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時代のニーズや変化に応えた優れモノが日々誕生しています。心踊る進化を遂げたアイテムはどのようにして生み出されたのか?「ビギニン」は、そんな前代未聞の優れモノを”Beginした人”を訪ね、深層に迫る企画です。

COCOO こくうの真空漆タンブラー KISSUL

「コップで飲み物の味が変わる」という話、耳にしたことありませんか? 日本酒やワイン好きは酒器の素材や形で風味に違いを感じ、グラスやお猪口を集める人が多いそう。言われてみれば、アイスコーヒーもストローと直接飲むのでは微妙に味変する気がします。

口内に入る飲料の量や香りのせいかと思いきや、理由はそれだけにあらず。オハイオ州立大学の研究によると、水を飲むとき、普通のカップと、自分で考えたユニークな方法(マティーニグラスや紙封筒など)で口にしたグループでは、後者の方が美味しいと感じたそう。

脳は新しい刺激に敏感で、普段と違う飲み方をすると味覚が研ぎ澄まされ、初めてに近い体験を取り戻せるんだとか。お酒好きがお気に入りの器を揃えてローテーションするのは、無意識にこの働きをわかってのことかもしれません。

COCOO こくうの真空漆タンブラー KISSUL

今回の主役は、そんな新感覚が経験できそうなタンブラー「キッスル」です。伝統工芸の漆と魔法瓶の真空断熱技術で蕎麦猪口をアップデート。鉄器の焼付け技法から着想を得た、新しい漆のコーティング技術(特許出願中)で陶器とも金属とも違う有機的な触感を実現し、一飲一食に再発見をもたらしてくれます。

お酒好きならずとも気になる新しくも懐かしい器はどのようにして生まれたのか。2人のビギニンに話を伺いました。

今回のビギニン

北山 浩さん

北山 浩さん

1970年生まれ。神奈川県出身。タイガー魔法瓶で商品企画・マネージャーを経て、2022年日本のモノづくりに秘められた可能性を探究する合同会社「COCOO(こくう)」を設立。「小さく豊かに暮らす」を哲学にプロダクト第一弾として漆のタンブラー 「KISSUL (キッスル)」を開発。古い物が好きで、趣味はアンティーク家具・雑貨収集とジャズ鑑賞。プライベートでも色々な蕎麦猪口を愛用中。

Idea:
魔法瓶の技術を未来へ

北山 浩さん

タイガー魔法瓶でR&D(研究開発)やマネージメントに携わり、魔法瓶の真空断熱技術を他分野へ応用する研究開発をしていた北山さん。独立後、COCOO(こくう)を立ち上げてからも研究を続けます。

「COCOOは時代を超えたテクノロジーをテーマにしています。過去から未来へ少しづつ変化しながら今後も続いていく、そういった技術を探っているなかで、魔法瓶は僕自身関わりも深く、残す価値があると思ったんです。電気やガスを使わず温度を保ち続けるって改めていいなと」

魔法瓶の基本原理は1892年、イギリスの化学者・物理学者ジェームス・デュワーによって生み出されました。1904年ドイツで製品化に成功し、1908年日本へ輸入。

当時はガラス製で、電球を作っていた大阪のガラス職人が製造を担い、1912年に国産品が誕生します。長時間保温・保冷できることがマジカルだと「魔法瓶」の名で発売され、以降、大阪は魔法瓶のメッカに。タイガー魔法瓶や象印マホービンといったリーディングカンパニーも大阪の会社です。

「魔法瓶が生まれて100年以上が経ち、材質はガラスからステンレスになりました。でもメカニズムは発明当初から変わらないんですよ」と北山さん。

真空二重構造

淹れたてのお茶も熱くなく、冷たい飲み物を入れても結露が出ないのは真空二重構造のおかげ。

魔法瓶の仕組みを理解するには、熱について知るのが近道かもしれません。ミクロ視点で見ると“熱い”とは、物体を構成する分子が激しく震えている状態、“冷たい”とは分子が穏やかな状態です。

