特集・連載
絶対買えないけど知っておきたい(笑)メンズ腕時計の本家本元
名作オリジン探訪 ヴィンテージ界には、さまざまなブランドから元ネタとして寵愛されている、男服の“オリジン”が存在します。そのどれもが玄人筋から“わかってるねぇ”のお墨付きが得られる名作ばかり。ですが、ここではさらにU-3万円というリアルプライスで買える、優良元ネタ服を一挙にご紹介。安くてウマいオリジンをご賞味あれ〜。 この記事は特集・連載「名作オリジン探訪」#05です。
ここではオリジンを探訪する腕時計を特集。ですが残念ながら歴史が古すぎて、おいそれとは入手できなそう(苦笑)。ただモノ好きたる者、その歴史はかなり気になるはず。ということで軍由来ゆえに異形の姿となった男性用腕時計の誕生秘話に迫ります。
ジラール・ペルゴの軍用時計
ここがオリジン[ベルト付き男性用時計]
じつは軍用由来ってのがウマい!
時は19世紀後半。当時の男性の間ではまだ懐中時計が主流だったものの、武器や通信技術が発達し、戦争のスタイルが変わったことで、戦場における時計の重要度が急増。
敵とやり合う最中に“懐中時計を取り出す→確認する”という2アクションが必要なのは危険すぎでしょ! な〜んて状況を察してか、1880年頃、ドイツ皇帝ヴィルヘルム1世が、スイスの一流時計メーカー、ジラール・ペルゴに海軍将校用として2000個の腕時計の製作を依頼したんだとか。
耐久性を向上させるために網目状の金属製カバーが備えられていたものの、一説によると戦場では使われることなく訓練用だったそうだが、これこそ史上初めて腕時計が量産された瞬間だったとのこと。
男の腕時計のオリジンがじつは軍用だったという背景には複雑な思いがよぎるけれど、戦争のために磨き上げられた性能が一般の時計に転用されたからこそ、腕時計が日用品へと浸透していったのかもしれない。
軍用時計の歴史とは?
ひと口に軍用時計と言っても世界中に軍隊が存在するため、すべて網羅するのは至難の業。ってことで、ここではモノ好きなら絶対に知っとくべきトピックスだけを抽出し、年表形式でご紹介します。アウトラインを押さえて、話のネタとしてストックしときましょ!
1880年頃
ジラール・ペルゴが海軍将校用時計を製作
時のドイツ皇帝ヴィルヘルム1世が、スイスの一流時計メーカー、ジラール・ペルゴに海軍将校用時計の製作を依頼。このとき作られた、腕に巻くための革ベルトを備えた懐中時計こそが、量産された世界で初めての腕時計という説が有力だ。
1889年~1902年(第二次ボーア戦争)
イギリス軍が初めて戦場で腕時計を着用
南アフリカで勃発した第二次ボーア戦争において、イギリス軍の兵士たちが初めて実際に懐中時計を腕に括り付けて戦闘。この姿が広まっていったことで、各国の兵士たちの間で徐々に腕時計の利便性の高さが認識されていくことになったんだそう。
1914年~1918年(第一次世界大戦)
米軍が自国のメーカーと正式契約
20世紀に突入すると無線技術による連絡網が格段に発達したため、戦場では腕時計がいよいよ不可欠に。米軍はハミルトンをはじめとする実力派メーカーに軍用時計の生産を依頼し、いち早く標準支給品として定めていた。
1939年~1945年(第二次世界大戦)
タフな機能派時計が続々登場
この頃になると防塵・防水をはじめとする耐久性や、日付・蛍光・クロノグラフといった実用機能が充実。腕時計は戦場用ギアとしてだけではなく、日常生活においても懐中時計以上に便利なツールとして浸透していった。
1969年~
クォーツによって“使い捨て”できる時計も
セイコーが高精度かつ低コストで量産可能なクォーツ時計を開発したことで、腕時計との距離感がより身近に。末端兵士にまで腕時計が行き渡る要因となった。同時に修理せずに使い捨てにする安価な軍用時計も普及することに。
[ビギン2022年7月号の記事を再構成]文/黒澤正人 イラスト/TOMOYA