「70年代から見た未来のデザインに今また惹かれます」
漫画家 江口寿史さん
90年代は雑誌を読んでは物欲を掻き立てられてました。なかでもビギンは、買わなきゃいけないと煽る熱い記事が多くて楽しかったな。
デニムにしろスニーカーにしろ、ボクは長くつきあえる定番アイテムが好きで、そういうのばかり買い足してるからモノが増える一方なんですが(笑)、そんな嗜好もビギンで刷り込まれた気がしています。当時、編集部が洒落で作って誌面で抽選販売していた「インキピオー」というレブリカ時計も3本持ってます。
そんなわけで昔は時計の情報ももっぱらビギンから得ていて、まず夢中になったのがスウォッチ。自由なデザインに痺れ、200本くらい買ったかな。安くてバリエが豊富だからいけないよね(笑)。
続いてGショックを集め出し、地方に行ったときに街の小さな時計店をのぞいて、掘り出しモノを探したこともありますよ。
そのあと奥さんから中古のエクスプローラーⅡを贈ってもらったのをきっかけに自動巻き時計に興味が移り、オメガのスピードマスターなんかも買って。
チュードル、あ、今はチューダーって言うんだっけ。チュードルサブとかバラチューとか5本ほど持っています。昔のチュードルはリューズにロレックスの王冠マークが入ってたりして、雑な感じがあってよかった。
今は国産の時計、とくに70年代のアンティークにハマってます。最近の時計はクルマと同じで、洗練されすぎていて画一的に見えてツマンナイ。その点70年代の国産は個性的デザインの宝庫。あの時代から見た未来というのかな。今の目で見ても新鮮だし、なんかダサカッコイイんだよね(笑)。
昭和レトロブームもあって、最近この時代のモデルが復刻されて若い人に人気みたいだけれど、その気持ちもわかりますよ。
ちなみに、一番思い出深い最初の時計はセイコーのデジタルウォッチ。漫画家デビューのお祝いに親父が買ってくれたもので、当時はこれを机に置いて必死に原稿を描いてました。
今回イラストに描いたクロノグラフはいずれも2年ほど前にヤフオクで購入。2本ともボクがデビューした頃に作られたものです。この時代の時計は、デザインも機械も一生懸命作っている感じがして愛おしいんだよね。
そういえば、いろいろ時計を集めてきたくせに、高級ドレス時計は一本も買ったことがない。最近のギラギラしたフルスケルトン時計もない。ステイタスとして時計を持つのが嫌いなんですよ。
漫画家さんにはすげぇー高い時計を集めてる人もいるけれど、ボクが魅力に感じるのはちょっとポップで、基本デニムに合う時計。資産価値目線も全然ありません。
だってそんな目線で時計を選んでも楽しくないじゃない? こういう考え方、ビギンの読者ならきっとわかってくれると思うんだけどな。
1970s セイコーのパンダ/角目クロノ
江口さんのコレクションうち、特に思い入れの深いセイコーの2本。ともにセイコー5スポーツ スピードタイマーで、右は75〜76年製の通称“パンダ”。左は77〜78年製の通称“角目”。希少モデルのため手に入れにくいが、パンダの現在相場は15万円前後、角目の現在相場は25万円前後(編集部調べ)。
漫画家
江口寿史(えぐちひさし)
1956年生まれ。77年に週刊少年ジャンプで連載を開始した『すすめ!!パイレーツ』で一躍人気に。81年連載開始の『ストップ!!ひばりくん!』も大ヒット。その後イラストレーターとしても幅広く活躍中。
[ビギン2023年2・3月号の記事を再構成]イラスト/江口寿史 文/吉田 巌(十万馬力)