高温と低温、2つの物体を隣り合わせに置くと、分子の揺れが激しい方から穏やかな方へ伝わり、やがてどちらも同じ揺れ=温度になります。これを“熱伝導”と言います。また物体が接していなくても、空気が温められることで流動し、周囲に熱を伝える“対流”が起こります。

魔法瓶は内壁と外壁の間を真空にすることで、熱伝導と対流、両方の影響をゼロに近づけ温度をキープします。

ちなみに熱伝達にはもう一つ輻射(ふくしゃ)があります。赤外線や可視光線などの電磁波が物体に当たって熱を発生する現象で、太陽を熱く感じるのは、日光に含まれた赤外線が地表を温めるから。

電磁波は真空でも伝わるので、戸外で長時間使う魔法瓶のボトルには内面を鏡面加工したり、真空層に銅やアルミ箔を挟み込むことで電磁波をカットしています。

Trigger:
蕎麦猪口に魅せられる

蕎麦猪口

真空魔法瓶技術が気に入り、暮らしに馴染む日用品を作りたいと考えた北山さん。親しみが湧き使い勝手のよい物は何かと思案し、蕎麦猪口(そばちょこ)に行き着きます。江戸時代末期に起きた蕎麦の大流行で使われるようになったもり蕎麦のつゆを入れる容器で、ユーティリティの高さから「雑器」とも呼ばれます。

「湯呑みや小鉢に使ったり、お酒を飲んだり、アイスクリームを入れてもいい。色んな用途があって、日常に溶け込む様子が最初のプロダクトとしてぴったりだと思いました。蕎麦猪口は誰か一人が作ったのではなく、日常で使われ多くの人の手を介するなかで、自然とこういう形になったんです。蕎麦猪口のルーツは九州とも伝えられていますが、日本全国で見つかるんですよ」

蕎麦猪口
蕎麦猪口を紹介した思想家・柳宗悦の名著「藍絵の猪口」

一般的に蕎麦猪口の口径は約7センチ。高さは直径よりわずかに低く、底の径はおよそ4センチから6センチと言われています。

「蕎麦猪口は時代や場所によって寸法が微妙に異なります。その、ちょっとした違いで使い勝手が大きく変わるのも面白いところです。制作するにあたっては、ミリ単位で異なるモデルを用意して、お茶やお酒を飲んだり、デザートを食べて、ベストなサイズ感を探りました」

COCOO こくうの真空漆タンブラー KISSUL

複数のサンプルを比べた結果、直径を片手両手持ちの双方で心地よいとされる72mm、高さは一般的な蕎麦猪口より少し高めの79mmに設定。こうして“黄金比”の蕎麦猪口タンブラーができあがると、北山さんはさらなる妙案をひらめきます。「これに漆を塗ったら面白いんじゃないか?」 魔法瓶に関してはプロフェッショナルですが、漆は門外漢。ここから漆タンブラーを共同開発してくれるパートナー探しが始まります。

後編:漆を真空魔法瓶に定着させる世界初の挑戦 に続く

COCOO こくうの真空漆タンブラー KISSUL

真空漆タンブラー KISSUL
京都の老舗漆屋「佐藤喜代松商店」と共同開発した、世界に一つだけの『真空漆(しんくううるし)』タンブラー。日本古来からの漆の焼付け技法をステンレスタンブラーに応用した。「漆」×「真空魔法瓶構造」のハイブリッドで、保温・保冷機能はもちろん、漆ならではのやさしい口当たりが特長。天然の抗菌性に優れ、丈夫で食洗機にも対応する。傷がついても、漆で修理しながら使い続けることができる。サイズΦ79×H72mm、容量約210ml、本体ステンレス鋼、天然漆塗装。6600円。

(問)合同会社 COCOO
https://co-coo.jp
※表示価格は税込みです


写真/中島真美 文/森田哲徳

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