Dec-18-2023

極論知らなくても生きていけるけど、モノ好きとしてはわかっておきたい

民藝ってナニ!?[前編]

下手物

実際なぁに?そのコトバ「おとなの嗜み」
ライフスタイルやファッションの文脈で飛び交う「ある種の専門用語」。もっともらしく使ったり、「はいはい」と相槌ちを打ったり……その意味分かってます?じつは意味が非常に曖昧なコトバ、案外身の回りにゴロゴロ転がっているものです。もちろん、意味を知らなくとも生きていけますが、知らなくていいことを知っておくのも大人の嗜みでしょ。

というわけで、毎回ワンワードを深掘りし、その意味を明らかにしていく当連載。記念すべき初回は『民藝』。日本の手仕事? 地域の工芸? 一体なんなんだっ!?

【民藝】とは……

《基礎の理解》
それまで【下手物げてもの】とされてきた美術品ではない無名の職人の庶民向け日用雑器のこと

《おとなの解釈》
買いやすくてぬくもりがあり“映え”まで期待!なテーブル上の一生モノ

民藝をお洒落として広めた【フェニカ】ディレクター菊地優里さんに訊いた

最初に惚れ込んだ器が民藝、沖縄の「やちむん」でした

フェニカ ディレクター 菊地優里さん
フェニカ ディレクター
菊地優里さん

民藝をお洒落文脈で世に広めた「フェニカ」で、2021年より現職。本人も学生の頃からの民藝ファン。「消費社会の使い捨てループから外れているのが民藝。使うと気持ちが落ち着きますね」

最初に知っておきたい民藝の三窯

最初に知っておきたい民藝の三窯の小鹿田焼と読谷山焼と出西窯
右上/小鹿田焼 中/読谷山焼 右下/出西窯

小鹿田焼

小鹿田おんた

小鹿田焼は古い伝統を今に伝える窯で、窯を訪ねた柳宗悦が「世界一の民陶」と絶賛! 世に広めたことで有名。価格の目安は7寸皿で2800円前後。

読谷山焼

読谷山よみたんさん

大胆な模様と色使いが特長の読谷山焼は、7寸皿で4500円前後。

出西窯

出西しゅっさい

出西ブルーと呼ばれる濃紺色の釉薬で知られる出西窯は、5寸ボウルで2500円前後。

後者2点も歴史ある窯だが、特筆すべきは近年ビームスがお洒落な器の旗頭として大々的に紹介したこと、今やお洒落上級者の間で大人気だ!

[民藝の神様]柳宗悦
1889年東京生まれ。思想家、美術評論家、宗教哲学者。日本民藝運動の創始者。日用品の中に美を見いだすという彼の思想は、日本の工芸界に多大なる影響を与えた。1961年没。

[基礎]衆的工の略称が民藝である

民藝とは1925年に美学者・宗教哲学者・思想家の柳宗悦が、陶芸家の河井寛次郎や濵田 庄司(※1)らと共に作った新しい美の概念の事。

民藝というコトバは「民衆的工藝」の略語で、無名の職人の手仕事から生まれた生活道具(日用雑器)には、鑑賞用の美術工芸品とは異なる、用途に直接結びついた健全な美(用の美)が宿ると説き、珍らしいものではなく、たくさん作られるもの、誰もの目に触れるもの、安く買えるもの、何処にでもあるものを民藝品と定義づけた。

そんな民藝運動の創始者である柳宗悦だが、若い頃から美術や哲学の知識に精通していて、学習院高等科在学時には、志賀直哉や武者小路実篤(※2)らと文芸雑誌『白樺』の創刊にも参加している。

《おせっかいな解説》
濵田庄司(※1)
1894年、神奈川県生まれ。近現代の日本を代表する陶芸家にして、民藝運動の指導者。1920年、以前より親交を深めていたバーナード・リーチと共に渡英。作陶に励む。帰国後は栃木県の益子に移住。人間国宝。1978年没。
 
志賀直哉や武者小路実篤(※2)
柳宗悦が学習院高等科の学生だった明治43年、志賀直哉や武者小路実篤らと共に創刊に参加したのが、文芸同人誌の『白樺』。大正初期には3人で千葉県我孫子に移住し、創作活動に励むなど、志賀や武者小路とは生涯にわたり親交を結んだ。
 

3人が立ち上げた文芸雑誌の白樺
3人が立ち上げた文芸雑誌『白樺』

Q:職人の作る器が美しいって当たり前のことじゃない?

A:令和の時代を生きるわれわれ現代人の感覚からすれば、無名の職人であろうが手仕事から生まれる器が美しいなんて当たり前の話。ですが、民藝運動が始まった大正末期は事情がまるで違っていました。

当時の工芸界は、技巧を凝らした美術品こそ価値があるとする考えが支配的。美術品偏重主義がまかり通っていた時代です。ゆえに真逆ともいえる無名の職人が作る日用雑器は、価値の低い「下手物」とされ、二束三文で取引されていました。

こうした業界の風潮にカウンターを喰らわしたのが、柳宗悦率いる民藝運動です。むしろ「下手物」にこそ健全な美があると説いたわけですから、当時としては斬新にして画期的、かなりトガった思想だったといえるでしょう。

ただし、柳宗悦自身はむしろ民藝の思想が斬新でも何でもない時代が早く来ることを望んでいました。

事実、柳宗悦は自著『民藝とは何か』の中で、「私はこのような本が早く不必要になる日の来ることを、むしろ望んでいます。ここに記された真理が(略)誰も熟知すべき普通の知識とならなければならないからです」と述べています。

今や無名の職人が作る器に美しさを感じることが、不思議でも何でもない時代。この価値観が常識となるのに民藝運動が大きな役割を果たしたことは間違いないでしょう。

Q:身近だし、「民藝イイネ」とすぐに広まったんでしょう?

