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数年の間に世界を一変させる可能性を秘めた「DX(デジタルトランスフォーメーション)」にフォーカスする連載「プロジェクトDX」。時代の変化やニーズにDXを通じて応える優れたサービスの開発者やその現場を訪ね、未来を変える可能性やサービスに込められた思いを紹介していきます。

今や国内のペット飼育頭数第1位となるほどの猫ブーム。その人気はまだまだ天井知らずで、経済効果は2兆円規模といわれています。そんななか注目を浴びているのが、猫専用のペットテック「Catlog(キャトログ)」です。これまで、いろいろと学びのハナシが多かったDXプロジェクト連載ですが、今回はニヤニヤが止まらない”猫様”の写真にもご注目を~!

プロジェクトDX 〜挑戦者 No.16〜“猫様”の見えない不調をテクノロジーで見守る「Catlog」

左/RABO Chief Cat Officer ベンガルのおでん君。4歳の男の子でフレンドリーな性格。ニックネームはおでぃ。右/RABO Chief Executive Officer 伊豫 愉芸子(いよ ゆきこ)さん。幼い頃から大の動物好き。おでん君は良きビジネスパートナーで、行動の全ては猫様のために。「世界中の人が猫様と暮らしたら、戦争なんて起きない!」

Catlogは、猫の健康状態を把握できるテクノロジーを搭載した、首輪型のウェアラブルデバイス。スマホ用アプリをダウンロードしてデバイスと連携させれば、「食べる」「走る」「歩く」「寝る」「くつろぐ」「毛づくろい」「水を飲む」といった7種類の行動が24時間オンタイムで記録され続け、離れた場所にいても猫の様子を見守ることができます。

例えば、「4秒間走りました!」や「3分間毛づくろいをしました!」など、秒や分単位で猫の行動を記録。運動量や体質をもとに代謝エネルギーを算出するので、アプリに普段の食事内容を登録していれば、Catlogが最適な給餌量の目安を教えてくれます。

首輪の重さは、わずか9g。音に敏感な猫のストレスにならないように、厳しい静音試験を通過した無音部品のみで構成しています。また、専用ベルトには一定以上の負荷がかかると勝手に外れるセキュリティバックルを採用。ベルトと本体の付け替えもできるため、季節に合わせたコーディネートも楽しめます。

分かりやすいを心がけたポップなUI

アプリケーションのデザインは、ひと目でわかりやすいようなアイコンを採用。お知らせもクスッと笑えるような文言が多い。

Catlogは首輪やボードといったシリーズ本体と、月額制のアプリでサービスを提供しています。集めたデータはクラウド上で保管され、一生分を残しておくことが可能です。2019年の9月にリリースされ現在の登録猫数は2万匹以上、80億件を超える行動データが集まっています。

そして、その膨大なデータを参考に、過去データと直近のデータを比較し、今の健康状態をスコア表示にして可視化します。心身ともに元気な場合は100。とても調子がいい時は100を超える数値を記録しますが、反対に体調が悪い時は大幅に下がってしまうことも。医療機器のように診断はできませんが、一つひとつの行動から体調の変動を分析して、不調を検知するとアラートで知らせるなど、的確なアドバイスをしてくれます。

「たくさん猫様と遊んだ次の日は、そのスコアが130を記録することもあるんです。自分が遊んであげた結果が猫様の元気スコアのアップにつながると、『こんなに元気いっぱい!』って私たちもうれしくなります」と伊豫さん。

事務所の入り口から猫様でいっぱい!

東京・恵比寿の新事務所には、猫のグッズやアートが散りばめられている。

今回お話を伺ったのは、RABO代表を務める伊豫さん。大の猫好きで、現在は2匹の猫たちと一緒に生活しています。猫と1秒でも長く一緒に過ごせますように。そんな願いから、Catlogの開発はスタートしました。

「猫様の平均寿命は15年といわれています。人間よりも5倍の速度で生きているからこそ、小さな体調不良が重なって、後の大病を患う原因になるかもしれない。それなのに、私たち飼い主は猫様のこと、特に体調面の変化に気づけないことが多い。私も主人と共働きで、猫様との暮らしを続けていく上でずっと側に居られないことを課題として抱えていたんです」

猫を愛する気持ちは愛称にも表れており、伊豫さんをはじめRABOでは猫のことを“猫様”と呼び、商標登録もしています。

「開発の前のリサーチ段階で飼い主さんをお呼びして、猫様についての意識調査をしたんです。インタビューでは一緒に暮らしている猫様の写真を用意してもらい、それを見ながら自由に語ってもらいました。すると、どの方も、飼っているというよりも、飼わせていただいているという感覚を持ちながら猫様と接している風だったんです。それがわかった時、これは猫ではなく“猫様”と呼ぶべきだなと(笑)」

海洋生物の生態を探る技術を応用

バイオロギング解析の手法を使ったCatlogの事例は、専門誌にもピックアップされている。写真はおでん君の先輩猫様のブリ丸君。

Catlogのパフォーマンスを支えるのは、バイオロギング解析技術。小型のセンサーを使って海洋生物や鳥類などの生態を調べる研究手法を元に、猫用にアレンジしたテクノロジーを首輪の裏側に搭載しています。実は、伊豫さんも大学院までバイオロギング解析の研究を続けていた元研究者です。

