好事家・南 貴之のヴィンテージインテリア紀行[古具のほそ道]
仏のアシェット社が英国ホーンビィ社の模型を復刻
まだ見ぬグッドデザインに出会いたい――。そんな想いから世界中を渡り歩き、掘り出し物を見つけては手に入れ、また買い逃しもしてきた南 貴之氏。そぞろ神に憑かれた現代の旅びとがおくる、情熱と偏愛の古物蒐集譚。
中途半端なお手製感が、妙に琴線に触れる
僕がこの鉄道模型に最初に会ったのは、たしかベルギーのマーケットでした。元ネタは古くからあるイギリスのホーンビィ社のものなんですが、これは20年くらい前にフランスの出版社、アシェットが発行していた『TRAIN』という本と一緒に売られていた、言ってみれば付録みたいなもの。
僕は電車とか車にはまったく興味のない少年時代だったんですが、この電車は中途半端なお手製感というか、精巧すぎないところに惹かれて、初めて見かけたときにはもうまとめ買いしていました。
昔のおもちゃって、手作業の部分も多かったろうし、精度的には高くないと思うんですけど、妙に琴線に触れる。このアシェット社によるホーンビィ模型も、たぶん型抜きしたブリキを手で組み立ててると思うんですけど、レールはアルミだったり、貨物列車に載ってる荷物が本物の木でできていたり、コスト的にも今だったら絶対やらないような作り方で、眺めているだけで楽しめます。
モノが好きな人たちって用途や機能に気を取られがちだと思うんですが、ただ“見ていて気分がいい”っていうのも立派な機能。正直、僕はホーンビィにマニアックな造詣はまったくなくて、どれくらい価値があるのか知らないけれど、アシェット社のこれは、飾るに足るクオリティがあることは感じます。本当に子どもに見せてあげるべきは、こういうおもちゃなんじゃないでしょうか。(南 貴之)
「古玩具 大人コドモが 夢のあと」
BRAND:HACHETTE
ITEM:Model Railways & Train Sets
AGE:about 20 years ago
コースを自由に決められるアルミ製レールの上を旅客や貨物など、様々な車両を組み合わせた列車が走る、欧州を代表する鉄道模型のひとつ。先頭車両はゼンマイ付きで自走できるのも魅力。
DETAIL
アシェットが発行した『TRAIN』誌に同梱されたモデルは、専用の赤い紙箱が付属。味わい深い色使いやフォントを忠実に再現。
車両は様々な組み合わせで連結が可能。事業用車両は荷台が可動式だったり、貨物は取り外せたりするなど、ギミックも多彩で楽しい。
南 貴之
1976年生まれ。国内外ブランドのPR業、グラフペーパーやヒビヤ セントラルマーケットの主宰など、型にはまらず活動する。有名・無名を問わず、秀逸デザインの家具や道具に目がない。
※掲載アイテムは本人私物です。
[ビギン2020年5月号の記事を再構成]写真/若林武志 文/今野 壘