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WBC2023 準々決勝のマウンドにあがる投手 大谷翔平

Photo by Getty Images

長打力or機動力? 大会前年の選手成績からその比重を推し量る

今回で5回目を迎えるWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)。日本代表「侍ジャパン」は、大谷翔平(エンジェルス)、ダルビッシュ有(パドレス)など、第一線で活躍中のメジャーリーガーが多数参戦する。国内のメンバーも限りなくベストに近い精鋭が集まり、「歴代最強のドリームチーム」との呼び声が高かったが、その評判どおり予選を勝ち抜いて決勝に進出。道のりは決して楽なものではなかったが勝負強さを発揮して、2009年以来の世界一まであと一歩に迫っている(3月21日時点)。

ところで、過去、侍ジャパンは、WBCにおいて、世界有数の技術力を誇る投手陣と手堅い守備力を柱に据えてきた。

一方、攻撃面では、ヒットの連打や長打によって大量点を狙うよりも、走塁や手堅い犠打を駆使して泥臭く1点をもぎとる「スモールベースボール」を掲げ、第1回(2006年)、第2回(2009年)と連覇を果たした。

だが、その後、第3回、第4回は、準決勝で惜敗し、勝利の美酒を味わってはいない。14年ぶりの世界一を目指す今大会は、どのようなスタイルで挑むのだろうか?
ここでは、招集した選手が前年に記録した成績をもとに、ちょっとした“数字遊び”のノリで、大会ごとの攻撃バランスを調べてみた。

正直、計算の法則や根拠を綿密に検証した「セイバーメトリクス」のようなものではない。

攻撃スタイルのバランスが判別しやすいと思われる本塁打(=長打力)、四球と三振(=選球眼)、盗塁と犠打(=スピードと手堅さ)の各選手の数字を国内外を問わずチームで合計。1人あたりの平均値にしたものを、第1回大会(2006年)を基準にしてグラフ化し、その形を大会ごとに比較して判断するという、結構な力技での判定になる。

とはいえ、それぞれの大会における侍ジャパンが、「何に比重を置いて得点をとろうと目論んでいたのか?」は、大まかながらも視覚的に読みとれるだろう。はじき出された結果を五角形のグラフにしたのが、以下に示したものだ。

侍ジャパン WBC大会の攻撃バランスグラフ(全体)

この図では、さすがに情報が入り乱れてわかりにくいので、基準である第1回(2006年)と各大会のみの線を抜き出した図によって、それぞれの特徴を紹介していこう。

第1回大会から第4回大会までの攻撃バランスの変化

まず、基準となる第1回大会(2006年)についてのみ、イメージしやすいよう、詳細な選手名と数字を挙げて紹介したい。

この大会で長打への期待が込められていたのは、前年パ・リーグ本塁打・打点の二冠王に輝いた松中信彦(ソフトバンク/42本塁打)をはじめとして、同じくセ・リーグ本塁打王の新井貴浩(広島/43本塁打)以下、小笠原道大(日本ハム/37本塁打)、多村仁志(横浜/31本塁打)、岩村明憲(ヤクルト/30本塁打)、福留孝介(中日/28本塁打)、和田一浩(中日/27本塁打)といった、スラッガーの名が続く。

そして、盗塁数が多かったのは、西岡剛(ロッテ/41盗塁)、イチロー(マリナーズ/33盗塁)、青木宣親(ヤクルト/29盗塁)、川﨑宗則(ソフトバンク/21盗塁)の4人。「スモールベースボール」は日本のお家芸という意識が先入観として刷り込まれていながらも、案外長打を打てる選手を数多く揃えていたという印象だ。

それに対して、第2回大会(2009年)から前回の第4回大会(2017年)までの攻撃バランスを一気に比較してみると、以下の3つの図のとおり。

侍ジャパン WBC大会の攻撃バランスグラフ(02-04回大会)

第2回大会は、片岡易之(西武)が前年50盗塁を記録していて数が突出していたこともあり、盗塁のバランスが際立っていた。にもかかわらず、犠打数は逆に大きく数字が減っており、バントのような小技にはあまり頼ろうとはしていなかったようだ。

外国の投手は日本国内に比べて投手のクイックモーションが比較的遅いといわれており、そのあたりを意識して走力を突破口にしようとしていた意図が読みとれる。

そして、第3回大会(2013年)は本塁打のバランスが極端に落ちているのが目立つ。しかし、これには国内の事情が若干絡んでいて、前年の2012年は飛距離が極端におさえられた「統一球」が導入されていたのだ。

そのため、両リーグの総本塁打数自体が激減しており、侍ジャパンの中でも前年20本塁打以上だったのは、阿部慎之助(巨人/27本)と中田翔(日本ハム/24本)の2名のみ。このボールがそのままWBCでも使用されることを懸念してか、選ばれたメンバーを照らし合わせると、坂本勇人や長野久義(ともに巨人)や、糸井嘉男(オリックス)といったパワーも俊足も持ち合わせている中間的万能タイプが増えていた。三振が少ないバランスになっているのも、そのためだろう。

