ドナルドさんが偏愛を込めて提唱する「ギークウォッチ」。気の利いた機能なりデザインなりが込められた時計のことで、とりわけクォーツショック以降1970年代の日本メーカーのものが多い。スマートフォンやスマートウォッチのアプリであらゆる機能が実現した現代から、往時の職人たちが小さな腕時計に込めた熱意に想いを馳せると、それはもうたまらなく“萌える”のだ。
①下でも触れている“ストップウォッチ・リストウォッチ”。②ダイヤル中央に受信アンテナを配置した世界初のマルチゾーン電波時計は、全パーツがほぼ手作り。③キーボードに腕時計をドッキング、世界で最初のリストコンピュータ。④作曲ができる(!)不詳の1本。⑤時計に埋め込まれた地球が反時計周り自転して時を刻む、天才デザインに萌え。⑥グランドセイコーの最上級V.F.A.の逸品は一秒ごとに点滅するLEDライトが愛しい。
「奇抜なデザインと驚愕機能。既成概念を覆すユーモア溢れる魅力にどっぷり浸かってしまいました」―ドナルドむねあきさん
本業を『改造屋さん』と名乗っているのですが、色んなもを改造してアクセにするのが生業で。そのベースとなるものをという視点で昔の腕時計を掘っていたのがきっかけです。
そうしたらキーボードで文字が打てる時計とか、ベゼル上の極小ボタンで計算できる時計とか、調べれば調べるほど見たこともないものがザクザクで。
上で書いた通り、当時としては大真面目に製造していた最先端の便利機能でも、今では時代のあだ花のような位置づけになっているものが多い。軽んじられているからか、ヴィンテージデニムのように情報が体系化されていることもなく、珍奇な昆虫が潜む密林へハンティングに行くような、アドベンチャーな毎日が訪れました。
気づいたら改造するより、ハント&リサーチすること自体にハマっていました。昆虫採集のように、捕まえて記録したい、と(笑)。
いずれはこの愛すべきギークウォッチたちを体系化して、一冊の本として世に紹介したいとの野望もあります。採集したものは撮影して記録した後、手を入れて自身のショップに並べているのですが、今とりわけ気に入っているのが「ドク博士が使っていた時計」です。
①映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』に出てくる“ストップウォッチ・リストウォッチ”
映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』に出てくるストップウォッチが好きで。セイコー製で、クォーツなのにまだ動くんですよ。西暦表示が2020年で頭打ちなんですけど、未だに動作しつづける技術力たるや!
これを腕時計にできないか?とピンときて、CAD成形したバンドベースを付けて、恐らく世界初の“ストップウォッチ・リストウォッチ”になりました。嗚呼、技術の無駄使い(笑)。でも、そこが愛しいんです。
ミュージアムショップオン・サンデーズのアトリエは博物館級!
入手したギーク時計には手を入れて、アトリエ兼ショップ「+R.I.P. STORE」にて陳列している。
語り人
改造探求士
ドナルドむねあきさん
1975年生まれ。雑誌編集者を経てアクセサリー制作をスタート。ギークウォッチを見出し、一冊の本に体系化すべく畜集し続けている。
[ビギン2023年8月号の記事を再構成]スタッフクレジットは本誌をご覧ください。