服飾べしゃり力が身につく[小林学の小噺学]
小林学さんが説く「オールドコーチ」の魅力。今となっては令和男子の理想カバンかも?
服好き同士のしゃべり場で日夜繰り広げられる服飾トーク。知らなくても生きていけるネタを披露し合う瞬間こそ、服好きには至福のジ・カ・ン。ということで、業界屈指の服飾べしゃり力で洒落者を引き込むオーベルジュの小林さんを指南役に迎え、即話したくなる小噺をレッツ・スタディ♪

オーベルジュ デザイナー
小林 学さん
服飾漫談師
1966年生まれ。ヴィンテージにモードにフレンチと守備範囲は宇宙。べしゃり力も業界随一で、自身のYouTubeチャンネルでも服好き垂涎の小噺を軽快に繰り広げる、服飾亭の止め名。ちなみに題字は愛娘の小林凛さん著!
《オールドコーチ》
「30年前の女子カバンは令和の男子カバンにドンピシャだった……」
価格は状態や生産国によって異なるが、大体1万円前後。
風が吹く→砂ぼこりで目を病み三味線で生計を立てる人が増える→三味線には猫の皮が張られるので猫が減る→ネズミが増えて桶がかじられる→桶屋が儲かる。いわゆる『風が吹けば桶屋が儲かる』的発想法ですが、今回はこれを応用して最近気づいたことを小噺したいなと。題して『令和の男子カバンには30年前の女子カバンがドンピシャ』(苦笑)。
一体どういうことか、前述の流れに沿って解説すると、まずキャッシュレス化も影響して荷物量が減る→小さいカバンが欲しくなる→でもフェミニンなものはイヤ→かといってラギッドすぎるのも気分じゃない→ミニマル顔 × 無骨な革が最適解……というのが、令和の潮流かなと。で、まさにこの流れにピタリと合致するのが、1980〜90年代に、若い女性向けに作られていたコーチの廉価ラインとされる、“オールドコーチ”なんです!
実は昨今、この自分の分析を裏づけるように、ヴィンテージ市場でもオールドコーチ需要が急増中。ちょっと前までは数千円が相場だったのに、今じゃ1万円前後まで高騰してますからね。驚きです。
バケツトートからポーチまで多様なオールドコーチが流通してますが、やっぱり今の気分に一番ハマるのは、財布とスマホと鍵がちょうど入るくらいの小ぶりショルダー。ロゴもないしストラップも細くて、見た目がミニマルで令和的! しかもこの秀逸なデザインに“グラブタン・レザー”がのっかってるってとこがまたイイ!!
創立者が野球のグローブの風合いに魅せられて開発したという、コーチのお家芸的素材ですが、このアメ車級の無骨レザーのおかげで、小さくてもフェミニンにならず、男でも臆せず持てるんですね。
知り合いの革屋さんによると、なんでもグローブには20mmを超えるような極厚革じゃなきゃ使えないうえ、ボールも滑っちゃうから中まで染料を通さず、素に近い仕上げじゃないとダメなんだとか。それに着想を得て作った名レザーを使ってるからこそ、オールドコーチは“小ぶりだけど雄々しくてエイジングも楽しめる”という男子カバンの理想形になったってわけ。
時代は巡ると言うけれど、まさか昭和の女子カバンが恋しくなる日がくるとは、いやはやわからないもんです。
❶グラブタン・レザー
厚みがあるのに柔らかく、使うほどに手に馴染むという、野球のグローブの風合いに惹かれ、創立者であるカーン夫妻が1958年に開発。同社の代名詞的レザーとして今なお現役。
❷メイドインUSAの刻印
オールドコーチの製品は、大抵内部に刻印が。品質保証を謳う英文が長々と記載されているが、文中に生産国が書かれていることが多く、母国アメリカ製の製品はとくに高値で取り引きされる。
※表示価格は税込み
[ビギン2025年3月号の記事を再構成]スタッフクレジットは本誌をご覧ください。