昇陽窯の呼継湯呑

挑戦を語りかけてくる器で乾杯

夏の終わりに丹波焼の窯元が集まる兵庫県丹波篠山市の丹波立杭地区を訪れる機会を得ました。そこで出会ってしまったのが、こちらの器。

日本六古窯(にほんろっこよう)の一つに数えられ、平安時代からの歴史をもつ丹波で生まれたとは思えない、現代アートにも通じるような挑戦的なオーラを纏っているでしょ。

ここで産地の説明を少し。日本六古窯とは、中世から現在まで生産が続く、丹波、越前、瀬戸、常滑、信楽、備前の6つの産地のことで、1948年頃、古陶磁研究家・小山冨士夫氏によって命名されて以降そう呼ばれるようになったとか。要は日本で最も歴史がある産地の一つってこと。

丹波焼きは、丹波立杭地区を中心に集積する約50軒の窯元で作られる陶器のことを指し、その特徴は、産地として共通する意匠があるわけではなく、窯元それぞれが独自の作風を生み出し、産地として発展してきたところにあります。今回、いくつか窯元を巡りましたが、その作風はじつに多彩。窯元の物理的な距離もとても近い(歩いて回れるくらい!)ため、ここを訪れた人は、いくつか窯元を回って、自分の”推し窯元”を見つけるのを楽しんでいるそう。

で、話を戻してこちらの器。
コレを手掛けたのは、伝統的な技法を大切にしながらも丹波焼の新しい解釈を模索し続ける昇陽窯の3代目・大上裕樹さん。1986年生まれの大上さんは、金沢美術工芸大学でデザインや工芸を学び、卒業後、瀬戸の鈴木五郎氏のもとで修業。その後、世界から見た日本のアートや工芸の立ち位置を知るため、4か月をかけてバックパッカーで世界一周したという異例の経歴の持ち主です。

まず目を引くのが、このストライプのような模様。これは「鎬象嵌(しのぎぞうがん)」と呼ばれるもので、丹波焼の伝統技法の鎬(しのぎ=素地の一部を縦に削り取り筋模様を出す)と、象嵌(ぞうがん=土を削り取った箇所に色の違う土を埋め込み模様を出す)を組み合わせた、大上さんオリジナルの技法。一度を縦に削った素地を再び部分的に埋め込む(戻す)ことで、このようなモダンな幾何学模様を作り出しています。

中央に走る金色のラインは金継ぎ。本来は、割れてしまった器を漆と金で修復する技法ですが、本作では意匠として取り入れています。上部にあるターコイズブルーのパーツは、割れた部分にぴったり合うサイズを、ストックしてきた割れガラスの中から探し出して、石積みのように構築したというから驚きです。

最後に、鎬象嵌の反対の面は金属のような質感になっていますよね。こちらは大胆にプラチナ釉薬を使って表現したもの。同釉薬は、その名の通り、原料にプラチナが使われており、めちゃくちゃ高価だそうですが、それを美しくまとめるのではなく、惜しげもなく使うことであえて荒々しさを表現しています。

1000年続く陶器の世界で新しい技法を1つ生み出すだけでもすごいことだと思いますが、この器はそこに満足していない。「まだまだできる!」「もっとできる!」そんな想いがモノからひしひしと伝わってきて、自然と「買います」と言ってしまった逸品です。

昇陽窯の呼継湯呑/3万3000円。※一点もの

Profile

Begin デジタル部
編集長 ホンダ

Begin本誌の編集、Begin Marketの立ち上げを経て、2020年からWebを担当。子ども3人、共働き。保育園の送迎をすでに10年続けているが、あと5年も続くことに最近気が付いて愕然。好きな曲は『終わりなき旅』。

(問)昇陽窯
https://www.sho-yo-gama-ceramic-lab.com/
公式インスタグラム:@sho_yo_gama/

※表示価格は税込みです


写真/宮前一喜

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