服飾べしゃり力が身につく[小林学の小噺学]
小林学さんお宝バブアーに出会う。世にも珍しいDPMカモ柄バブアーの伝説は本当だった!?
服好き同士のしゃべり場で日夜繰り広げられる服飾トーク。知らなくても生きていけるネタを披露し合う瞬間こそ、服好きには至福のジ・カ・ン。ということで、業界屈指の服飾べしゃり力で洒落者を引き込むオーベルジュの小林さんを指南役に迎え、即話したくなる小噺をレッツ・スタディ♪
オーベルジュ デザイナー
小林 学さん
服飾漫談師
1966年生まれ。ヴィンテージにモードにフレンチと守備範囲は宇宙。べしゃり力も業界随一で、自身のYouTubeチャンネルでも服好き垂涎の小噺を軽快に繰り広げる、服飾亭の止め名。ちなみに題字は愛娘の小林凛さん著!
《バブアーから紐解く古着の嗜み方》
「DPMカモ柄のバブアーは幻のモデルだったのかも」
カモフラ × ワックスコットンの英コク度はバブアー史上屈指。ちなみにジャケットの市場価格は状態のイイもので20万円前後とか。
数年前にあるセレクトショップを訪れた際、スタッフさんが“凄いお宝があるんです!”と興奮気味に見せてくれたのが、この世にも珍しいカモ柄バブアー! 長い歴史のなかでミリタリーギアを手がけていたことがあるのは知ってたけど、カモ柄が採用された製品なんて見たことも聞いたこともない。
しかもよ〜く見ると英国軍のアイコンともいえるDPMカモじゃありませんか! 鼻息荒く詳細を聞いたところ、なんでも1980年代のフォークランド紛争時、英国軍には野山を駆け回る食糧調達部隊があって、この珍品はその隊員たちに供給されていたものなんだとか。
真偽のほどは不明ですが……なんて前置き付きの説明だったんですが、やっぱりこの手の都市伝説には男心をくすぐられるもの。すっかりこのカモバブに魅了されてしまって、どうにか正体を突き詰めよう! と海外の文献やサイトを掘りに掘った結果、ある海外の研究家が発表した資料に辿り着いたんです。
それによると、なんでも件の紛争で過酷な現場へ派遣されていたのは、ほとんどが移民をはじめとする貧民層の人々だったそう。けれどバブアー製品は高価で高嶺の花。支給された分では全員に行き渡らず、隊員たちは自腹でこのカモバブを調達していたんだそうな。
この情報もまた真偽不明ではあるんですが、細かく観察していると、こうした逸話が本当なのでは!? と胸を高鳴らせてくれる意匠に気づいてきたんです。
まずベースが「ソルウェイジッパー」という時点で期待値マシマシだし、通常はコーデュロイが配される衿にまでDPMカモのワックスコットンが使われてるのも信憑性をアップさせるポイント!
ボタン等の副資材も光沢が控えめに感じるし、生産数が少ないだけの市販モデルにしてはミリタリーに寄りすぎてて、総合的に見て“伝説は本当!”と断定してもいいのでは!?
……な〜んて長々語ってしまいましたが、このカモバブとの出会いからリサーチ、妄想までの一連の流れこそが、古着の正しい嗜み方じゃないかなと。要は“本当かどうか”より、“本当かどうか推察する過程”の方がロマンを感じる。希少性を愛でるのもイイですが、プロセスを楽しむことが大事なんじゃないかな。
❶バブアー
1894年に英国で創業した超名門は、ヴィンテージ界での人気もトップクラス! “○○ワラント”や“棒ジップ”など、希少な意匠を示す共通言語はいくつかあるにもかかわらず、カモ柄については現状皆無。
❷ソルウェイジッパー
60年に乗馬や狩猟用JKとして開発された傑作。8オンスの肉厚生地や、スナップボタン × ジップの二重フロントなど、タフネスは折り紙つき。ちなみにカモ版にはセットアップのパンツもあったそう。
※表示価格は税込み
[ビギン2025年1月号の記事を再構成]スタッフクレジットは本誌をご覧ください。