連載[令和に響く昭和のハナシ]
この表情がエモい。昭和レトロな土産物屋の「貝夫婦」【昭和オタク 平山雄の戯言】
エモさ満点のジャポニズム傑作を知る[令和に響く昭和のハナシ]
昭和を愛し、昭和暮らしを謳歌する平山 雄による、後世に語り継ぎたい名作語り。今回は昭和から定番の観光地、江の島のお土産です。
昭和ヲタク
平山 雄さん
古物商として働きながら、SNSやブログを通じて昭和をレポート。著書に『昭和ぐらしで令和を生きる』(303BOOKS)など。
昭和から続く土産物屋の買いたくなる貝夫婦
今の世の中は、ちょっと街に出ればカラオケボックスやテーマパークなどのアミューズメント施設がいくらでもあるし、海外旅行も身近な時代です。ですが、昭和は遊び方に選択肢が少なかったですよね。
そのため、昭和時代のとっておきの休日の過ごし方といえば、国内観光が主流だったように思います。どこの観光地へ訪れても、大勢の観光客で賑わっていたのが昭和です(国内の代表的な観光地でもある熱海の観光需要のピークは1960年代半ば)。
そんな国内観光の全盛期ともいえる、高度経済成長期。当時の観光土産といえば、フェルトや布で作られたペナントや、耳にピアスをつけた外国人のこけしなどいろいろありますが、貝殻を組み合わせて作った人形など、いわゆる貝細工もそのひとつです。
僕は昔から観光地を訪れた際は必ず周辺の土産屋に入り、昭和時代からずっと売れ残っているような観光土産を探すのが恒例になっています。その理由は、当時のものが好きで、たんに欲しいからということのほかに、ずっと売れ残っているのが可哀想という気持ちも、少しあったりするんですよね。
とはいえ、最近は昭和から時が経ち過ぎていることに加え、昭和ブームが追い風となって、そういったものもだいぶ見かけなくなってきましたけど。
今から20年ほど前のことですが、江の島へ観光で訪れた際に「江の島エスカーのりば」へと続く江島神社辺津宮の参道「江の島弁財天仲見世通り」を散策したんです。
「江の島」の漢字表記と金のシールもどこか懐かしい雰囲気
その後一度も訪れていないので最近の状況は分からないのですが、当時は昭和時代から営業を続けている昔ながらの土産屋が軒を連ねていて、昭和好きには打って付けの観光スポットだったんです。
そこで出会ったのが、この貝細工の鳥のカップル。店内にはサメの顎骨や水中花のナイトスタンドなど、昭和を感じさせる懐かしい商品がたくさん売られていましたが、その中でも特に惹かれたのがこの貝細工でした。
棚には同じものがいくつも並んでいたので、どれを買うか迷ってしまいましたね。というのも、貝殻は当然ながら一つひとつ微妙に形が違うし、動眼なども手作業で取り付けられているので、顔の表情に明らかな個体差があるわけです。
後ろはバネがついた凝ったつくり!
そういうとき、僕はなるべく出来の悪い、ちょっと顔がアホっぽいものを選ぶようにしているんですよね。人間味や手作り感があって、そういうモノのほうが、心なしか可愛いく見える気がするんです。
どうですか、この表情、なかなか愛嬌あるでしょう?(笑)
江戸時代末期に、旅館で提供した貝を客に持ち帰らせたことがはじまりとされている貝細工。現在は、夜光貝、蝶貝、青貝などを使った伝統工芸品の螺鈿(らでん)細工が注目されているが、関連性はない。
※表示価格は税込み
[ビギン2024年12月号の記事を再構成]スタッフクレジットは本誌をご覧ください。