「鯨やペンギンなどの動物にセンサーをつけて、海中での行動を調査していました。一緒にいない時間の猫様の行動を知りたいと思った時、人間には知り得ない動物の時間を明らかにするバイオロギング解析が、ふと頭に浮かんできたんです。私のバックグラウンドを生かして、猫様のお役に立てるなら……。思いが先行して起業するに至り、アプリの開発を進めました」

バイオロギング解析では、猫の首元の筋肉の動きや微細な振動で行動を判別します。例えば水を飲む行為と毛づくろいをする行為は、どちらも舌を動かす動作ですが、センサーから得られるログデータは全く違う波形になります。バイオロギング研究の第一人者でもある、東京大学大気海洋研究所 海洋生命科学部門行動生態計測分野の佐藤克文教授らがアドバイザーに入っており、そのログ性能も折り紙付きです。

正確なデータを取るためには、まず嫌がらずに装着してもらうための使用感が重要。

バイオロギング解析にて集めたログデータは、そのパターンをAIに学習させて、実際の行動に分類していきます。ただし、人間がそうであるように、猫も一匹一匹の行動には個性があり、周辺の環境によっても多少の誤差が生じます。もし一緒に過ごしているときにAIの誤認識があった場合は、アプリに備わったフィードバック機能を利用して行動を修正すると、AIの精度が上がり、それぞれの猫にフィットしたより正確なデータを得られるようになります。

体重や排泄のデータも計測して、さらに手厚くサポート

トイレの下に設置されている平らなデバイスがCatlog Board。完全コードレスで、お手入れも簡単。清潔な状態をキープしやすい設計だ。

Catlogシリーズではトイレの下に設置するCatlog Board(キャトログボード)も展開しています。置くだけで簡単に設置ができ、排泄の量や回数、体重を計ることができるデバイスです。伊豫さんによると、猫の中には泌尿器系の疾患を持った個体が多く、排泄の情報が体調管理につながるとのこと。毎日の体重の変化も記録できるので、もし元気がなくなってしまった場合の原因究明にも役立ちます。

そのため、猫のトイレにまつわるペットテックは他社からも多種多様なアイテムがリリースされています。その中で、Catlog Boardはどんな特徴のある製品なのか。そのこだわりを伊豫さんに尋ねてみました。

「猫様にとってトイレはとても神聖な場所です。なので、人間の都合で勝手に形状や置き場所を変えたくない。Catlog Boardは、今使っているトイレの下に敷くだけでデータを取得できるように開発しています」

梱包用段ボールは猫様の爪研ぎ場に再利用。

獣医師に健康状態を共有可能なセルフカルテを作れる!

通院レポートはプリント可能。日々記録してきた猫に関する詳細なデータが、文章とグラフでまとめられている。

「私も毎日使っていて、今となってはCatlogがなくてはならないものになっています。社内でも猫様と暮らしているメンバーが半数以上。日々、ユーザーさんからもリクエストが寄せられており、リアルなニーズに応えるべくアップデートは欠かせません」と、資料を取り出しながら説明してくれる伊豫さん。

Catlogでは、今年の5月に記録データを使った通院レポートの作成機能を追加したばかり。現在の症状や日々の変化をまとめて、的確に健康状態を獣医師と共有できるサービスです。

「このレポートがあれば、その日だけでなく普段の行動と体調の変化を獣医師さんに伝えられます。猫様に異変があった時はパニックに陥りやすく理路整然と体調を説明するのは難しい。PDFで書き出すことが可能なので、通院前にデータを送ってもいいですし、プリントアウトして診察時に見てもらうこともできます。これも飼い主さんから頂いたリクエストを形にしたアップデートのひとつです」

日本から海外へ。Catlogで広がるニャンダフルな世界


80億件以上の膨大な行動データを抱えるCatlog。「そのデータを猫様の予防医療や疾病の検知に役立てたい」と、伊豫さんは未来を見据えます。今後は日本だけでなく、世界中にCatlogを広めていく予定なんだそう。

「私は、無理矢理に寿命を伸ばしたい訳ではなく、猫様と1秒でも長く幸せなひとときを過ごしたいだけ。必要なことだから健康状態や体調不良のことも考えますが、それが目的ではありません。世界中の猫様と飼い主が生活のQOLを上げて、ハッピーに暮らせるお手伝いをしていきたいと思っています」


猫の体調管理に関しては、これまで飼い主さんの感覚に頼ることしかできませんでした。しかし、大切な家族だからこそ、彼らのことをもっと知りたいし、もっと快適にしてあげたい。技術もさることながら、そんな”猫様”への愛が出発点となり、行動や体調を数値化、製品開発につなげました。筆者も一人の猫ラバーとして、猫と飼い主が幸せでいられる時間を増やしてくれるCatlogにはアッパレの一言! 今後もユーザー視点でのアップデートは続きます。その進化から目が離せません。
 
※表示価格は税込みです


写真/伏見早織 文/妹尾龍都

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