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時代のニーズや変化に応えた優れモノが日々誕生しています。心踊る進化を遂げたアイテムはどのようにして生み出されたのか? 「ビギニン」は、そんな前代未聞の優れモノを“Beginした人”を訪ね、深層に迫る企画です。

山勝染工の染め替えサービスでよみがえったシャツ

山勝染工の染め替えサービス「カラーリング」でよみがえった黒Tシャツ。新品に見えますが実は…

染める前のシャツ

染める前はこんな状態でした。

環境省が行なった衣類の利用調査によると、日本国民は、年間通じて1度も着なかった服を一人平均25枚所有しているそうです。そんなにあるかなと半信半疑で押入れを確認したところ出るわ出るわタンスの肥やし…。いつか袖を通すかもと考えたり、高かったから手放すのがもったいなかったり、特別な思い出があったり。処分できない服っていつの間にか増えていきますよね。そんな衣類の退蔵品を伝統技法で生まれ変わらせるのが、今回のビギニンです。

今回のビギニン

山勝染工株式会社の代表取締役 中村 剛大

中村 剛大さん

1977年、名古屋市生まれ。大正8年に創業した山勝染工株式会社の代表取締役。大学卒業後、別の道へ進むが父の急逝をきっかけに家業に入る。現在は、四代目を継いだ実弟の中村友亮さんと二人三脚で江戸時代から続く染め技術の継承・発展に尽力。400年の歴史がある伝統的工芸品・名古屋黒紋付染を守りながら、アパレルブランド「中村商店」を立ち上げ、洋装の分野にも挑戦。CMや映画の衣装等製作を行うほか、ホテルやカフェの内装も手掛ける。

Idea:
3代目の父が急逝。家業に入るも着物業界は深刻な状態で…

山勝染工株式会社

1919年創業の山勝染工。手前がオフィスで奥は染工場になっている。

名古屋城から西へ約250メートル、江戸時代から侍屋敷を中心に城下町として栄え、現在はベッドタウンを形成する城西地区の一角に、山勝染工はあります。一見、近代的な建物ですが奥は工房になっており、100年以上の歴史を持つ伝統技法で染色を行っています。

「10年程前に父親が亡くなり、4代目を継いだ弟から手伝って欲しいと言われ戻ってきました。以前、私はサラリーマンでその時から伝統産業は厳しいと聞いていたんですが、実際、帰って来たら思った以上に大変なことになっていましたね」

山勝染工は、元々、顧客の望む色に着物を染める無地染に特化した染元です。なかでも黒色は、漆黒と称されるほどブラックの濃度が高く、白く残した部分に家紋を描く名古屋黒紋付染(なごやくろもんつきぞめ)は、経済産業省から伝統的工芸品の認定を受けています。

名古屋黒紋付染

名古屋黒紋付染は、江戸時代初期の1611年頃に尾張藩が作った旗印やのぼりがルーツで、江戸時代の250年間を通じて発展し、江戸時代後期に藩士から庶民へ広まりました。近代になると結婚式や葬儀で着用される礼装用和服として定着。最盛期は染め物の街と呼ばれ、名古屋市内には100件を越える染物屋があったといいます。しかし中村さんが家業に就いた2010年代には着物需要の減少や後継者不足で、一桁まで落ち込んでいました。

山勝染工株式会社の代表取締役 中村 剛大

「私たちのピークって昭和40年代後半の頃だったんです。サザエさんを思い出してください。波平さんやフネさんの普段着は着物ですよね? 畳の上にちゃぶ台を置いてテレビがあって家族みんなで正座してご飯を食べる。あの時代まで女性は嫁入り道具として、男性は成人式で黒紋付を作っていました。今は、礼服が洋装に変わり一般の人からの受注はほぼ皆無。三味線奏者や、能・狂言、あと落語家さんといった伝統芸能のニーズがほとんどになっているんです」

Trigger:
伝統技術を現代にアップデート、自社ブランドと染め替えサービスを立ち上げる

中村商店の手ぬぐい

自社ブランド『中村商店』の手ぬぐい。400年以上の歴史がある名古屋黒紋付染の技を受け継ぐ職人が、手作業で丁寧に染め上げている。名古屋城のシンボルである金鯱がトレードマーク。

社会が転換期を迎え、着物や黒紋付が日常から消えていくなか「伝統を守るには変化が必要」と考えた中村さん、時代に則した新たなる染めの可能性を探求し、2014年、自社ブランド「中村商店」を立ち上げます。

「名古屋黒紋付染といっても、ほとんどの人はイメージできません。なので、まずはどんなものか知ってもらおうと考え、“山勝染工の黒”をTシャツや手ぬぐいにして商品化したんです」

着物の代表的な素材が絹なのに対し、Tシャツは綿で、使う染料が変わります。染色のプロセス、温度や時間といったレシピも異なるため、職人さんと様々な黒を試したそう。トライアルアンドエラーを重ね、違う素材でも山勝染工の漆黒が表現できたという「中村商店」のアイテム。他社製品と並べると黒の違いがはっきりわかります。

「着物をドーンと見せるより、こんなことも出来ますよって身近な物で提案したほうが伝わるかなと。実物を手に取って『黒い!』とか『面白い!』と思っていただいて、日本の伝統工芸に興味を持つきっかけになれば。それが私達が残っていく第一歩なんです」

受け継がれてきた染色技術を現代にアップデートする。アパレル事業と同じコンセプトでスタートしたのが今回のトピック、衣類の染め替えサービス「カラーリング」です。

山勝染工株式会社の代表取締役 中村 剛大

「これも2014年のことなんですが、経済産業省が行うマッチングビジネス事業に参加して、外部のデザイナーさんと話す機会があったんです。そこで、色落ちしたり汚れて着られなくなった服を染め替えるサービスがあればいいんじゃないかというアイデアが出まして」

着物には古くなったら直して使うという習慣があります。シミが付いたら全体の色味を調整して目立たなくしたり、年齢に合わせ落ち着いた色目に染め直すことも珍しくありません。中村さんは、そうした着物文化を現代に翻訳しようと考えます。

後編:黒をより深くする隠し味の赤、染めとカレーの共通点 に続く

山勝染工の染め替えサービスでよみがえった黒Tシャツ

色落ちちや汚れてしまったお気に入りの服をクリーニングするように、職人の伝統技術で染め替えもう一度袖を通す。山勝染工が提案する「カラーリング」。Tシャツは3300円〜、パンツやスカートは4400円〜。綿・麻・絹など天然素材の衣類で利用可能です。

(問)山勝染工 https://yamakatu.co.jp/staining

1月18(水)より、Begin FUNDINGでも特別メニューによる染め替えサービスを受付中。第1期は3日間でSOLD OUTしてしまったので、ぜひお早めにチェックください! 第2期の受付期間は2023年2月20日着分まで。

Begin FUNDING https://market.e-begin.jp/collections/beginfunding

※表示価格は税込


写真/平井俊作 文/森田哲徳

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