【エグいけど洒落てる!?】小林学さんが惚れた「エルメス」の“ジビエスカーフ”

服好き同士のしゃべり場で日夜繰り広げられる服飾トーク。知らなくても生きていけるネタを披露し合う瞬間こそ、服好きには至福のジ・カ・ン。ということで、業界屈指の服飾べしゃり力で洒落者を引き込むオーベルジュの小林さんを指南役に迎え、即話したくなる小噺をレッツ・スタディ♪

Profile

オーベルジュ デザイナー

小林 学さん

服飾漫談師

1966年生まれ。ヴィンテージにモードにフレンチと守備範囲は宇宙。べしゃり力も業界随一で、自身のYouTubeチャンネルでも服好き垂涎の小噺を軽快に繰り広げる、服飾亭の止め名。ちなみに題字は愛娘の小林凛さん著！

《エルメスの作家コラボスカーフ》
「“ジビエ画家”のエグい動物描写にエルメスの懐の深さを感じます」

小林さんが所有するアンリ・デ・リナレスが描いたカレは、鷹匠をモチーフとしたもの。シルクより光沢控えめなカシミヤのへリンボーン生地が使われているから、より着用しやすいとか。

ジーンズで言うリーバイスの501のように、世にはその道の永世定番として認知される名品が数多く点在してますが、今回はその巻き物部門を一手に担う、エルメスのカレ（スカーフ）を小噺したいなと。

そもそもこの手のスカーフは、マフラーやストールに比べると難易度が跳ね上がる反面、ハマればとてつもなく洒落感が増すという、玄人好みのアイテム。エルメスのカレは、まさにその狭く深〜いスカーフ界の頂点とも言える存在なんです。

誕生は1937年。フランス語で“正方形”を意味する名前の通り、四角く切り取られたシルクやカシミヤの生地を、さながらキャンバスに見立てて、目にも鮮やかな色柄をシルクスクリーンでプリントしているんですが、これがまたうっとりするほど芸術的♡　今なおシルク産業のメッカとして名高い、フランス・リヨンの工房で創り出されているというのも、蒐集心をくすぐられる要因です。

エルメスは、かのカッサンドルをはじめ、名だたる芸術家とコラボして独創的なアイテムを創作しているんですが、このカレもまた、何人もの作家とのコラボを果たしています。なかでも激推したいのがアンリ・デ・リナレスとのコラボスカーフ！

20世紀に活躍したフランスの巨匠は、狩猟や野生生物などを専門的に描いてきた、通称“ジビエ画家”。カレ用としても何作か絵を描いているんですが、僕が愛用している生きている鷹などがモチーフになっている作品は、まだ大人しい方。狩猟直後の動物の死体をリアルに描いた柄なんかもあって、正直言うと不気味というか、エレガントなスカーフの題材としてはミスマッチな印象すら感じます（苦笑）。

ただ彼のエグい動物描写こそが、フランス濃度が特濃で、通ほどそそられるポイント！　狩猟文化が根付いていない日本人には馴染みがないかもしれませんが、フランスの、とくに貴族層の人々にとっては遺伝子に深く刻み込まれた文化ですし、それをよりによってスカーフに何の遠慮もなく描かせるあたりに、エルメスの懐の深さを感じます。

エレガントすぎるモチーフのカレよりも男が身につけやすいですし、物によっては古着市場で3万円前後で入手できるってのも、魅力なんだよな～。

 
※表示価格は税込み

［ビギン2025年7月号の記事を再構成］スタッフクレジットは本誌をご覧ください。