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数年の間に世界を一変させる可能性を秘めているDXにフォーカスする連載「プロジェクトDX」。時代の変化やニーズに、DXを通じて見事に応える、優れたサービスの開発者やその現場を訪ね、未来を変える可能性やそこに込められた思いを紹介していきます。

ランチを手軽に済ませようと立ち寄ったコンビニで、おにぎりの品質を心配した経験はありますか? 日本に住んでいると労せずして安心安全な食べ物を購入できますが、実はそれってスペシャルなことなんです。

今回のDXプロジェクトでは、日本酒業界に新たな品質保証の術をもたらしたサービス「SHIMENAWA(しめなわ)」について紹介します。

プロジェクトDX 〜挑戦者No.2〜SBIトレーサビリティ社のトレーサビリティ・サービスSHIMENAWA

SHIMENAWA
COVID-19のパンデミック後、世界中の人々が“食品の安全性”に対して、これまで以上の注意を払うようになりました。誰によってどんなふうに作られて、どのような流通経路で自分の手元に届いたか。近年、物品の生産から消費までの流通経路を追跡できるようにする“トレーサビリティ”という言葉もよく聞くようになりました。

その背景には、世界的な食品偽装の問題も影響しています。日本産の食品も例外ではなく、一部では産地を偽って販売されるなどのケースも。なかでも問題となっているのは、日本酒のすり替え被害。海外では、ブランド力の高い銘酒の空き瓶を利用して別の酒を“本物”として販売、不正に利益を得る業者が存在するのです。その状況に頭を抱える名門の酒造会社に、デジタルの力で問題解決の一手を提供したのが、トレーサビリティ・サービスSHIMENAWAです。

SHIMENAWAは、“ブロックチェーン”と“ICタグ”を組み合わせ、日本酒が持つ有形無形の価値を最大化するサービスです。ブロックチェーンとはデータの改ざんや不正を防ぐテクノロジー技術。ICタグは小型の電子装置で、これにより物理的資産(この場合は日本酒)に固有IDを付し、その資産にかかる重要な情報などをブロックチェーンに書き込む際の入り口としての機能も持ちます。

何気ない友人とのひとときが着手のきっかけに

SBIトレーサビリティ株式会社 代表取締役 輪島智仁氏

サービスを考案したのは、「SBIトレーサビリティ」の輪島さん。大手保険会社の出身で、IoT(さまざまなモノがインターネットに接続され、情報交換することで相互に制御する仕組み)を取り入れた自動車保険サービスを業界でいち早く立ち上げました。

「リアルタイムで走行データを入手できるため、過去データと合わせれば、事故を未然に防ぐアドバイスができる。テクノロジーを使ったリスクヘッジに将来性を感じたんです」と輪島さん。新規事業開発の経験とセンスを生かし、会社を起こしたのは2021年のこと。SHIMENAWAのアイデアは「友人とのランチタイムに思いついた」のだそう。

「トマトスパゲティを食べながら、『叔父が稲作農家で輸出の販路を広げるのに苦労している』と相談されて。詳しく聞くと、使用してもいい農薬の種類が国によって違ったり、米が日本産である証明をすることすら一筋縄ではいかないらしく、大変そうだな、と。タイミングよく、私がブロックチェーンについて勉強中だったので、何か力になれるかもと思ったんです」

米を対象にサービスが始まったSHIMENAWA。日本酒にシフトチェンジしたのは、ブロックチェーンだけでは品質の担保が難しかったから。というのも、ブロックチェーンは情報を不規則な暗号値に置き換えて、ネットワーク上で正確に管理する技術。そのため、そもそも、入力する内容自体が虚偽だった場合は元も子もありません。

そこで、輪島さんは海外の前例を参考に、ブロックチェーンとICタグのペアリングを実行。それにより人を介さず、電波や磁界を利用して情報をブロックチェーンに入力でき、セキュリティがさらに高くなりました。しかし、その分サービスにかかるコストは数十円ほど増加してしまいます。米の場合、数円のコストでも利益に大きく関わるため、お米と関連する日本酒業界に参入することになったというわけです。

