荒っぽく操っても速く走れる一台ではありません。ブレーキングが遅すぎれば、ステアリングを切り始めても曲がり出すのに一拍以上の間が空きます。ツッコみすぎて臍を噛むという刹那の状況ですが、それでも車重が軽いミッドシップなので然るべきフロントのグリップがすぐ戻って舵が利き出しますし、そもそもどこに飛んでいくかわからない怖さがないのです。要はドライバーのスキルまで甘やかさないタイプなので、それなりに早く走らせたりキレイにコントロールするには、頭もウデも要ります。よって運転もそれなりに上手くなれそう!?

ここが、近頃のパフォーマンス重視で、操る余地はないけどやたらに速いスポーツカーとは一線を画すところ。骨はあるけど間口は広く、タッチはひたすらソフト。こんなスポーツカー、ルノー・スポールのそもそもの起源となったアルピーヌ以外には造れませんよ!


文/南陽一浩

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