A:いえいえ、ローマは一日にしてならず! 物事そんなにスイスイ行くもんじゃないんです。前述したとおり、用途と結びついた日用雑器にこそ健全な美が宿ると説く民藝は、当時の既成概念を覆すかなり斬新な思想。逆に言えば、新しいがゆえに業界的にも世間的にもまるで馴染みのない考え方。おまけに新しい美の概念を広めようにも、拡散する手だての乏しい時代。

そんな状況を踏まえ、民藝運動普及のために柳宗悦らが執った行動、それが全国行脚でした

柳宗悦、濵田 庄司、イギリス人陶芸家のバーナード・リーチ(※3)など民藝運動の中心人物たちが、全国各地の手仕事を調査、スリップウェア(※4)などの技法を伝授すると同時に民藝の思想を現地の職人や関係者に説いてまわりました。

これを契機に復興、あるいは新たに誕生した窯場も多いといいます。全国行脚の甲斐あって彼らの思想に共感した人々が、全国各地に民藝協会を設立。全国規模の運動になっていきました。彼らの苦労がなかったら今では人気の工芸品も、とうの昔に途絶えていたかもしれません。

《おせっかいな解説》
バーナード・リーチ(※3)
1887年生まれ。イギリスの陶芸家、画家。22歳の時、幼少期を過ごした日本を再訪した際、柳宗悦と知り合い意気投合。後に民藝と海外の橋渡し役を担うなど、民藝運動にも深く関わる。1979年没。
 

リーチが伝授した英国の装飾技法
リーチが伝授した英国の装飾技法

 
スリップウェア(※4)
クリーム状の化粧土(スリップ)を筆やスポイトで装飾する英国の伝統技法。一時途絶えていたこの技法を発掘し甦らせたのがバーナード・リーチだ。彼は日本各地の陶芸家にスリップウェアの技法を伝授。そのおかげで今も全国にこの技法を用いた器が点在している。

Q:お洒落な人にウケているのはなぁぜ?

A:民藝の器が長く売れ続けている「フェニカ」。器にまで別注!?(※5)とそのこだわりに驚かされたりもしますが、にしても、なぜお洒落な人に民藝がウケてるのか? 菊地さんいわく「民藝に惚れ込んで購入される方ももちろんいらっしゃいますが、民藝のことを知らない人がファッションの文脈で購入されることも少なくないようです。言い換えれば、それだけモノそれ自体に魅力があるということです」。

料理を盛れば“映え”まくって、いかにも美味しそうに見えるし、同じ絵柄の五寸皿が100枚あったとしても、手作業だから1点1点微妙な違いがあって、ぬくもりを感じられる。それでいてン十万円もする美術工芸品に比べれば買いやすい。というより、一生モノとして使い続けられるから、むしろお買い得とさえ思えちゃう

「手持ちの食器とどう合わせるか? まさに洋服と同じ買い方をされていますね。民藝を知ることだけが正義ではないので、私はそれでいいと思います」

《おせっかいな解説》
器にまで別注!?(※5)
 

益子の濵田窯に別注した復刻意匠
 
益子の濵田窯に別注した復刻意匠

 

3色の境界線がボヤけるよう別注
3色の境界線がボヤけるよう別注

 
上は益子の濵田窯にすでに存在しない柄・形を再現してもらったヴィンテージ復刻の器各種。下は鳥取の中井窯に昔のデザインを再現すべく、染分けの境界を曖昧にしてもらった三色染分皿。どちらも「フェニカ」の過去の別注品。器を別注、という発想自体が規格だ。

Q:初心者でもツウぶれる、最初に買うべきものは?

A:ツウぶれる……がチャラければ、こう言い換えましょう。初心者が最初に手を出して、高い満足感が得られる民藝の器は? 菊地さんの推し……まずは出西窯だとか。

出西ブルーと呼ばれるくらい色が綺麗だし、形もシンプルで使いやすい。料理を盛っても映えて、煮物など茶色系の料理とは特に相性抜群。あと出西窯では定番のモーニングカップもオススメ。こちらは取っ手の付け方をバーナード・リーチが伝授したそうです」

出西窯のモーニングカップ
出西窯のモーニングカップ

ウンチクが語れるなんてイイかも。これはツウぶれそう!? さらにずっと推している小鹿田焼にも次世代の(※6)波が来ているようでこちらも要注目です。

《おせっかいな解説》
次世代・小鹿田(※6)
小鹿田焼を代表する「坂本浩二窯」に、次世代を担う若手が台頭。飛び鉋や刷毛目が有名な小鹿田焼だが、こちらは陶芸館に収蔵されていた最初期のアーカイブから染分けのイメージを別注した7寸皿。4950円。
 

素朴ながら美しい染分けの小鹿田焼
素朴ながら美しい染分けの小鹿田焼

「小料理屋でヒーローになれる? 民藝やきもの全国カタログ」へ続く。
民藝ってナニ!?[後編]はこちら

※表示価格は税込み


[ビギン2023年12月号の記事を再構成]スタッフクレジットは本誌をご覧ください。

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