スマホをかざすだけ。簡単に誰でも情報を確認できる

ICタグを内蔵した日本酒のラベル。※シールには種類があります。

消費者である私たちは、スマホを用意するだけで、その日本酒が正規品(本物)かをチェックでき、さらにその特徴や、作り手の顔、酒造りのこだわり・ストーリー、流通経路などの情報を確認することができます。

ラベルに仕込まれたICタグには、一枚一枚にデジタルシリアルコードが割り振られており、同じ銘柄でも瓶ごとに識別することが可能です。ラベルにスマホをかざすと、それに紐づいた情報が瞬時にスマホの画面に表示されます。交通系ICカードと同じく、近距離無線通信技術を搭載しているので、アプリのダウンロードも不要です。

「まったくの新参者でしたので、当初は酒造の方々にサービスの価値を伝える場を設けるだけでも大変でした。ですが、中身のすり替えや偽装販売など、業界の抱える問題は深刻でしたので、いざ老舗の蔵元さんにご提案してみると、興味を持ってもえました。さらには、手塩にかけた日本酒をおいしく呑んでほしいという思いから、本物の証明だけでなく、開封した日付もお知らせしたいとリクエストをいただいたんです」と輪島さんは当時を思い返します。

リクエストを受けて、輪島さんは“タンパー”という電線をICタグと組み合わせることで開封を記録するアイデアを思いつきました。ボトルのキャップを外してラベルがちぎれると、その日時と場所をICタグからスマホを経由してブロックチェーン上に記録。すでに開封済みの日本酒を私たちが呑む際も、スマホをかざせば鮮度を確かめることができます。個人情報保護の観点から、ピンポイントで場所が特定されたり、デバイスの情報が読み取られたりする心配もありません。

さらに、この機能が加わったことでマーケティングの観点からもSHIMENAWAに引き合いが殺到するように。例えば、海外の旅行者が空港のお土産売り場で日本酒を買ったとして、それがどこの国で開封されたのかわかるようになったので、海外シェアを広げる際の参考データとして有益です。

銘酒のラベルにも取り入れられている


SHIMENAWAは昨年ローンチしたばかりのサービスですが、すでに10社以上に採用されています。先陣を切ってこのサービスを導入したのは、1860年(万延元年)創業の老舗「加藤吉平商店(かとうきちべえしょうてん)」。国賓を招く晩餐会や国際的な行事に並ぶ日本酒「梵(BORN)」の醸造元で、代表銘柄である「梵・超吟」「梵・夢は正夢」は、日本の酒文化の象徴として世界108か国に輸出されています。

日本酒から地方を元気に!


2021年4月に創業したばかりの「SBIトレーサビリティ」は、地方創生に力を注ぐSBIグループの所属。輪島さんはSHIMENAWAを通して、「日本酒をトリガーに地域経済の成長に貢献したい」と事業拡大に意欲を示します。

「どの酒造会社さんも歴史があって、まさに日本の文化そのもの、地域そのものだと思うんです。しかし、日本の人口減少やZ世代のアルコール離れの影響もあり、多くの酒蔵が廃業している現状がある。新しいマーケットを創造するためにも、このサービスが一助になればうれしいです」

輪島さんが見据えるのは、日本酒の海外市場でのシェア拡大に貢献すること。さらにSHIMENAWAのサービスをパワーアップさせるべく検証を続けています。

「本物を証明するだけじゃなく、価値を伝えるサービスに育てていきたいです。今後は商品説明や製作ストーリーを伝える読み物コンテンツも、品質データに盛り込む予定です。デジタルの世界なら、言語の問題もきっとクリアできる。日本酒業界が拡大・発展すれば、地域の未来も明るくなるはず!」

日本文化と世界の懸け橋となる、トレーサブルなデジタルテクノロジー

注連縄(しめなわ)には、神様が降りた神聖な場所を示す役割があります。不浄なものや悪霊を寄せつけないパワーを持っているとされ、まさにこのサービスに最適なモチーフといえましょう。ですが、取材を通して、筆者はそれ以上の親和性を両者の間に感じました。細い藁を編み上げて一本の太い縄を作り上げる注連縄作りがごとく、SHIMENAWAは日本酒と世界を交差させ日本のカルチャーを広く未来へ繋いでいくはず。今後のアップデートにも注目です。


写真/大見謝星斗 文/妹尾龍都

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