どの打順からでも、足技を仕掛けやすいオーダーを組むことができたことで、あと1アウトで台湾戦敗退危機から鳥谷敬(阪神)が仕掛けた二塁盗塁や、準決勝プエルトリコ戦で勝負の分岐点となった重盗失敗など、「スモールベースボール」で活路を見出そうとしていたことが招集メンバーの前年成績からも読みとれる。

それが第4回大会(2017年)になると、再び第1回大会時に近いバランスになっているのが面白い。四球がやや割合が高くなっているのは、出塁率がより重要視されるようになった流れか。

筒香嘉智(横浜/44本塁打)、中田翔(日本ハム/25本塁打)といったパワーヒッタータイプが打線の柱ではあったが、山田哲人(ヤクルト/38本塁打)、鈴木誠也(広島/29本塁打)のような長打を打てて盗塁もできる選手も多く、準決勝でアメリカに敗れたとはいえ、チーム全体として均整のとれた攻撃バランスになっていた。

栗山監督が目指す今大会での攻撃スタイルがみえた?

こうした流れを経て、いよいよ今大会である。以下の図をみてほしい。ちなみに、大会直前に故障により出場を断念した鈴木誠也(カブス)に代わり、牧原大成(ソフトバンク)が追加招集されたことを受けて、急遽、最新のグラフ(右側)も制作したが、比較したところ極端に大きな差異はみられなかった。

侍ジャパンWBCの攻撃バランスグラフ(05回大会)

このグラフにおいて、細かい数字の優劣はあまり大きな意味をなさない。そのため、今大会は、長打力のある打者を多数揃えた第1回大会に近いバランスのようだ。
だが、盗塁の比率だけが極端に低くなっている。このあたりは、第4回とは大きく違う特徴ではないだろうか。

このバランスをみる限り、侍ジャパンの指揮をとる栗山英樹監督は、正面からぶち当たって打撃戦を制するつもりのようだ。まるで、「いざとなったら走って活路を見出そう」という中途半端な退路を自ら遮断したかのような攻撃バランスである。

いや、実際そう考えたとしても、否定する理由はない。投手陣はもともと世界トップクラス。そこに、ダルビッシュ有もいる。加えて、メジャーリーグでホームラン王争いを演じた大谷翔平が打線の中心にいる。これまでのように、「国外でプレーしてみたら違った」というギャップを心配する必要はないのだ。しかも、その大谷は、先発投手としてもメジャーで十分な実績を挙げている二刀流でもある。

もちろん、日本がこれまで歴史を重ねて身につけた「スモールベースボール」を完全に捨て去るわけではないだろう。代表メンバーの中には、盗塁のスペシャリストとして定評のある周東佑京(ソフトバンク/22盗塁)や中野拓夢(阪神/23盗塁)がいる。他にも源田壮亮(西武)、山田哲人(ヤクルト)など、ごく数人の走れる選手には、ここぞという窮地で盗塁のサインを出す可能性はある。

だが、極力、そういう厳しい決断をする場面を迎えることなく、普通に「投手が抑えて、打つべき人が打って勝つ」という、侍ジャパンの新らたなスタイルに挑もうとしているのではないだろうか。そのような横綱相撲で世界一になるのなら、ぜひみてみたい。期待に胸を膨らませながら、勝負を分ける決勝戦を迎えることになりそうだ。

『WBC2023 メモリアルフォトブック』二刀流で活躍する大谷翔平を筆頭に、ダルビッシュ有、吉田正尚などのメジャーリーガー、日本球界からも三冠王の村上宗隆、2年連続沢村賞の山本由伸、さらに米有力誌が発表した「WBCプロスペクト・ランキング」で栄えある1位に選ばれた “令和の怪物” 佐々木朗希などが揃った史上最強の「ドリームチーム」で強豪国に挑んだ日本は見事3度目の世界一に輝きました!

そんな侍ジャパンの活躍を豊富な写真と文章で一冊に閉じ込めた『WBC2023 メモリアルフォトブック』を3月27日(月)に発売。

発売日:2023年3月27日(月)
定価:1,200円(税込)
発行:株式会社世界文化ブックス
発行・発売:株式会社世界文化社
https://www.amazon.co.jp/dp/4418231110(予約受付中)

 

 

フリーライター
キビタキビオ

《野球をメインに媒体の枠を超えて活動》
2003年より専門誌『野球小僧』(現『野球太郎』)の編集部員を務める傍ら、様々なプレーのタイムを計測する「炎のストップウオッチャー」を連載。12年にフリーとなり、インタビュー、データ、野球史の記事や選手本の構成など幅広く担当。『球辞苑』(NHK-BS1)にも出演中。

文・図表作成/キビタキビオ

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