string(38) "https://www.e-begin.jp/article/364362/"
int(1)
int(1)
  



Vol.3でお伝えした『米富繊維』。同じく山形県山辺町にあるじゅうたんメーカーが『オリエンタルカーペット』だ。『米富繊維』からは徒歩15分くらい。12日の山形旅で2つも本物のモノづくりに触れ合えるなんて贅沢すぎ! 日々の何気ない日常を豊かにする、“足もとからのおもてなし”の現場の魅力をお伝えします。


一見世界遺産!?と見紛う社屋が、90年近くにわたってモノ作りを支え続けてきた現場だと知れば、至極自然なことだ。
『オリエンタルカーペット』の前身にあたる『ニッポン絨毯製造所』が設立された理由は、当時、東北を襲った冷害凶作による大不況によって働き口の少なかった若い女性たちが安心して働ける“清潔な仕事場”を作るため。木綿織業を営んでいた創業者・渡辺順之助さんが立ち上がったのだ。5代目としてその想いを受け継ぐ渡辺博明さんに『オリエンタルカーペット』のこれまでとこれからについて話を聞いた。

「1935年の5月1日、北京より7名の緞通技術者を招いたのがすべての始まりです。彼らとは家族ぐるみの付き合いを通しながら、2年2カ月に渡る伝習を経て、国内初となる羊毛を原料とした中国緞通の技術導入に成功しました」。
緞通とは、ペルシャ絨毯と共に、古来より続く世界最高級絨毯の名称。ルーツは中国にあり、中国語の“毯子(たんつ)”を、日本で“緞通(だんつう)”と当て字にしたことからこの呼び名が定着した。「技術導入を経た後、図柄やデザインに関しては日本独自の感性や美意識を反映させることに注力。当時活躍していた様々な芸術家や画家の皆様の力を借りつつ、“純日本風たる緞通”を目指して製作に励みました」。



確実に日本の緞通メーカーとしてステップアップを続けていたなか、第二次世界大戦が勃発。
原料となる羊毛どころか、綿屑ですら手に入らないという危機的状況に陥った。しかし、知恵と工夫を凝らし“葛の木”の根を原料として紡績した糸「アニプラントヤーン」の開発に成功。それを用いた手織緞通が、GHQのマッカーサー指令室に納入されたり、軍服を裁断&反毛して糸へと紡いで製作された手織緞通が、帝国ホテルへ納入されたりと、逆境のなかでも発展を続けた。
戦後は、待ちに待った羊毛を手にし、海外へ。
1964年には、『バチカン宮殿』教皇謁見の間に手織緞通を納入するに至り、これは山形緞通のモノ作りが世界に認められた快挙だった。

時を経て、2013年に『オリエンタルカーペット』の自社ブランドとして『山形緞通』を公開。
「それまで、大型建築に納入するのが主流でしたが、“より多くのお客様の生活を足もとから支えたい”と思ったのがきっかけです。建築家の隈研吾さんやクリエイティブディレクターの佐藤可士和さん、ミナ ペルホネンのデザイナー皆川明さんなど、様々なクリエイターと製品を共同開発し、現代への生活提案を模索してきました。それはこれから先も変わりません」。

渡辺社長のインタビューをさせていただいた応接室に敷かれたじゅうたんは、約80年モノ。
しっかりとした踏み心地がありつつも、優しく足を包み込む感覚は初めてだった。
『山形緞通』のじゅうたんの価格は、数万円台から数百万円台まで。
それを高いと思うかどうか。
一度この地に足を踏み入れて、体感する価値は十分にあると思った。



北京からの緞通技術者から学んだことを大切に守り続けているのが、この手織工程であり、『山形緞通』の遺伝子だ。
デザインされた方眼紙のような細かい製作図面に合わせて織り上げていく。
この地道な作業を一日数千回繰り返しても、一日で織り上がる長さはなんと・・・数センチ程度!

ここ最近では、山形県内だけでなく、全国各地から若い職人さんたちが集まってきているという。

“安心して働ける清潔な仕事場を作りたい”という想いから社屋に設けられたたくさんの窓。
音のない世界で、黙々と作業するなか、気持ちいい風が通り抜けていった。



クラシックな手織緞通と同等の品質、工芸的な風合いを保ちながらコストと時間の短縮を目指して1965年に導入されたのが手刺緞通。
原寸大の製作図面を基布に転写し、フックガンという専用の工具で羊毛を打ち込み、刺繍のようにじゅうたんを織っていく。
職人さんが工具と一体になり、図面に対しての正確な動作や常に一定の力で打ち込む技術が必要となる。

「手織があるからこその、手刺」と、渡辺社長は言った。
品質を諦めることなく、コストを抑えることで、より多くの人が『山形緞通』のじゅうたんを日常に取り入れられるきっかけとなった。



理科の実験室!?と見紛う染色工房では、羊毛の試験染めや耐摩耗&耐光テストなどを繰り返し行い、製品に合わせたベストな色出しと堅牢性をチェックしている。『山形緞通』が制作した染色羊毛はなんと2万色以上!なんだとか。確かに、同じ赤でも、何十種もの色合いが存在した。

テストが終わったら、高温の染色液に浸しながら糸に色を入れていく。その際、羊毛独特のニオイが工房内に充満するのだが、これも他では味わえない貴重な体験だ。

織りや染色だけでなく、原料となる羊毛の管理・開発からじゅうたんを柔らかくする独自のマーセライズ加工を含む仕上げまで、一貫管理されているじゅうたんメーカーは、日本でココだけといっても過言ではない。0から100まで、すべてに『山形緞通』のプライドが織り込まれているのだ。



工房だけでなく、ミュージアムやショールームなども併設。『山形緞通』のじゅうたんを五感で味わえる、モノ好きのためのワンダーランド! 工房見学の予約はホームページから随時受付中。住:山形県東村山郡山辺町大字山辺21番地 営:9:00~17:00 休:日曜、祝日 
オリエンタルカーペット公式ホームページ 公式インスタグラム
ちなみに、東京ショールームもあるので、関東近郊にお住まいの方はこちらに足を運んでみるのもあり! 住:東京都千代田区東神田1-2-11アガタ竹澤ビル 営:9:00~17:00(土曜は15:00まで)



若いときは洋服に散財し、家族ができてもなお物欲は消えず。
それでもここ最近はやっと生活を豊かにするモノに目が行くようになった。
家族で囲むテーブルだったり、何気ない会話が生まれるソファだったり。
でも、正直じゅうたんはノーマークだった。
ココに来るまでは・・・。
応接室で踏みしめた80年モノの“足の触感”に衝撃を受け、工房を見学すると、
この世界に足を踏み入れざるを得なくなってしまった。
今までに味わったことのない“魔法のようなじゅうたん”は、
空を飛ぶのではなく、これからも人々の足もとを支え続けていく。




shotamatsushima / tomonorimasui

写真/松島星太 文・編集/増井友則

特集・連載「【INSTANT JOURNEY】」の最新記事

魔法のじゅうたん!?を織りなす『山形緞通』とは?

Begin Recommend

facebook facebook WEAR_ロゴ